【SF小説】 ぷるぷるパンク 第19話 羽田空港襲撃事件【4】

●2036 /06 /04 /23:10 /羽田空港国際線ターミナル屋上


ふたさんひとまる。夜に浮かび上がる青や緑の点線が、クリスマスのイルミネーションのよう。SF映画で見た未来みたいで綺麗だなと思う。夜空を渡る地球そらが、天の川みたいにきらきらしている。 駐機場に列を作った大型旅客機がよく訓練された大型犬のようにお行儀よく規則的に滑走路に入り絶え間なく離陸する。こんなにも多くの人が外国に行ったり、外国から来たりするんだなって、少し感心する。』


「ノルテ。お手紙は終わった?」「まだだよ。もう時間?」「ううん。まだ、ちょっとある。」


 ノルテと呼ばれた少女は、頭部に装着したヴィジョンゴーグルの右側にあるうっすらとした窪みの物理ボタンに指で触れた。ヴィジョンゴーグルがヘルメットのレール越しに自動で上昇し、彼女の深緑色の瞳が露わになった。ぬるい海風が彼女の顔を撫でる。  ノルテに話しかけた黒髪の少女はTokyo International Airpotのサインの巨大なアルファベットの「A」に寄りかかっていた。


「大野は、進路決めたんだっけ?」 ノルテが肩に掛けたベルトに下がる黒光りする短機関銃を撫でながら聞いた。


 大野と呼ばれた黒髪の少女は、風で顔にかかる柔らかい髪を、顔から振り払うのに必死でノルテの質問には上の空だったが、音節だけで記憶していた彼女の質問を、すぐに頭の中で繰り返して理解すると、それに答えた。「私は研究職。ISFのコースに申し込んだの。」「大野らしいね。何を研究するの?」ノルテは研究という言葉に興味を示す。「ぷるぷるパンク。」大野は顔にかかる髪の毛が気になり続けている。「ノルテは?」大野は髪の毛をどうにかヘルメットの左右の隙間に押し込んだ。


「あたしはISFの士官学校だよ。」 ノルテは南の空に浮かぶ地球そらを見上げた。ノルテには双子の妹がいた。妹は生まれた頃から脳性麻痺にかかっていたが、24年に意識を無くしてからはずっと施設で寝たきりになっていた。


 妹は、その頃に突然現れたこの地球環もまだ見たことがないんだなと、ノルテは思う。普段入ることができない空港の屋上にだって、一緒に来ることができない。


 だからこそ、ノルテは手紙を書いている。妹のスールが意識を取り戻した時に、世界とキャッチアップできるように、この地球そらが現れた五歳の頃からずっと手紙を書いている。


「九頭竜くんも士官学校だって言ってたよ。」大野が言った。「大野は羨ましいよ。かわいい彼氏がいてさ。」ノルテの言葉に大野が笑う。「羨ましいなんていう人は初めて。ノルテ、男の趣味悪いんじゃない?」「それ、あんたが言う? 眼鏡君、かわいいじゃん」「眼鏡そのものはね、私が選んでるから。まあ、士官学校でちゃんと鍛えてもらえるといいんだけどね。」「九頭竜くんはすぐに出世するよ、大船キャンプの観音様が選んだ人なんだから。そんな人、他にいないよ。」 大野が肩をすくめると、二人はまるで世界の秘密でも隠しているように、ひそひそと笑い始め、結局それが上官に見つかって怒られることになるまで、大声で笑い続けた。


 ISFー国際治安維持部隊は、2024年以降世界の多くの国々が、国家として最低限の機能を維持できなくなったことで、連邦政府が各国に派遣した軍隊である。 名称通りの治安維持だけではなく、教育や雇用を提供するシステムとして、若年層に対する機会均等を国家に代わって担当することが大きい視点での治安維持として、世界中で受け入れられていた。


 前提として、これは『GRB 240119A』後の世界の話である。 『GRB 240119A』とは、2024年1月19日、日本時間の午前1時3分、世界各地で同時に観測された地球発のガンマ線バースト(gamma-ray burst)のことである。 世界に何百とあるPUNK発電プラントのぷるぷるパンクが一斉に臨界、一瞬のうちに暴発し、地球から宇宙に向けて発せられた閃光は、観測できる宇宙の12%、地球上の18%を消し去り、6億人以上が犠牲になった。


 『GRB 240119A』 地球の歴史上における過去五度の大量絶滅になぞらえ、通称「ビッグシックス」や「C-N境界(Cainozoic- Null Boundary)」 と呼ばれ、新生代の終わりとNull(無効な、意味をなさない)時代の始まりとされている。


 空には液晶モニターのドット抜けのような穴が幾つも空いて、そこから宇宙の果てが見えるようになった。いわゆる「無(Null)」だ。 そして二つある月のうちの一つが粉々になり、そのデブリは土星にあるような環、地球環として赤道上の軌道で安定した。  残された人々は、それを受け入れる他に生きていく術が無くなった。宇宙をも巻き込んだその大災害を、人智を超えた神託的な預言として受け入れ、ただ生きていくしかなかったのだ。


 ノルテがヴィジョンゴーグルを装着する。管制塔の窓にカメラのフラッシュのような閃光が走ると、ノルテと大野は離れた位置で、同時に足元のガラスを割った。「ノルテ。九頭竜くん、平泉寺少尉のチームだからよろしくね。」「了解。」 ヴィジョンゴーグル越しに短い会話を交わすと、それぞれのチームの若い治安維持部隊員たちは二人を先頭に出発ロビーに下ろされたナノカーボンロープを伝い、ほぼ落下しているようなスピードで出発ロビーの地面を目指した。


 ノルテが到着ロビーに降り立つと、第一陣がすでに陣形を整えていた。途切れることのない銃撃音が響く中、ノルテはガラスの破片が散乱する地面にかがんだまま片腕をあげ、後続の兵士にサインを送る。敵が使っているサブマシンガンもMP5だ。当たり前だけど、銃弾に当たったら死ぬ。後続の兵士たちは作戦通りの陣形に向け散開した。


 ことの発端は、三週間前この羽田空港で起こったハイジャック事件だった。 極左の過激派が、日本政府に対し、逮捕拘束されている317名の解放を要求し、離陸体制にあったルフトハンザ航空のボーイング機で人質を取って立て篭もった事件だ。平泉寺少尉率いる少数精鋭の部隊が犯人二人を射殺、二人を逮捕、乗客の一名が銃撃戦に巻き込まれ死亡するも、その制圧に成功している。


 今回の空港襲撃については、いまだ犯行声明が出されていないものの、極左過激派によるその報復と考えられていた。若い治安維持部隊員たちにとって、東京湾岸エリアで頻発する移民や過激派による犯罪の取り締まりや暴動の制圧は日常茶飯事だったが、これほどの規模の大きく命の危険に関わるような作戦はほとんどの者にとっては初めての経験だった。


 ノルテが銃撃をさけて搭乗カウンターの影に入ると、そこでは上官の平泉寺少尉がカウンターの端から向こう側を伺っているところだった。「平泉寺少尉。第二陣、第一種戦闘配置についています。」「上出来、ノルテ。嶺軍曹。ちょっと様子を見る。多分、」平泉寺が目を離さずにそこまで言うと、エレベーターの付近で爆発が起こった。


 ISFの少年少女たちの間に動揺が走る。続けて北側の保安検査場、中央のFカウンター付近で連続して爆発が起こる。 前後左右の関係ない爆発に、自分たちが敵陣のど真ん中にいることを実感した若者たちは蜘蛛の子を散らすようにコントロール不能状態に陥った。ヴィジョンゴーグル越しに視界の中に、PUNKのハザードマークが黄色く点滅し始めたのも原因だろう。 渡小舟は、まさか自分がいる後方支援の部隊が、この戦場の前線の一つになるとは思ってもいなかった。次々と運ばれてくる負傷者が普段の制圧作戦とは桁が違っていて、しかも瀕死に近いことも緊張感を煽る。


「芦原中尉。ハザードマーク出てます。総員退避を!」大野が叫んだ。「これは、やばいねー。」芦原の反応は、大野の焦燥感とは真逆だった。「ぷるぷるパンクの兵器化を研究してる連中がいるって噂を耳にしたけど、もしかして、今日来ちゃう?」「中尉!」「そうだね、芦原班散開、総員中央の保安検査場に集合。動けないものは平泉寺班に任せて動けるものだけ移動せよ。」 この僅かの間に、視界に入る範囲の中だけでも、多くの仲間が銃弾に倒れて散っていった。


 その時だった。救護エリアに、頭を撃たれて意識を失った状態の九頭竜荒鹿が小舟の元に運ばれてきた。救護班の何人かで九頭竜を担架に移す。小舟は九頭竜のダメージを受けたヘルメットをできるだけそっと外し、怪我の状態を確認する。


「右側頭部耳介後上方に径2cmの銃槍。反対側に射出口は無し、盲管銃創。意識レベルはGCSでEVM各1点、JCSは300の深昏睡。脈拍93/分、呼吸数32/分、血圧70/-mmHg。瞳孔は左3mm、右6mm。両側とも対光反射は消失も、自発呼吸は保たれている。直ちに静脈路確保と気管挿入が必要ね。」 小舟は、ゴーグルの中で簡易カルテを作成する。


「荒鹿くん。今、大野さん呼んできてもらってるよ。ほんとはよくないんだけどね。こういうことするから恋愛禁止みたいな空気が生まれちゃうんだよね。でも、大丈夫。内緒にしとくから。大変な時は好きな人と一緒にいるのが一番だから。」


 小舟は昏睡状態の幼馴染み、九頭竜に話しかけ続ける。自分の言葉が九頭竜の意識に届く可能性を考えてのことだったが、声を出し続ける本当の理由は自分の動揺を抑えるためだった。


「覚えてる? 荒鹿くん。私たち地球ちきゅうがないころは毎日一緒にいたんだよ。大野さんがやきもち妬いちゃうね。あのころは毎日世界を救うって言ってたね。荒鹿くんは気づいてないかもだけど、きっと荒鹿くんが救った世界もあるよ。荒鹿くん。荒鹿くん。」小舟の頬に涙が落ちる。


「待って、泣いちゃダメ小舟。荒鹿くん。荒鹿くんは、大船の観音様好きだよね。それって変わってると思う。でもだから、観音様も応えてくれたのかもね。そうだ、初めて買ったレコード覚えてる? レコードなんて見たことなかったのに、鳴鹿ちゃんも変わってるよね。古いレコードプレーヤーを突然拾ってきちゃうんだから。荒鹿くんはNirvanaのレコードを買ってたね。鎌倉のレコード屋さん。小学生の時だよ。荒鹿くん。変わってるよね。大丈夫。荒鹿くんには観音様がついてるから。」


わたりさん! ありがとう。」息を切らして大野が到着した。「大野さん、共有開いて。これ、簡易カルテと、外で待機してるV-280・ティルトローターの座標。私の母がいるはずだから。搬送ドローンを呼んだから荒鹿くんを連れて行って。」「ありがとう。わたり先生ね。」「こっち。」小舟が大野を荒鹿の担架まで案内する。 大野が横たわる荒鹿に駆け寄った。彼女は荒鹿の側にかがみ込むと、首元に手を置いて脈を確かめる。「九頭竜くん! 九頭竜くん!」ほとんど叫ぶように、彼女は荒鹿の両肩を掴んで揺さぶろうとした。「だめ、大野さん、揺らしちゃ。」 大野は突然あふれて止まらなくなった涙を拭った。 離れた場所では乾いた銃撃音が途切れることなく続いている。拭っても拭っても涙が止まらない。 涙を拭うことを諦め、大野は九頭竜に覆い被さり、横たわる九頭竜の唇に、そっと自分の唇を重ねた。


 どさっと勢いをつけて土嚢を地面に投げつけるような重みのある音がして小舟が倒れた。 大野が慌てて立ち上がり小舟に駆け寄る。被弾した脇腹周辺の衣服を剥ぎ取り、救急ボックスから止血スプレーを傷口に向けて噴射するが、まったく間に合っていない。大野は傷口を手で押さえてポンプで押しているかのようにあふれ出てくる血をどうにか止めようとする。 片方の手でポケットからフェンタニルの鎮痛トローチを探り当て、小舟の真っ白な唇の間に押し込む。「おいしい。」血の気が失せて冷や汗が止まらない蒼白の小舟が、弱々しく微笑んだ。「ターニケット!」大野が叫ぶ。動揺して地面に伏せていたミクニが我に帰ってボックスからバンド状のターニケットを取り出して大野に渡した。「大野さん。」「だめ、喋らないで!」「荒鹿くんを、よろしくね。」そう言うと小舟は意識を失った。「ミクニ! 持ち上げて、バンド巻くから!」 ミクニが小舟のかたわらにかがみ込む。「せーの!」「ミクニ、共有開いて! 今からこの座標に二人を連れていく。搬送ドローンはまだ?!」大野は小舟を九頭竜の担架にどうにか載せながら叫んだ。銃弾が飛び交い、天井や壁が剥がれ、血や肉が散らかったこの戦場の中で、戦闘から離れ安らかな顔で眠る二人が、大野にはどうしてか神々しく見える。


「そうだね、二人とも、もう帰れるね。」



●2036 /06 /04 /23:45 /羽田空港国際線ターミナル・V-280待機地点


「先生! 渡さんが!」 大野が白衣を着た女性に向けて叫んだ。 暗い滑走路の一角、V-280のかたわらでドローンに吊られて安定した担架の上に横たわる二人の安らかな寝顔を見て、わたりれんは膝から崩れ落ちた。「小舟!」「脇腹を撃たれて・・・。止血はしてあるんですが、意識が・・・。もしかしたらショック状態かも。」


 渡は気を取り直して、パルスオキシメーターで娘の指を挟み、瞳孔をチェックした。「こっちは。」と大野が言いかけると、それを遮るようにして渡が口を開いた。「荒鹿くん。」渡は手のひらで口元を覆った。それから呼吸を落ち着けて、大野を見た。


「あなたは?」 大野は気を付けの姿勢で敬礼をして答えた。「失礼しました。大野琴軍曹、芦原中尉の中隊所属です。同じく渡小舟衛生兵と平泉寺中隊の九頭竜荒鹿伍長です。」「いいよ、楽にして。この子たちは幼馴染み同士なの。ありがとうね。」「いいえ。」大野は大人に失礼のない程度に少し足を開いた。「私は、九頭竜くんの恋人です。」渡はゴーグルを外して大野を見た。大野もゴーグルをあげて渡を見つめ返した。「一緒に来なさい。」


 金属のパイプやプレート、無造作なケーブルやコード類が剥き出しになった冷たい洞窟のような機内の奥のカーボンウォールの向こう側に、二人が乗った担架が運ばれてしまうと、轟音が響きV-280の両翼の端についた巨大なプロペラがゆっくりと上向きに動き始める。プロペラがゆっくりと回転を始め、加速を続け、プロペラが高速に見えなくなってしまうと、機体の周りに粉塵が舞い上がり、V-280は前のめりになって離陸した。


 大野は小さな窓がある側面のベンチに腰を下ろし、窓の外に目をやった。 空港の建物や高速道路や東京湾の夜景がみるみるうちに小さくなって、さっきまで現実的だった全てが、きらきらとした光の粒々に変わってしまう。


 東京の夜景は、倒れたコップからあふれて流れ出して広がるきらきらしたアメーバのようだった。都市とは有機的に繁栄したり衰退したりする生物なんだなと、ぼんやり考えていた大野は、その光の中に九頭竜を想うと同時に、渡蓮の気持ちを思い量った。


「大野さん。」 離陸後しばらくしてスピードが上がると、カーボンウォールで仕切られた医務エリアから出てきた渡は、立ちあがろうとした大野を手で諌めて、彼女の隣に座った。


「綺麗ね。」小さな窓から外を見つめる渡の言葉に、大野は静かに頷いた。「この光の中のどこかで、まさか機関銃で殺し合いをやっているなんて、誰も思わないでしょうね。」渡は大きくため息をついた。


 渡は大野の膝に手を置いて、今後の計画を話し始めた。


 V-280は予定されていた横須賀の自衛隊病院ではなく、奥越地方のAG-0に向かう。 AG-0とは2024年のぷるぷるC-N境界で消失した北陸地域、日本海と繋がった巨大クレーター湾のほとりの研究所で、ぷるぷるパンクをバーストに導いた研究が行われていた施設でもある。


 重大な脳損傷を負った荒鹿の意識を取り戻す方法は一つしかなく、その施設でしか処置できない。 脳損傷のない小舟は、その施設の最新鋭の生命維持カプセルに入ることになるそうだ。LSP(ループ・システム・プログラム)がインストールされた最新の生命維持カプセルで、患者の生体反応が消えるとカプセルに入った時の状態にまで症状を戻すことができるそうだ、そしてその繰り返しの中で、だんだんと患者の生命力を引き出し、自然治癒に持っていくというのがその仕組みらしい。そんなわけで、大野琴はAG-0に向かっている。


 渡は大野の手を取ると強く握った。「詳しくは嶺博士から聞くと思うけど、大野さんにはISFの別ミッションに参加してもらうことになる。芦原中尉の確認も取れたわ。」


●2036 /06 /05 /00:52 /AG-0付近・ヘリポート


 1時間ほどでV-280はAG-0の麓のヘリポートに降り立った。「麓」と思ったのはAG-0が夜にそびえる巨大な山のような銀の卵だったからだ。麓から見上げたAG-0のあまりにも壮大なサイズ感は、地球環と並んだ時に、視界の遠近感が狂ってアリス症候群のような目眩を感じさせる。


 待機していた2台の救急車両に渡さんと九頭竜くんは別々に運び込まれた。渡先生は渡さんに付き添って車に乗り込むと、座ったまま私に敬礼をした。私も敬礼を返す。 わたしは九頭竜くんのかたわらに座り、気管にチューブを挿入され目を閉じたままの九頭竜くんの頬にそっとキスをして、車を降りる。


 車両が行ってしまうとそこに待っていたのは、猫背で背が高く、口元には豊かな白い髭を蓄えられた紳士、嶺博士だった。私は彼に向けて敬礼をした。「大野琴軍曹、芦原中尉の中隊から派遣されて来ました。」嶺博士は柔らかく適当な敬礼を返すと、「さあ、こっちこっち」と言って歩き出した。


「失礼ですが、嶺軍曹のお父様では?」私は白衣を着た博士の白髪の後ろ姿に問いかけた。博士は大股の歩みを止めなかったから、私は少し小走りで博士の後を追った。「ああ、ノルテのお友達かね?」やっぱり。私は安堵のため息をつく。脳裏にはノルテの顔が浮かぶ。博士の表情には彼女の面影が微かにある気がした。


 救急車両が消えていった搬入口から内部に入ると救急車両はエレベーターホールの前で止まって、すでに二人はどこかに運ばれた後のようだった。


 卵の内部は壮大な吹き抜けの空間になっていて、その迫力に私は息を呑んだ。その中心には地下から吹き抜けの上部に続く何本ものエスカレーターの腹が見えた。卵の形に沿って各階には廊下があって、白衣を着た多くの人が行き交っている。


 私は博士の後について、短いエスカレーターに乗った。真っ白な壁面や高い天井には見渡す限り継ぎ目が見当たらず、全体が有機的に繋がっているように見える。その継ぎ目のない壁面が時折突然開いて人が出入りするから、その度に驚いてしまう。


 エスカレーターを降りて、壁沿いに緩やかなカーブを描く廊下をしばらく歩いた。上下にはSF映画の世界のような真っ白な世界が、壮大な吹き抜けと共に広がっていた。すれ違う多くの人が一度立ち止まり、嶺博士に尊敬を込めた会釈をして過ぎていった。


 博士が壁面に顔を近づけると、網膜センサーが反応し壁が音もなく開く。


「どうぞ、中へ。」案内されたのは暗くて冷たい金属の箱のような部屋だった。ワークデスクのかたわらに用意された椅子に座り、博士と向かい合うと、ちょうど病院で医師に診察を受けているような格好になった。



●2036 /06 /05 /01:13 /AG-0 3階・嶺木芽博士の部屋


「大野琴さん。話は聞きました。まずは、九頭竜君なんだけど。」これは、まるで、夫の診断結果を先に伝えられる妻のような、妙な気持ちだ。


「彼の脳の損傷は重大です。これを治すには・・・。」博士は口篭ってしまった。人差し指と親指で挟むようにして白い髭を撫でている。「はい、方法は一つしかないと、渡先生から聞いています。」そして、その方法を手伝うために私はここにいる。「それなら、話が早い」博士は口髭の間にある唇をゆっくりと開き、話し始めた。


 これは、それを要約したものである。


 嶺博士はぷるぷるパンクの調和を研究する物理学者だった。 ある時、博士はこんなアイデアを思いついた。「大統一理論※」で生まれた力をぷるぷるパンクに加え調和させる。


(※宇宙が始まった時に4つに別れた原始の力のうち、重力を除く3つの力、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用を統一する理論)


 博士たちのチームはまず、超巨大加速器ーAG-0の地下に眠っている岐阜県の神岡鉱山の地下に続くおよそ100km程の螺旋状の直線ーを使って「大統一理論」を実証し、さらにそれを加速器の中でぷるぷるパンクに衝突させる実験を重ねた。しかし、仮説通りの結果は出なかった。


 実験を重ねるうちに世界中で同期しているぷるぷるパンクに異変が現れ始めたため、安全な生体シミュレーションを構築しその中で実験を続けることを思いついたのだ。


 それが「MANDALA」と呼ばれる生体シミュレーションシステムだ。 人間の脳細胞をバイオマテリアルの中で培養し数億の電極で繋いだニューラル・ネットワーク、文字通りの「生体」シミュレーションである。


 MANDALAは2023年の10月16日に起動。 それは、この宇宙だけでなく、そこに存在する地球や私たち人間の一人ひとり、全ての物理現象が、その日付のその時点でコピーされた並行世界・並行宇宙だった。


 博士はMANDALAのコアを介してシミュレーション側にいる博士本人と電気信号で短いメッセージをやりとりできることに気がついた。 結果的に研究内容は飛躍的に向上し、ぷるぷるパンクは臨界(エネルギーが生まれる特異点)直前にまで漕ぎつけた。 しかし、どうしてもその特異点を越えることができず、苛だちを抑えきれなかった博士は、自分が生体シミュレーションに入り込む方法を模索した。


 そしてそれを実現したのが、AG-0の地下フロアにあるPFCカプセルだ。


 まずPFC溶液を介して「こちら側現実世界」の博士の意識を電気信号化する。 そしてその信号を細さ40μm以下長さ2センチ程の糸状のプローブにコピーして物理的にMANDALAに送信。 それを生体シミュレーション内で待ち受ける「あちら側シミュレーション」の博士が、あらかじめ脳に埋め込んであるBMIに物理的に書き出して受け取る。


 その方法で「こちら側現実世界」の意識を持った博士を「あちら側シミュレーション」に存在させることに成功した。


 しかし意識はどうしても部分的にコピーできず、二人の嶺博士は二つの世界で一つの意識を共有しなければならなかった。 だから「あちら側シミュレーション」の博士は今現在、PFCカプセルで植物状態になっているというのだ。  シミュレーションの世界で博士は元の世界には存在しない「量子速度の亜限界」の存在に気がついた。 「あちら側シミュレーション」の世界には量子速度の亜限界というものがあって力学上、量子の運動の振る舞いが違っているのだ。MANDALAが実際の宇宙とは違い、キューブ状の箱という限られた空間だからなのかもしれない。


 それに気がついた博士は、3ヶ月間、ほとんど寝食も取らずに「量子速度の亜限界」を考慮した式を書き続けた。そしてある日「あちら側シミュレーション」の世界に渡ると、早速ぷるぷるパンクの調和を成功させた。


 調和は成ったはずだった。しかし、「あちら側シミュレーション」の世界でぷるぷるパンクにエネルギー反応が現れない。反応したはずのエネルギーが消え続けているのだ。


 しかし、その謎はすぐに解けた。『GRB 240119A』である。通称C-N境界。「こちら側現実世界」の世界でぷるぷるパンクが暴走、世界中のプラントから宇宙に向けて発せられたバーストの閃光は、観測できる宇宙の12%、地球上の18%を消し去り、6億人以上を犠牲にした。皆が知っている大災害だ。


 空には幾つもの穴が空いて、そこから宇宙の果てが見えるようになった。宇宙の果ては、もちろん「無」だったから、そこには何もなかった。「何もない」すら存在しないのだ。 さらには、そのバーストによって二つあった月のうちの一つが粉々になり、そのデブリは土星の環のような「地球環」として赤道上の軌道で安定した。


 ぷるぷるパンクが同じ世界線上で同期するように、シミュレーションのパンクとも同期していたのだ。ぷるぷるパンクに世界線は関係なかったのだ。


 博士は「あちら側シミュレーション」で調和を停止、擬似調和という状態に落ち着かせた。


 博士はその後何ヶ月もPFCカプセルに引き篭もり、どちらの世界にも帰らなかった。自分が引き起こした宇宙規模の大災害に、扉を閉じるように心を閉ざし、思考を停止させてしまったのだった。 C-N境界を引き起こした実験がここAG-0で行われていたのだ。博士の心境やまさに想像を絶する痛みである。


 新若狭湾のほとりのこのAG-0が、Alternative Ground - 0 と名付けられたのは、琵琶湖と日本海を繋げることとなったC-N境界最大のバーストとその爆心地グラウンドゼロを風化させないため、ということだった。


 しかし、残された者たちのために、世界は彼を必要としていた。彼を無理矢理現実に引き戻したのは、博士の奥様で同じく研究者でもあった、ノルテの母、嶺ティエラだった。


 その頃には博士が開発したPFCカプセルを使う方法で、研究者たちによる世界間の往来が増え始めた。 博士の「量子速度の亜限界理論」を元に「あちら側シミュレーション」の世界では、擬似調和のぷるぷるパンクから漏出するエネルギーを使った拡張人体や物質化・顕在化と呼ばれる実験が始まっていた。


 博士と同じ研究者でもあったティエラはそれを脳性麻痺の娘、双子の妹スールに応用するために「あちら側シミュレーション」へ渡り、実験を続ける中で、廃人状態の博士をなんとかカプセルから引っ張り出し、研究を手伝わせることに成功した。


 博士はまず、「あちら側シミュレーション」のスールの脳を人工的に焼きつけることで初期化し「スペア」とした。 それからプルーブにコピーした「こちら側現実世界」のスールの意識のコピーと、亜限界理論を元に生成された拡張人体プログラムの電気信号とを統合し、BMIを使って初期化されたスールの脳に上書きした。スールの脳は顕在化によってNull状態から意識を充填され麻痺は治り、新しい人格が宿った。


 この研究と技術は、医療的人体機能拡張であることを前提として「あちら側シミュレーション」のATMA-NEURA社に引き継がれた。 しかし、これがアートマンという大量破壊兵器のプロトタイプに繋がったのである。 「あちら側シミュレーション」の全ては、もともと電気信号でしかない、方法がわかっていれば存在しないものを存在させる事がいとも簡単に可能になるのだ。


 今回、九頭竜くんで再現しようとしていることは、スールのケースに近いけど真逆のことだった。博士はそれを「スペア」と呼んだ。 「こちら側現実世界」の九頭竜くんの脳にBMIを埋め込み、「あちら側シミュレーション」にいるスペア九頭竜の意識を持ち帰って上書きする。


 「あちら側シミュレーション」で意識を無くしたスペア九頭竜くんはPFCカプセルの中で保管されることになるが、「こちら側現実世界」の九頭竜くんのBMIにそれを挿入することで、二人の九頭竜くんの間で意識は共有される。


「そして! それを実行するためには、大野さん。君が「あちら側シミュレーション」の世界に行かなくてはならない。」


 突然「そして!」 と言われても・・・。 まずは大筋を理解するのに時間がかかっている。私は脳をフル回転させて、整理を試みていた。まず・・・、


 まずはMANDALA。・ぷるぷるパンクの調和実験のための生体シミュレーションとして開発された・この世界のコピーである。・リミット? 亜限界がある。・二つの世界はMANDALAを通して、意識を共有できるが肉体はできない。


 次に私のミッション あちら側シミュレーションの世界に渡り、スペア九頭竜を探し出し、彼を説得して彼の意識を、現実世界に持ってくる。


「だいたい、そんなところだね。」嶺博士は口髭を撫でている。


「ただし、大野さんはあちらの生体カプセルに入っていない。だからこれは、大気圏から飛び降りて、どこにいるか分からない自分を探しながら落下し、見つけたらそこに飛び込むような結構無謀な作戦だよ。」私は言われたことをイメージして身震いしてしまった。


 超無謀な自分探しの旅!


「しかも、あちら側シミュレーションの君の意識や記憶はなくなってしまう。」博士が私の目を覗き込んで言った。「というと?」私にはうまく想像がついていない。 「今は2036年だね。」「ええ、まあ。」私は膝の上で合わせた手を強く握り合わせる。博士は口髭を撫でながら、再び話し始めた。「MANDALAが起動したのは2023年。今から13年前のことだ。シミュレーションの世界は最初は完全なコピーとして、まさに『平行』な並行世界だった。」彼はそういうとデスクに向き直って2本のボールペンを取り上げた。


「こう。」2本のボールペンは博士と私の間でレールのように平行に並んでいた。


「2024年に臨界が起こり、こう。」博士は一本のボールペンを縦に固定したまま、中心あたりを軸にしてもう一本のボールペンを斜めに傾けた。私は頷いて博士の目を見た。博士はボールペンだけを見つめていた。


「ここの、軸のところが臨界。だから『平行』ではない、ずれちゃったんだ。 だからシミュレーションはコピーの世界ではなくなった。軸から離れれば離れるほど、その差は大きくなる。」「わかります。」私はボールペンを見て、二つの世界を想像する。「あちら側シミュレーションの世界にはね、世界が生まれた時から地球環があることになっているんだよ。」


「バーストで生まれた地球環が? ずっと?」私の想像を軽く超えてきた。全然わかりません。「だから、過去だけでなく、未来も違う。」「未来も?」博士の目を見ると、ボールペンでなく私を見ていたから、私はビクッとしてしまった。「あちら側シミュレーションの世界の君を上書きすると、彼女の意識は君の意識に統合される。 あちら側シミュレーションの世界の彼女がこっちの世界の九頭竜君と同じ状態になる。君にできるかな、彼女の過去と未来を奪うことが。」


 博士がスペアと言っていたから気にしないようにはしていたけど、実際問題分からない。 このケースは、自分を犠牲にして九頭竜くんの意識を戻すのか、それとも他人の犠牲で自分は無傷のまま彼の意識を戻すのか。どうしても後者に思える。 そして、シミュレーションの世界で生きる九頭竜くんを誘拐しているような気分にもなる。


「博士。シミュレーションはシミュレーションなんですよね? 電気信号なだけであって、実在しないんですよね?」 私は両膝の上でそれぞれの拳を握りしめた。博士は髭を撫でている。「それは、君の受け取り方次第でどうとでもなるよ。君はこの世界がシミュレーションだと考えたことがあるかい?」「いいえ。」私は首を横に振った。「では、この世界がシミュレーションじゃないと言い切ることができるかい?」頭が真っ白になった。どういうこと?「この問いに、答えはないよ。ちょっと考えてみるといい。」彼は立ち上がって伸びをすると、奥の部屋の扉を開けて、そこに消えていった。


 長い時間が経った。どれくらい経ったのだろう。博士が言ったように私はどの答えにも辿り着くことができなかった。そのまま朝になっても、私は答えを出そうと考え続けた。 そう。シミュレーションを頭の中で走らせ続けたのだ。


 シミュレーションが5千を超えた頃、私は少しうとうとしてしまった。 私はいくつも夢を見た。夢の中にでてきた九頭竜くんが、博士の話していたアートマンみたいな格好で登場したこともあった。ノルテや、その妹のスールと何か話したりしたこともあった。カプセルのようなものに入った渡さんとも戦った。あれ? 戦った?


 寝ても覚めても、脳みそが回転する音が聞こえそうなほどに考えをめぐらせ続けた。


 結局答えは出せずじまいだった。だけど、私はこう思った。 九頭竜くんの意識を取り戻す唯一の方法、それは別の九頭竜くんを持ってくること。そのために、知らない私は消える。その方法を試さなければ、九頭竜くんと二度と話すことはできない。 一緒に学校に行ったり、作戦に参加したり、手をつなだり、ご飯を食べたり、キスをしたり。そんなことの全てが消えてしまう。二人の未来はここで終わる。「この」二人の未来は。


 私にはいつまで経っても正しい決定を下すことはできないだろう。でも、頭の中に挑戦しない選択肢はなかった。もう一度九頭竜くんと話したい。


「嶺博士! 私、行きます!」私は嶺博士が消えていった扉の壁をどんどんと叩いた。「ちょっと待ちなさい。今行きますから。」


「決まったのかい?」扉から出てきた博士の表情には疲れが浮かんでいた。私の決断を待ち続けてくれていたのだ。「いいえ、決まってない。でも、行きます!」


 PFCスーツと呼ばれる不思議な感触の黒い全身タイツのようなものを纏うと、私は博士について長いエスカレーターを降りた。だいじょうぶ。私はここに、九頭竜くんを連れ帰る。


 高い吹き抜けの遠い天井を見ながら、心を決めた。 考え始めてからすでに丸一日が経とうとしていた。


●2036 /06 /05 /22:38 /AG-0 地下6階PFCカプセル群


 吹き抜けの明るい雰囲気とは打って変わって、カプセルが林立するその空間はまるで墓所だった。空港で死んでいった仲間たちのシルエットと被る。


 嶺博士に続いてカプセル群の間を歩く。死体のように不気味な科学者たちが、液体の中で髪の毛を揺らしながら眠っていた。視界の先に開いている一つのカプセルが見えた。


「あれですね。」先を歩く嶺博士が頷いた。それからいくつものカプセルを通り過ぎ、私のカプセルにたどり着いた。「PFC溶液に満たされるとすぐに眠くなるから、身を任せなさい。」 ふと隣を見ると、九頭竜くんが目を閉じて安らかな顔でカプセルの中に浸かっていた。私はカプセルの九頭竜くんの唇の位置に手を置いた。冷たい見た目に反して、それは意外と暖かかった。(九頭竜くん。待っててね。)「九頭竜くんをあちらのAG-0に連れてきたら、同じカプセルに入りなさい。プログラムが走っているから、入るだけでいいからね。」「はい。」


 私はカプセルの入り口を跨ぎ中に入って、正面に向き直った。博士が取っ手に手をかけていた。「幸運を。」「ありがとう。」と言って敬礼をしようとすると、肘をカプセルの内壁にぶつけてしまった。 博士が微笑んだので、私も微笑みを返した。


 透明な扉が閉まり、博士がカプセルの横に周るとすぐに足元から暖かいジェル状の液体が流れ込み始めた。私は自分の体を見下ろし、胸の前で両方の手のひらを広げた。PFC溶液の匂いなのか、金木犀のいい香りが漂って、気分が良かった。


「きっとうまく行く。行かなかったら、その後のことは、その後のこと。」言い聞かせるように呟いて顔を上げた。 目を上げると、向かい側のカプセルに入っている人影に気がついた。それは、暗いカプセルのなかで青白く照らされ、目を閉じた無表情の渡さんだった。私は恐怖に一瞬息が止まりそうになった。


(荒鹿くんを、よろしくね。)彼女の声を思い出し、呼吸を整える。「うん。」私が、声に出すとすぐに、PFC溶液が口から肺に流れ込み、その調子に私は咳き込んでしまったが、すぐに正常に戻った。目を閉じるとぴんという電子音がして、カプセルが溶液で満たされたのがわかった。


 博士が言った通り、私はすぐに眠気に襲われて、うとうとしはじめた。足元のバランスを崩してしまい、私は背中を強い引力で引っ張られるように吸い込まれた。 長い長い落下が始まった。これが大気圏からのダイブ。不思議と恐怖は感じなかった。 どこまでも落ちていく中で、私は大きくて柔らかい光の渦に吸い込まれた。  次に目を開けた時には全てが真っ白で、私は全てを忘れてしまっていた。


●2036 /06 /05 /23:01 /大船


 「あちら側シミュレーション」の世界にたどり着いて、全てを忘れた私は、自分が何かを忘れていることさえ覚えていなかった。目を開くと全てが真っ白で、それは、目が見えていないのと同じような状態だった。


 徐々にその空間の立体感や遠近感が落ち着き出し、その白い暖かい光の中に、少し光が薄くなったような場所を見つけたので、私は試しに足を動かしてみた。 動ける。私は出口のようなその場所から外を覗いた。そこは普通の日の普通の夜で、眩しい地球環も遠くに見えた。なんだろう。


 私の目の前には一人の同い年くらいの男の子が立っていた。彼は眼鏡越しにそのまん丸な目で、ショックを受けたように私を見つめて凍りついていた。


 なんだか懐かしい、思い出せそうで思い出せない。この暖かさはなんだろう。 私は少し不安になった。その直後ずきんと偏頭痛のような痛みを感じ、何かを少しだけ思い出したような気がした。


「くず・・・。」なんだろう。くずりゅう? その瞬間に男の子は消えてしまって、私は元の白い空間に戻っていた。


 つづく

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