第16話  おい、そこの男子。

午前九時から始まった白梅高校入学式も二時間が経過して、ホールの壇上に起つ生徒会長が新入生達へ挨拶が始まった。

「私は白梅高校生徒会長の高見沢たかみざわ 華子はなこです、ようこそ伝統ある我が白梅高校へ、君達の入学を心より歓迎します」

ステージから離れた僕の席でも、長い黒髪と知的で整った顔立ちの高身長から威風堂々の凛々しい姿を伺いとれる。


『清く正しく美しくあれ』の校訓と気高い校風、その他諸々と美麗賛辞をつらつらと述べられるが、それは来賓のお言葉にも有った祝辞に類似して、聞いている僕にも飽きが来ていた。

小学中学の頃ならジッとしていられない落ち着きの無い生徒が必ずクラスに一人二人と居て、そんな子達を親や教師は注意欠如ADHDの発達障害と分類カテゴライズしていただろうが、僕の母に言わせれば『子供が何かの障害だとしても、親は理解しているし、誰にも迷惑を掛けてないのに他人がどうこう言うのは大きなお世話だよ』と怒っていた。

それを思い出した僕は流石に進学校の白梅高校ではそういう生徒が居ない事で、義務教育の小中学校とは違うと感じた。


生徒会長の共感出来ない話と同時に僕の背中越しに、きっと後ろに座る複数の女子生徒が、

「立派なコンサートホールね」

「うん、春と秋の年二回、音楽科の定期演奏会が有るって両親から聞いたわ」


「へぇ~そうなんだ、今年から芸能科が新設されたでしょう、有名な元子役やアイドルが入学しているかな?」

「これからデビューして有名に成る生徒が居るかもね、今からサインを貰っちゃおうかしら?」

別に聞き耳を立てている心算は無いが、後ろの席に座る女子生徒の顔は見えないけど、ヒソヒソ話の声は僕の耳にも良く聞こえる。

しかもその小さな話声は静かなコンサートホールの壇上に届いていたのか、


「おい、そこの、私の話を聞け!」

生徒会長は僕を指さして大きな声で注意する。

え!僕の声じゃない女子生徒ですよ・・・

声に出さないが驚いた表情で否定する僕を新入生全員が振り返り注目する。

濡れ衣だ、冤罪だ、と全力で弁明したい気持ちをグッと抑えて、深く頭を下げた。


間もなくして入学式の終了から『新入生は各教室へ移動してください』の館内アナウンスに従い、周囲を多数の女生徒に囲まれた僕は一年一組の教室へ向かったが、災難はこれで終わりで無かった。


教室の机には出席番号が順に張られて、一年一組の新入生は指定の場所へ座り、担任教師の登場を待っていた。

右手前の引き扉がガラガラと音を立てて開き、小柄な女性教師が黒い表紙の出席簿を小脇に抱えて教壇に立ち、

「私がこれから一年間あなた達の担任を任された村瀬久美です、どうぞ宜しく」


え、バスケ部顧問の久美ちゃんが僕のクラス担任とは嫌な予感しかない。

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