第15話 入学式。
四月八日の午前九時から県立白梅高校の入学式が始まり、午後一時から二年三年生の始業式が行われる。
朝の七時三十分、朝食後に身支度を整えた天野さんは部屋着から着替えて、紺色に白いセーラー襟の上着、同じ紺色のスカートは長すぎると野暮ったいし、短すぎるとバカなギャルっぽい。
両方の膝頭が見え隠れする絶妙な長さに清楚で知的な好印象が伝わる。
更にワンポイントの紺色ハイソックス、玄関には茶色い革のデッキシューズがヒロインの登場を待っている。
「どう、裕人君、私の制服も中々でしょう?」
とくるりと回り、全身のコーデを僕に見せる。
「制服じゃなくて私服でも自由なのに、どうして?」
僕の単純な疑問に、
「裕人君は分かってないね、白襟セーラー服は女子の憧れ、この制服に憧れて白梅高校を志望する女子も多いのよ、それにリアル女子高生の今しかセーラー服を着られないでしょう」
大人になって憧れのセーラー服を着てもそれは唯のコスプレで、言われてみれば確かにそうだと納得する。
歩いて五分のバス停から路線バスを乗り継ぎ初登校する
「裕人君、私はJR駅前のバスターミナルで乗換えが有るから先に出るけど持ち物は大丈夫、初日から忘れ物しちゃダメよ」
自転車通学する僕へ注意する君は僕の母ですか?と訊ねたい衝動に駆られるが、そこはグッと我慢して、
「準備万端、忘れ物は無いから大丈夫だよ」
と答える僕は、筆記用具と春休みの課題テキスト、入学式後の実力テストに備えているし、これは高校から支給された入学案内で確認済みだし、前日の筋肉疲労も解消している。
「あとね、裕人君に悪気は無いと思うけど、人を見下さない様に気を付けてね」
僕が人を見下すなんてした事は無いし、そんな気持ちも無いが、天野さんがそう言う意味が気に成る。
「見下すって身長差で物理的に?それとも精神的に?」
出かける前の
「どっちもよ、自分より背の低い男子を弱そうな雑魚キャラとか、可愛くない女子をブスと思うだけで裕人君は表情に出るから、気をつけなさい」
それは親からの遺伝子と言うか、僕の個性を侮辱されいる気がする。
「僕の眼が一重で細いから、怖い顔は仕方無いだろ」
「そうだけど兎に角暴力で問題は解決しないから、入学早々に停学処分なんて勘弁してよ」
過去の記憶で本当の事だけに腹が立つ、この場で『天野さんが嫌いだ』と言い返したら精神的ダメージを与えられるだろうが、男としてそれはどうかと思うから反撃の言葉を飲みこんだ。
入学案内で見た『制服の着用は自由だがコスプレ禁止』『良識ある髪色』中学時代は謎の校則だった『通学靴の色と靴下の色』の規定も無い、白梅の先輩から聞いていた上履きはビニール製の通称『便所サンダル』は学年毎に青色、緑色、赤色に分かれて、今年入学の僕達は緑色を使用するけど、フリーサイズの上履きが僕には少し小さい。
制服に関しては前年まで詰襟の学生服に決められていたが、今年から常識の範囲で自由に成り、中学時代と同じ学生服にボタンを校門前の指定店で購入交換していた。
サイズ的に既製品最大の195cmの制服が少し小さいけど、入学後に周囲の男子を見て動きが楽なトレーニングウエアに替えようと思う。
序に言うと、中学時代は学校指定の体操ジャージを着用していたが、白梅高校では授業の体操服も自由らしい。
中学時代に誰かが言っていた『学力下位の不良高校は校則に厳しいが、学力トップの黒松などの上位校は校則が緩い』『更に加えれば音楽美術の芸術系白梅高校では音楽家のベートーベンや画家のラッセンみたいなファッションの生徒が居る』と、まあこれは都市伝説的な噂に違いないと思うが、入学すれば事実かどうか確認できるに違いない。
いつもの部活用サブバッグで無い、幌布のトートバッグに持ち物を詰めて自転車の前籠に入れて自宅を出発、JR駅前のバスロータリーを横目に通過して白梅高校まで5km弱の二十分。
春休み中に憶えた校内の駐輪場でバッグを持ち、正面玄関内の廊下に張り出されたクラス表を見ると確かに男子生徒より女生徒の人数が多いと感じる。
一年一組の出席番号順に僕の氏名、槇原裕人を見つけた後に記憶している中学同級生の名前は無かった。
校庭の先に建つ入学式会場のコンサートホールへ向かう。
およそ500人から700人を収容出来る階段状の座席、前列の左側から右側へ普通科の一組二組三組と八組まで続き、その先に音楽科美術科芸能科の順で着席していた。
五十音順で言うと槇原の「ま」は後方で、
もしも新入生全員が起立していれば高身長のバスケ部員を確認できるが、階段状の座席から見える男子の後頭部では誰が何処に居るのか、僕が座る一番左側の後席では分からなかった。
入学式開始の定刻に成り、会場ホールの壇上に校長、教頭、教員の他に役員が並び、その殆どが女性で占められていた。
男性の教員は体育の野村先生と、持病の悪化でバスケ部顧問を辞任した山村先生も顔を見せているが、他の男性教員と職員は皆無だった。
普通科の生徒三百人と芸術系の音楽美術芸能科三クラス百人、合計四百人の新入生にホールの収容人数は五百人以上なら、後方は空席と想像した僕はチラリと振り返った先に、それなりに着飾った中年の女性と男性で満席状態。
新入生の保護者さんが子供の入学式に参加しているとは、僕の家族では考えられないと思うが、そこは『家は家、他所は他所、自分は自分、人は人』と母の言葉を思う出した。
退屈な入学式が不毛な時間と思う僕は欠伸を噛み殺しながら、決まりきった壇上からの校長教頭の挨拶、来賓した女性役員の祝辞と女子生徒会長の退屈な挨拶を『早く終らないかな』と聞き流していた。
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