第7話 仲直り。

天野サヤカさんを送り出した僕は玄関を施錠して、自転車チャリで白梅高校へ向かった。

三階建て様式な体育館の一階は教官室と体育倉庫、二階はバレーボールも可能な天井が高く、築年数は古いが使用頻度の低さから床板は磨耗して無いがバスケコートのホワイトラインは薄くなっている。


いつもの時間に集合するバスケ部員、三年の部長と副部長の二人、今日も二年生は居たり居なかったり、僕達一年生の七人に口が達者な石川が居ない。


「あいつが居ないなんて珍しいな」

誰が言うでもなく皆が同じ思いで居た。


それでもいつもと同じく着替えを始める中、

「昨日の事だけど、アレって石川が先に暴力を振るったよな?」

僕は他の五人へ事実確認の為に意見を訊いた。


「イヤイヤ、あれは槇原マッキーが先に石川へ喧嘩を売ったからだろ?」

え、松本マッちゃんの言葉に驚く僕へ、大垣ガッキーや他の一年生も、

「なんにしても騒動の切欠を作ったのは槇原マッキーだからな」

どうにも納得出来ないが、多数決で言われれば僕に非が有るみたいで、


「それなら石川に謝った方が良いのかな?」

反省の言葉が必要なら、と訊ねれば、

「喧嘩両成敗って言うし,周りに居た俺たちも騒動に参加したからチャラだよ」

無かった事にはならないが、昨日の事を蒸し返すのもなんだから、的な雰囲気で事は治まるはずだったが、


「でもな、あの時の槇原が石川に『お前、騙したな』って何?」

そうだよ、名匠野村先先の元で俺と全国優勝を目指そうと石川から白梅高校に誘われたのに、顧問を受けない事態にブチ切れた。

と説明する僕へ、


「え、俺は『あの灰原中学の槇原が白梅に来るから県大会で優勝して全国に』って誘われた」

大垣の言葉に上田や竹田も、

「あぁ、俺も同じだよ、もし槇原を知らないなら『ネット動画でオフェンスリバウンドからダンク』を見ろ、やられた相手が俺だって」


「そうだな、おれも概ねそうだ」


誰がアップしたのか分からない僕の動画をネタに地元の有力選手に声を掛けたのか、言葉巧みな石川には呆れて物も言えない。


着替えが終わる頃に石川が遅れて体育館に到着した。

「遅れて悪いな、野村先生へ提出する承諾書に保護者の同意が要るだろ、実家を離れた俺は居候させてもらう叔母さんにお願いして、遅れた」


県北部の神山市から県庁所在地の此処に通学は難しい石川は、何処かで下宿していると想像した僕が、

「叔母さん?」

「そうだよ、母の妹で県総合病院の女医、三十歳の美人外科医だ、どうだ羨ましいだろう槇原」


「美人でも三十歳は、年上過ぎてストライクゾーンじゃないな」

上田、松本、竹田、犬山の四人が口を揃える。

落ち着いた年上女性がタイプの僕でも何故か女医と教師は興味が無いのは、自分でも不思議に思う。


石川の顔を見たら昨日の件を謝罪しようと、

「石川、昨日は行き成り掴みかかった僕が悪かった、謝らせてくれ」

今後の関係も含めて己の非を認めた僕へ、

「どうした槇原、部活中に意見の相違はよく有るから、済んだ事は気にするなよ」


以外に肝要な石川に驚きながら、一つの疑問から、

「あのリバウンド・ダンクの動画だけど、なんで僕だと判ったのか」

動画に登場する当時中学三年の僕と石川の顔とユニフォームはモザイク処理されて、誰かに教えられるまで自分でも分からなかったが。


「あ~あれな、神山中のマネジャーが撮影加工してアップしたから」

石川の言葉に耳を疑った僕は、

「え、何で石川が僕に負けた1オン1を?」

その意思を尋ねた。


「家康が三方ヶ原の戦いで糞を漏らしながら敗走した姿を絵師に掻かせたのと同じ、忌まわしい経験を記録したんだ、なあ槇原、これからはお互いに切磋琢磨するライバルで有り親友だな」

自分の動画を利用して他のチームメイトを誘ったなら、やっぱり石川を好きに成れない。

「未だ親友には成れない」

そんな会話の一年生へ、

「ちょっと良いかな?」

三年生の部長、斉藤さんが声を掛けてくるから、

「そうぞ、遠慮なく」


「昨日の件だけど、俺たちにも一言欲しい」

あ、そうか先輩達にも迷惑を掛けたのか、申し訳ない僕は、

「暴れて済みませんでした、でもあの時は何処に?」


「一年生七人の乱闘で斉藤と俺がお前達の流れ弾で気絶して、気づいた時にはお前らは先に帰って体育館の床に放置されていた」

バスケ部副部長の児島さんが説明した後から、


「俺たち三年はお前たちみたいな戦闘系巨人族じゃないから、もう暴れないでくれよ」

体格を比べれば僕達一年生の方が10cm以上背が高いのは事実だが、巨人族とは如何なものか・・・



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