第5話 予定外の帰宅。
白梅高校の体育館で想定外の乱闘から帰宅した僕は洗面台の鏡で自分の顔を見て、
石川の頭突きで傷みは有るが鼻血は出て無いし、鼻骨も折れて無いみたいで安心するが練習着のTシャツに誰かの血痕が有った。
もしあの時に石川の胸ぐらを両手で掴んでなかったら、頭突きで直撃された僕の鼻骨は折れていたと思う。
先に攻撃してきた石川拓実は気が短い奴だと確信した。
血と汗で汚れた練習着とバスケパンツを洗濯機に入れて、自動運転コースのボタンを押す前に液体洗剤と脱いだ靴下を忘れずに入れる。
三十分弱で洗濯終了の表示を確認して、少し温めのシャワーで体の汗汚れを流れ落として、両親はベーカリーで仕事中、同居の天野さんは東京へ二泊三日の初仕事で留守に、少し早いが僕独りの昼食準備を始める。
小さめのフライパンに少量のオリーブオイルを馴染ませて、カットしたフランスパンを並べて、その上から牛乳に鶏卵と糖質ゼロの天然甘味料の羅漢斗を混ぜた液体を注ぎいれて三分の蒸し焼きから仕上げに焦げやすいバターを一欠けら入れてキツネ色の焦げ目をつける。
超簡単なフレンチトーストの出来上がりからグラスの牛乳を用意して『いただきます、う~ん美味い』と自画自賛する。
昼食後の眠く成る前に本日予定分の春休み
世の中で熟女と呼ばれる女性は四十代から五十代でも、AVの世界では三十歳を過ぎたら熟女にカテゴライズされるらしい。
これも女性には理解されないと思うが、生理現象の放出後に男性が眠くなるも本能か脳のシステムらしい、男女の情事が終れば背中を向けて高いびきする男性に、行為後に目が冴えてピロートークを望む女性には不満らしいが・・・と、これはネット検索で知った情報だから真実か否か、判断が出来ない。
兎に角、三回の独りエッチを終えた僕は、心地良い疲労感と満足感から安らかな午睡へ突入した。
z・z・z・z~
「裕人君、ただいま~」
え、三日間は帰ってこないはずの
「どうしたの?」
これ以上の言葉が見つからない僕へ、
「
『私はリアル女子高生よ、落ちるわけが無いよ』と自信満々に出かけたが、その日に帰宅した
「まぁ最初から上手く行くとは限らないし、今人気の女優さんでも何十回とオーディションに落ちたって言うし、次に挑戦しようね」
何度も言うが芸能界の事情を知らない僕は、根拠の無い言葉で慰めるしかなかった。
「それでもショック、部屋のベッドで休むから食事は要らない、お休みなさい」
そう言った天野さんは階段を上がり二階の寝室へ消えた。
人気の元CMモデルでも俳優の世界で活動するのは難しいのか、彼女の相談に乗れない素人の僕は自分の無力を悔やんだ。
◇
それから小一時間が経過して、普段は滅多に鳴らない固定電話から『ル・ル・ル・』の呼び出しコールが聞こえた。
「ハイ槇原です」
応答する僕へ、
「
落ち着いた大人の女性らしき声に緊張する僕は、
「は・はい・僕が槇原裕人です、どちら様ですか?」
声が裏返らないかゆっくり話した。
「芸能事務所の『クイーン&プリンスセス』でサヤカを預かっている桜島です、今サヤカは在宅ですか?」
「疲れたサヤカさんは休んでいますので、もし良ければ僕から伝言します」
「そうね、私から伝えるより裕人君の方がサヤカには良いわね、あのね、今日のオーディション・スタジオをサヤカが間違えたのよ」
え、それって何ですか・・・
「もう少し詳しくお願いします」
「学園ドラマのヒロインが庶民の
つまり、それは天野さんがオーディション・スタジオを間違えたから除外されたと言う事で、逆にキラキラ学院のお嬢様役をオファーされた、らしいが。
「それはサヤカさんの勘違いですが、次のオーディションに合格するっ意欲なので、製作側からのオファーでなく、その配役もオーディションの設定でお願いできませんか?」
何度も言うが、芸能界の事は何も知らない素人の僕だが、落ち込んでいる天野さんの気持ちは一番理解している心算で、
「裕人君は、今から多くの新人を集めてサヤカの採用が決まっている出来レースをしろって?」
人気の若手女優を、さもオーディションで勝ちあがりました的な宣伝効果を狙った噂で聞く出来レースじゃなく。
「そうじゃなくて、既に事務所が出した書類選考から最期の個人面談で採用が決まるみたいに、桜島さんからサヤカさんへ声を掛けてください」
これを悪知恵と言われたら身も蓋も無いが、
「さっきから
ふて寝して事務所のコールをガン無視しているから家の固定電話に着信か・・・
「確約は出来ませんが、僕の方便でサヤカさんを説得してみますので其方で待機してください」
「はい、よろしくお願いします」
数分の通話で用件を知り、受話器を置いた僕は二階へ上がり、
「サヤカさん、起きている?大丈夫?」
「うん、起きているけど、裕人君、ナニ?」
もしも寝ているなら起こすのも可哀想と思うから、サヤカさんの声を聞いて安心した。
「あのさ、初めてのオーディションに落ちたのは残念だけど、一応事務所のマネージャーさんに連絡した方が良く無い?」
話の辻褄が合わないとボロが出る不安を隠せないが、
「え、いま?」
落ち込んでいるサヤカさんに気付かれなかったが、
「うん、後に成れば成るほど連絡し辛く成るんじゃない?、何事もホウレンソウって言うでしょ」
新入社員の鉄則は上司へホウレンソウを何かで聞いた記憶を使った。
「そうね、裕人君の言う通りかも、今から電話するわ、あ、事務所から着暦が何件も有るわ」
ベッドから起き上がった
「もしもし、サヤカです、着信に気付かなくてごめんなさい、今日のオーディションに落ちました、次に頑張ります、え、もう一度お願いします、ハ、ハイ、明日ですね、大丈夫です、有難うございます」
どうやら電話の向こうは連絡をくれた桜島さんみたいで、僕がお願いしたオファーの件を事務所が前もって申し込んだ最終面談が明日に行われると告げられたみたいだった。
「裕人君、捨てる神有れば拾う神有りみたい、私に内緒で応募するってサプライズ過ぎるよね」
「ああ、それだけ
やれやら、無事に任務終了した僕は心からホッと安堵した。
「え、今電話に出たのは芸能事務所、クイーン&プリンセスの社長、桜島真理さんよ」
え~~~~~僕は有名芸能事務所の女性社長に
「裕人君、顔色が青いけど?」
手と指の震えが止まらなく、背中に冷たい汗が流れている。
「明日こそ新人女優、槇原サヤカのデビュー記念日にしてみせる」
今の僕には良く聞こえない。
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