第3話 女優への一歩。

白梅高校バスケ部の部長キャプテン、斉藤さんから男女交際のルールを知らされた僕達は、体育館のアナログ時計が十時を過ぎても顔を見せない顧問の山村先生を気にしていた。


そして数十分が経過して、

「今日は顧問が来ないから解散する」

斉藤さんの言葉に、僕達の中学生時代には有りえないと驚いていると、副部長の児島さんから、

「まぁ、義務教育じゃない高校の部活はこんなモノだよ」

妙な理屈で納得させられた。


Tシャツ&バスケパンツから着替えて体育館の戸締りを確認後、新一年生の七人へ、

「折角だから親睦の意味を含めてナクドナルドでお茶するか?」

斉藤さんが白梅高校から徒歩五分のボンキホーテに有るバーガーショップに誘うが、春休みの課題テキストを終えて無い僕は、

「申し訳無いですが、用事が有るので帰ります」

誘ってくれてた先輩へ失礼が無いように丁重にお断りした所へ、

「僕もこの後に私用が有りますので失礼します」

隣街からJRを利用する大垣ガッキーもバスケ部のグループから離れた。


白梅高校からJR駅まで凡そ1kmを徒歩通学の大垣と、駅を超えた先3km僕は自転車を引いて歩いた。

槇原マッキーが先に断ってくれたから僕も断り易かった、有難うな」

そんな心算は微塵も無いが、お礼を言われるとそんなに悪い気はしない。


「そんなの偶然だよ、気にするな大垣ガッキー

合格発表の翌日から練習に参加して二週間、もっと昔から知った旧知の友みたいな雰囲気に、小中親友の橋本ハッシーとは違う感覚を憶える。


もしも親友がそれを知ったら『お前らは190cm以上の高身長だから共感するんだろう』と低身長がコンプレックスの橋本ハッシーは言うだろう。


先輩の誘いを断りJRまで一緒に歩いた大垣fガッキーは、

槇原マッキーの理由は?」

駅の改札へ消える前に質問してきた。

もちろん課題テキスト以外に理由の無い僕は、

「課題と実力試験の準備だけど大垣ガッキーは?」


大垣の理由に興味は無いが訊かれた以上、社交辞令的に同じ質問を返した。

「実は中学の同級生と合う約束が有って、今とても忙しいだから次に会えるのも分からなくて・・・」


そこまで聞いた僕は深堀する事なく、

「あぁそうなんだ、じゃあな」

と一言だけで背中を向けて自転車に跨った。

一人に成って白梅高校の交際ルールを思い出し、ビジュアルが良く無い僕には関係無いし、それより顧問が全国優勝常連の帝王高校コーチの野村先生に代わると、石川から聞いて白梅を受験したはずが様子が見えなく今は不安しか無い。


少しでも早く帰宅して、野村先生の帰郷を知る天野サヤカさんに相談しようか、そう思考する内に自宅に到着した。


玄関から洗面脱衣場で練習着をランドリーボックスへ放り込み、リビングに入るとそこに微笑む天野サヤカさんが居て、

「裕人君、明日が私の俳優初チャレンジなの、応援していてね」

僕の相談より先に俳優デビューを告げられた。


「初チャレンジって?」

芸能界と言うか、モデル時代の仕事も知らない僕へ急に言われても理解できず意味を訊ねた。


「学園ドラマのヒロインが登校する後を歩く一般生徒の役なの」

「台詞の無い大勢の生徒?」

「もちろん、そうよ」

なるほど、しかしそれは天野サヤカさんが目指す助演と言うよりエキストラでは無いのか、ドラマや映画に詳しくない僕でも想像できる範囲だ。


「それでオーディションに合格したら撮影で二泊三日くらい留守にするから、お義母かあさんに迷惑を掛けちゃダメだよ」

おいおい、此処は僕の家で天野サヤカさんが言うお義母かあさんは僕の実母だよ、いつもより興奮状態の表情を見て、

「自信が有るみたいだね」

天野サヤカさんのキャリアから考えれば少し意地悪な質問だと思う。


「そうよ、リアル女子高生の私が不合格に成る理由は無いでしょう?」

天野さんが言うのは確かにそうだが、僕の意見を言わせて貰えば『日本一の美少女』に通学のエキストラが務まるのか、何度も言うが芸能界の事情は何も分からない。

翌朝七時過ぎ、出発の準備を整えた天野サヤカさんを玄関内で見送る僕へ、

「裕人君、自慰オナニーは一日三回までよ、私が居ないからって破目を外しちゃだめだからね、それと行ってらっしゃいのチューをして」

白く小さな顔にピンク色の唇を尖らせてキスを強請る。

「今ここで?」

「そうよ、誰も居ないから照れないで」

両親はベーカリーで仕事を始めて、この家には僕と天野サヤカさんの二人きり。


「行ってらっしゃい、天野サヤカさんの帰りを待ているよ、チュ」

プリンプリンの柔らかい唇へ僕からキスして、オレンジ色のキャリーケースを引く天野サヤカさんを見送った。

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