第2話 白梅高校の恋愛ルール。

四月三日、前日までに年度始まりの新任着任式が終了して、校内へ立ち入り禁止が解除された翌日から入学式前の僕達新入生もバスケ部に参加できる事になった。


午前九時前に白梅高校の体育館に新一年生の七人が集合して、部長を待つ所へ教官室から鍵を受け取った斉藤さんと副部長の児島さんが到着する。


開錠した金属扉を開き、体育館内の澱んだ空気と外気を換気しながら、練習着のTシャツとロンパンに着替えた僕達はバッシュを履き、数日の休みで溜まった埃をモップで掃き取る。

午前九時の練習開始、それ以前と少しだけ様子が違って、有名なタヌキの置物にソックリな顧問の山村先生が未だ着てない。


責任者の居ない体育館でボールを使ったミニゲームの練習は出来ない規則らしくて、準備運動的なアップと怪我予防のストレッチ、フットワークで身体を暖めるがそれも済ました。

これ以上やる事が無くなった思春期の高一男子が話題にするのは食べ物と女性のタイプ、全国大会準優勝の神山中学、キャプテンの石川から県内の有力選手に声を掛けて白梅高校に入学した七人は、その石川を会話の中心に大垣、上田、松本、犬山、竹田、そして僕、槇原の新一年生は車座に成って与太話に興じた。


安くて美味しいグルメ、好きなタイプのアイドルや女性芸能人、入学した白梅高校は男女生徒の比率が三対七なら人生のモテ期が来るはずとか、中学時代の彼女は別の高校へ進学したから今がチャンスだ自由を謳歌するべし、などと下らない話で盛り上がる一年生へ三年生の部長、斉藤さんは、


「話の途中で申し訳ないが勝手な妄想で高校生活を棒に振らない様に忠告するから」

先輩に言葉に会話が止まる中からリーダー的存在の石川が、

「先輩、それってどういう事ですか?」

より詳しい説明を求めたと他の一年生も共感したと思う。


少し躊躇ためらう様にゆっくりと斉藤さんは話し始めた。

「じつは都市伝説的な白梅高校に恋愛のルールが有って・・・」


中学生までは高校受験の為に恋愛に封印していた女子生徒はそれなりに高偏差値の白梅高校入学で弾ける、世間で言う所の高校デビューでメイクや髪型に拘り、女性週刊誌やレディコミで恋愛の情報を学び、恋の狩人に変身するらしい。


つまり、男女比率が極端な白梅高校で女子生徒はハンター、男子生徒は獲物的ターゲットの存在である、そして暗黙のルールで女子生徒から誘われた男子生徒は最低一度のデートが義務で断ることが出来ない。と言う。


「それがモテ期では?」

僕も人の事は言えないが恋愛経験が無さそうな野暮ったい上田と竹田が声を揃えて訊きなおすと、

「これも校内伝説だが十年ほど昔に、サッカー部のイケメン君が誘われた女生徒の十人以上とデートからそのままラブホに連れ込み、やりたい放題の後に謎の組織『白梅会』の制裁を受けた、らしい」


学校の怪談なら笑って聞けるが、謎の組織『白梅会』の存在に興味を掻き立てられる。

「その制裁とは?」

先ほどの上田と竹田に代わって、イケメンの大垣と犬山が質問する。


「ラブホへ連れ込まれた女子生徒は全てバージンで、乙女の純情を踏みみじられた復讐からイケメンサッカー部のヤリチンを何かの方法で拉致拘束して、精神的肉体的な方法で三日三晩に渡り暴行した、らしい」


「白梅会の暴行って、エロい奴?」

この時点で1年生バスケ部の男子全員が同じ事を感じた。

「両手両足を縛り上げ猿轡さるくつわと目隠しで視界と言葉を奪われて、女子生徒を侮辱した股間をアルコール消毒して、最後にお尻から大人の玩具で前立腺を刺激して精巣が枯れるまで逆レイプされた、らしい」


全ての話に『らしい』が付くからより伝説っぽい印象が拭えない。


「その制裁を受けた男子生徒は実在の人物なんですか?」

「そう、前立腺刺激の快楽に目覚めて、今は錦3丁目のお店でオネエに成っているらしい、本名は由里本さんと言って、源氏名はリリーさん、らしい」


「詰まり、白梅高校では女生徒に誘われても紳士的なデートに応じるしかないのですか?」

「そこには救済的な抜け道も有って、既に恋人が居る男子は生徒会へ『交際届け』を提出すれば強制デートを免除される、これは事実だから」



生徒の交際を管理するのが生徒会なら、謎の白梅会が生徒会では無いかと想像した。

「序に言っておくけど美術科、音楽科、新設の芸能科が入る芸術棟とコンサートホールは、先輩達の美術作品や表彰トロフィーが有るから普通科の生徒は立ち入り禁止、それと元女子校だった白梅高校の校訓は『清く正しく美しく』だから忘れるな」

どこかの歌劇団みたいな校訓とは普通科の僕達には縁が無いと思う。


「部長の斉藤さんに質問ですが、新一年生の男子七十人が一年の女子二百人以上から狩りのまとにされるですね?」

大垣と同レベルのイケメン犬山が身の危険を感じた確認の意味で訊ねると、


「そこは違う、前年までに獲物かれをゲット出来なかった二年と三年の各学年百人の女子生徒も合計すれば四百人に迫る人数ハンターだと思う」

え、それが真実なら草食男子七十五人に肉食系女子が四百人、それはまるで恐怖の鬼ごっこだろう。

冗談抜きで十五歳の僕達七人は震え上がった。


兎に角高校生活はバスケに集中したい僕はどの様に『交際届け』を提出できるか思案する横で、私立名邦高校の選抜試験セレクションで知り合い、気が合ったイケメンの大垣ガッキーは、

「はぁ~」

と不安を隠せない大きな溜息を吐いた。


初めての練習参加当日、大垣ガッキーは、僕と同じ様に彼女は居ないと言っていた記憶が有る。


元お嬢様女子高校の白梅に穏やかな高校生活を期待していたが、高校デビューした女子がハンターの狩場とは驚いた。

何の根拠は無いけど、社交的で無い僕が男女の交際トラブルに遭遇するなんて有りえないと思う。

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