第24話【だから違う。お前じゃない】

 前世? と表現していいのか分からないが、俺には小学校時代、とても仲良くなった異性がいた。初めて明確に好きになったと言える異性だ。

 別々の中学になってからもスマホでメッセージのやり取りなんかもしていて、関係は細く長く続けられ。また彼女と同じ学校に通いたい一心で苦手な勉強を頑張り、見事彼女と同じ高校に合格。


 その入学式当日。

 驚かせてやろうと校門の前で待ち構えていた俺がそこで目にしたのは......見知らぬ男子と手を繋いで歩く、彼女の姿だった。

 仲が良いと思い込んでいたのは俺だけで、彼女にとって俺は、数いる友達の内の一人にすぎなかった。要するに一人相撲ってヤツだ。

 以来、大学で初めての彼女ができるまで、硬派という名の女性不振の鎧を身にまとい、同族だけでつるんでいた。モテない男子によくありがちな黒歴史である。

 何故なにゆえそんな昔話を思い出しかというと......。


「申し訳ございません。三岳みたけ君とではなく私なんかが一緒で」

「そんな自分を卑下ひげする言い方はやめろって。悪いのは自分の代打を押し付けてきた三岳なんだからさ」


 まぁぁぁたお前か睦月星羅むつきせいらぁぁぁぁぁぁッ!!!


 休日。

 本来なら今日は三岳と男同士、ショッピングモールで交流を深める(卑猥ひわいな意味ではない)展開だったはずだったのに、待ち合わせ場所の駅前の広場に現れたのはまさかの睦月。

 彼女に言われてスマホを確認すれば、「悪い。急な体調不良で行けなくなった。代打は手配してある」と、こいつ本当に体調不良か? と疑いたくなるような手際の良いメッセージが届いてた。


「睦月こそ、俺なんかと一緒でいいのか」

「大原君こそ自分を卑下しないでください。むしろ大原君でないと」

「俺でないと、何?」


 少々腹の虫の居所いどころが悪い俺はつい睦月に鋭く目を向けてしまうと、慌てた彼女は両手を振って否定してみせた。


「そんな変な意味ではありませんよ!? ごかいしないで下さい! 弟の誕生日が近いので大原君にプレゼントを選ぶ手助けをしてほしいなと思いまして」

「ああ。そういうこと」


 推しとのデートより先にどうして睦月とデートしなきゃならんのだ。と毒づきたくなる気持ちを抑え、今はひとまず二人揃って目的地へと足を進める。


「睦月、弟いたんだな。雰囲気的にてっきり一人っ子だと思ってた」

「はい。よく言われます。実際一人っ子歴が長かったのであながち間違っていなくもないのですが。もうすぐ7歳になります」

「てことは小一か。結構歳離れてるんだな」


 表面上は睦月との会話をこなしつつ、内側はさあこれからどうするべきかと必死に頭を回転させる。

 三岳から睦月に変わったことによることで、この場面にどんな変化が起こりるかは想像できない。

 最小限にすむか、はたまた大きなうねりとなって今後に多大な影響か与えるのか......。どちらにせよ、ショッピングモールへ向かわないという選択肢はありえないな。

 

「弟君はどんなのが好きなんだ?」

ゆうちゃんはですね、最近漫画に結構興味あるみたいで。今は元殺し屋のコンビニ店員の物語でしょうか」

「それ、俺も好きで毎週欠かさず読んでる。典型的な王道バトルアクションではあるんだけど、毎回主人公の正体が身内にバレそうになってドキドキするんだよな」


 本来三岳との会話の中でかわすはずだったネタが使えそうだったこともあり、とりあえずぶっこんでみた。こうなってしまった以上、睦月には三岳の役割を果たしてもらうことにしよう。


「大原君も読まれているのですね。今度私も侑ちゃんから借りて読んでみようかな」

「普段あまり漫画読まない人でも充分楽しめると思うぞ。その辺は少年誌に連載されている作品だけあって分かりやすい作風になってるし」

「なるほど。楽しみです」

「他に何か好きな物はないのか」

「え、私のですか?」

「じゃなくて弟さんの」


 典型的なボケをかますんじゃないよ。しばくぞ?

 ショッピングモールに通じるエスカレーターを上りながら他に何かないかと訊ねてみた。


「うちは両親がゲームに厳しくて。一応持ってはいるのですが、一日一時間までしか利用できないもので。大原君はゲームお好きなんですよね。以前三岳君からお聞きしました」

「そうだな。人よりは全然する方だと思う。たまに三岳と家のネット回線使って遊ぶ時もあるし」

「今度私も一緒に混ぜてください」

「いいけど、睦月ってゲームできるのか」


 言い方がかんに障ったらしいがジト目で俺に訴える。 


「失礼な。私だってゲームくらいできますよ。左の丸いボタンがBボタンで、右の丸いボタンがAボタンですよね」

「......ふ」

「いま鼻で笑いましたね?」

「気のせいだろ。ほら、前見て歩かないと怪我するぞ」


 話しに夢中になっているとエスカレーターはあっという間に最上階へと辿り着いた。

 もちろん相手が睦月になったからと言っても、そこは原作小説にならった行動を取る。 


「じゃあとりあえずアニメショップでも行ってみるか。そこなら弟君の好きな漫画のグッズも扱ってるだろうし」

「お願いします」

「了解」


 休日の日中ともあってショッピングモール内は暇人どもでごった返し、油断すると睦月とすぐはぐれてしまいそうだ。と、言ったそばから睦月が前から来た人にぶつかりそうになったので、俺は咄嗟とっさに睦月の手を引いた。


「あ」

「この歳になって迷子の呼び出しされたくないだろ。今だけな」

「......はい」


 か、勘違いしないでよね! 別に睦月のことなんかなんとも思っていないんだからね! 

三岳の役割を持つお前が迷子になんてなったらこのシーンの大事なイベントが消滅しちゃう可能性があるから、仕方なくなんだからね! ......って、自分で内心で言ってて気

持ち悪いな。


 手を繋いだまま早速やってきたアニメショップは入ってみると、見渡す限り若そうな女、女、女。

 推しの缶バッジのびっしり詰まった痛バッグを肩にかけた彼女たちの目的は、入り口付近に設営された刀を義人化させた人気コンテンツのコーナー。

 

「何故、ここにいるほとんどの皆さんは、同じキャラクターの缶バッジを沢山バッグに入れているのでしょうか?」

「その口ぶりだと睦月はアニメショップ来るの初めてみたいだな」

「せうですね。存在自体は以前から知っていたのですが、どうにも一人では入りにくい雰囲気がありまして」

「分かる」


 中の人の俺も、初めてアニメショップに行くと決めた時は緊張して前日眠れなかったほどだ。

 今でこそ市民権は得たものの、俺が学生だった頃もオタクへの風当たりの強さは一部でまあまあ残っていて、親も俺がアニメショップに行くことをあまりよく思っていなかったらしい。

 だが時代は完全に変わり、いまは親子二代で行く方々も結構いるとか。


「話しはれたけど、アレは推しのキャラへの愛を表現してるんだよ」

「愛、ですか」

「そう。自分は推しのためにこんなに集めました、ってのを周囲にアピールするためっていうのかな」

「一週回って逆に怖い気がするのですが」

「だから特別な場所以外で出すのはマナー違反なんだって。ここならアニメショップの中だし、まぁOKってことなんじゃない」


 睦月がいぶしむのも無理はない。

 一歩間違えればドラマ等でよく見かける、ストーカーが部屋一面に好きな相手の写真を貼り付ける行為に似ている。

 睦月のように知らない人から見ればちょっとした狂気味を感じるだろうに。

 

「大原君はいろんなことに詳しいんですね」 

「伊達にそれなりに長く生きてないからな」

「私たち同い年ですよ」


 本気半分・冗談半分で言った言葉に睦月は笑った。 

 雑談をしながら店内の奥に進み、店頭の案内板に書いてあった目当ての漫画のグッズを扱っていそうな場所まで向かってみる。

 行ってみると思いのほか種類があり、どれにしようか睦月は迷っていたが、普段使いできる文房具系のアイテムを選んだ。小学生の弟くんにはピッタリなチョイスだと思う。

 その後は睦月の希望でそこそこ広い店内をぐるっと見て回り、漫画やアニメの話しに華を咲かせる。


「そろそろ俺の行きたい場所に行ってもいいか」


 三岳ではない彼女が次の行先へのフラグのセリフを一向に言い出さないため、痺れを切らした俺は自分からフラグを立てに言ってみた。


「すいません、つい大原君と見て回るのが楽しかったもので。それで、大原君が行きたい場所というのは」

「三階にあるゲームセンター。確かそろそろ目当てのゲームが稼働する頃だと思うんだけど」


 大原君としての目的はそっちだが、中の人の目的としてはもちろん推しだ。

 理由わけあってそこにはひなきがいて、好感度をさらに爆上げるための重要なイベントが起きる――原作でもアニメでもその展開は変わらない、はずだったのに。


「.....こちらの建物の中に、ゲームセンターなんてありましたでしょうか?」

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