第25話【負けヒロインが一人だけなんて誰が言った?】

「......は? 睦月むつきお前、なに言ってんだよ」

「ですから、こちらにゲームセンターはなかったと記憶しているのですが」


 おいおいおいおいおいッ!!!


 冗談にしては随分と笑えない話過ぎやしませんかねえ!?


「いやいやそんなわけないだろ。3階の家電ショップのすぐ隣に、結構広めのゲームセンターがあるじゃないか」

「家電ショップの隣は確か、以前からずっと工事中で封鎖されているスペースでは?」


 睦月が嘘を言っているようにも見えず、背中にツーっと嫌に冷たい汗が流れた。


「あの! 大原おおはらくん!?」


 胸の中の不安がみるみるうちに増大し、すぐにでも確認しなければ気がすまなかった。 

 向かいの下りのエスカレーターまで行くことさえ待てず、咄嗟とっさに走ってすぐ近くの非常階段口から3階へと下りる。

 一心不乱に人をかき分け家電ショップの前を通り越せば、騒がしくも懐かしささえ感じる様々な種類の電子音の波が耳に届く。


「......なんだよ......ちゃんとあるじゃねえかよ」


 風神様と雷神様みたいに入り口の両サイドに設置されたお菓子のUFOキャッチャーたちが出迎える。

 ゲームセンターは、確かにそこに存在していた。

 

「......いったいどうしたのですか。そんな急に走り出して」


 遅れて、後ろから睦月が小走り気味でやってきた。


「これはいったいどういうことだ?」

「え? いつの間にこのような場所にゲームセンターが......おかしいですね」


 おかしいのは睦月、お前の頭の方だろうが!


 ひなきとの黒パンツイベント直前に原作にない割り込みをぶっこんで来たり。

 そこの一回だけじゃない。

 今回もまたひなき絡みのイベントでイレギュラーなことを仕掛けて来たりと......コンタクトを付けてからの睦月はどうにも行動が不振だらけだ。


「ここに来るのはすごい久しぶりだったんだろ。どこか他の場所と間違えたんじゃないのか」

「......そう、かもしれませんね。これは大変失礼しました」


 怪訝けげんな表情を浮かべながらも睦月は謝罪の言葉を述べ頭を下げた。 

 中の人として文句のひとつでも言ってやりたいが、今は物語を先に進めることを最優先としよう。


 インバウンド客を狙ったクレーンゲームばかりの都心の店と比べ、古めのビデオゲームや年代物と見られる大型体感ゲームが主体の店内。かと思えば最新の物にもしっかり手を伸ばしていて、店舗側の幅広いニーズに応えようとする努力が随所に見受けられる。


 ひと通り店内を散策してみたが、やはりお目当てのゲームはまだ入荷されていない。原作通りの結果だ。睦月にバレないようそっと胸を撫で下ろした。


「来るのがまだちょっと早かったみたいだな」

「残念です。大原君が楽しみにているというゲームを一度見て見たかったのですが」

「まあ今度みんなの予定が会う日にでもまた遊びに来ればいいだろ」

「......そういう意味では」


 微妙にふくれっつらの睦月。


 ――これはやはり............そうだよな。


 原作とは異なることが起きたことによる弊害へいがいは、確実に危険な存在となって俺のすぐ隣に今いる。

 今後はより一層睦月を注視する必要がありそうだ。

 未来になんとも嫌な暗雲が立ち込み憂鬱ゆううつになっている俺に、ある意味希望の光とも言えるモブたちの声が聴こえた。


「スゲーな! あの女子高生! パーフェクト決めやがったぜ!」


 ゲームセンター特有の少々暗めの店内に歓声が響く。何事かと気になってその中心へと向かってみれば、そこには俺たちのとてもよく知った人物が制服姿で観衆に大手を振っていた。


「「ひなき?」さん?」

「へ? 大原に、星羅せいらまで!? どうしてこんなところに!?」

「それはこっちのセリフだ。お前部活はどうしたんだよ」


 上下左右の矢印が書かれた床から飛び降りると、ひなきはバツが悪そうな顔で明後日の方向に視線を彷徨さまよわせる。


「部活? 部活ねぇ。なんでもプールの設備の一部が壊れちゃったとかで、今日は休みになっちゃってさ。いや~、老朽化ろうきゅうかなら仕方ないよね~、ハハ~」

「やっぱりここにいた」


 しどろもどろに笑って誤魔化していたひなきの顔が一瞬にして固まった。

 同じく部活でここにいるはずのないこのちゃんが、俺たちの後ろから現れた。



  *



「「......」」


 さすがに観衆のど真ん中で話し合いというわけにはいかず、どこか落ち着ける場所をと探していたら、タイミングよくフードコートの一角が空いていた。

 俺の隣にはひなきが座り、テーブルを挟んだ向かい側には睦月と、ずっと眉をひそめたままのこのちゃんが座った。渦中の二人は無言、一触即発の状態がかれこれ数分ほど続いている。

 

「何か飲み物でも買ってきましょうか」

「私はいらない。このあと部活に戻らないといけないから」

「ですがここはフードコートの席ですので。一人だけ何も頼まないというわけには」

「......じゃあオレンジジュース」


 睦月の心遣いに噛みついたこのちゃんであったが、さとされ首を横にぷいと振って嫌々飲み物を注文。

 一人で買いに行かせるのも気が引けたので俺もついて行こうとしたものの、睦月に軽く目で制されてしまった。お前は二人が喧嘩を始めないよう見張ってろ、ということらしい。

 そんなこんなで睦月が戻ってきてから早速本題に入ることに。


「――水泳部の人たちから聞いたよ。ひな、なんで部活行かないの?」


 口火を切ったのはこのちゃん。

 向かい側であからさまな作り笑顔を浮かべているひなきにけわしい顔で問う。


「みんなには黙ってたんだけど、実は少し前から体調が安定しなくてさ。ほら、このも女の子だったらわかるでしょ」

「ならどうしてインハイの団体戦のメンバー最終審査をバックれたの? 体調が安定しないなら、もっと早くに先輩なり顧問なりに伝えて相談に乗ってもらえば良かったのに。部活での自分の立場が危うくなるようなマネなんかして」

「いや~、私もギリギリまで粘ったんだけどね。直前に身体が悲鳴をあげちゃってさ。ほんとまいったよ~」 


 笑ってよと言わんばかりに身振り手振りを交えてアピールするが、この場で人の不幸に声を上げて笑う人間など誰もいないわけで。


「私たちに言わなかったのはどうして?」

「そうですよ。私たちはクラスメイトでお友達なのに。水くさいじゃないですか」 

「ごめんごめん。だって話したら心配するでしょ。私のことでみんなに気を遣ってほしくないんだよね」

「なにそれ。意味分かんない。付き合いの浅い大原や星羅はともかく、幼馴染の私にまで話してくれないのはどうして?」

「どうしてばっかだなこのは。このだって、幼馴染でも話せないことの一つや二つはあるもんでしょ?」


 中途半端に茶化した言い方で答えをにごすひなき。

 その視線の先、ストローでかき混ぜ螺旋状らせんじょうにグラスの中をぐるぐる逃げ回るメロンソーダの中の氷を、自分に見立て。


「......まぁ、距離が近いからこそ話せないこともあるわな」

「さすが大原。分かってくれるねぇ」

「黙ってたのはシンプルにショックだけどな」

「ぐはッ!」


 もちろん物語を進めるための建前上のセリフだ。

 転生者特権で内容を既に知っている俺は例外として、何も知らないこのちゃんや睦月はもさぞやもやした気持ちだろう。


「ひなきさんのお心遣いは嬉しいのですが、そういう時は相手の気持ちを考えるより、自分の気持ちを優先してください。でないと、いつか自分自身の心が壊れてしまいますよ?」

「うん。ありがとね、星羅」


 言えば楽になるのに、相手を気遣うあまり嘘に嘘を重ね、結果自分で自分の傷をさらにえぐってしまう。優しさも使い方を間違えれば人を傷つけてしまう行為になりかねない。

 必ずしも優しくすることがベストの選択肢ではないことを、俺はこの彼ら・彼女らの青春の一ページを読んで改めて思い知らされた。

 人生とはさじ加減と駆け引きの連続である。って、26年とちょっとしか生きてない奴が言うセリフじゃないか。


「......最後に訊かせて」

「なに?」


 許してくれた睦月とは違い、このちゃんはまだ納得がいかないといった様子でひなきに問う。


「もしかして知葉かずはの件、気にしてる?」

「まさか。もう終わったことだし」

「そう......。私、そろそろ部活に戻るね」


 意味深なやり取りに、何も知らない正面の睦月だけが頭の上に大きな疑問符を浮かべる。

 だが訊ねることもなく、部活に戻ってゆくこのちゃんを俺たちと一緒に見送った。

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