第3話 まずは聖女に近付くことだ(side アスター)
「申し訳ない、ヴェンデール隊長」
聖女セレスとの謁見後、アスターは神官長から呼び止められてそう切り出された。
「聖女様はいつもああなのですか?」
アスターはセレスがつかんでぶんぶんと振った手を見つめながら、問いかける。
「言動が突飛な方ではありますが、儀式では威厳のある、皆が思うような聖女様を演じ、いえ、聖女様らしい振る舞いをされますよ。今日はどうされたんでしょうね」
はあ、と老齢な神官長がため息をつく。
神官長は長年聖女に仕えている人物だ。その人物がおかしいというのだから、今日の聖女はおかしかったのだろう。
「……まるで他人みたい、でしたか?」
アスターが確認すると、そうですね、と神官長が頷いた。
「まあ、あの方はただの人間ではありませんからね。我々の尺度で測ってはいかんのでしょう」
「そうですね。この三百年ずっと、変わらない姿で王都の結界を維持し、この国を魔物たちから守っている……聖女どころか、セレス様は女神様なのかもしれませんね」
アスターの言葉に、神官長も同意したものの、
「あんなおてんばな女神様がいらっしゃったら驚きますけどねえ」
しみじみと呟いた。苦労しているらしい。
神官長と別れたあと、アスターは今日から護衛の責任者となる神殿を見て回ることにした。
神殿は大きくない。護衛の聖騎士は五人体制だ。交代しながら二十四時間体制で護衛に当たる。
ふと人の気配を感じて見上げると、銀色の髪をなびかせて聖女セレスが回廊を歩いていく姿が目に入った。
――まるで他人みたい、か……。
アスターは聖女セレスを知らない。
しかし、セレスから漂う懐かしいにおいには気が付いていた。
あの人がこんなところにいるわけがない。だってあの人は魔女だ。
なのに聖女から、よりにもよってアスターの恩人であり捜し求めている魔女のにおいがした。
そう、においだ。
忘れるはずもない。
まっすぐな黒髪、赤い瞳、縦長の瞳孔、とがった耳……あの魔女は、美しくもまがまがしい見た目をしていた。それなのに、まとうにおいは甘くて優しい。
アスターの心をとらえて離さないにおい。
――どういうことだ?
けれど、この十五年、どんなに捜しても噂のひとつも聞けなかった魔女の気配を見つけることができた。
これは運命だ。
セレスの後ろ姿を見つめながら、アスターは拳を握り締めた。
――俺は必ずあの魔女を捜し出す。東の魔女カイエを。……まずは聖女に近付くことだな。
聖女は東の魔女となんらかの関係があるはずだ。
でなければ、アスターが捜し求めている東の魔女のにおいがするはずがない。
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