第62話 琴音の純潔。

 

 琴音。


 頭の中に走馬灯のように琴音の顔が浮かぶ。


 悲しそうな顔。絶望している顔。幸せそうな顔。そして、俺を信頼してくれている笑顔。


 『ウチ、れんのこと大好き』


 気づいた時には、琴音の家に向かって走っていた。幸い、ここから琴音の家までは10分程だ。


 俺が直接行くのが1番早いだろう。

 琴音の家に向かって全力で走る。


 琴音の家庭の事情に配慮してる余裕はない。


 俺は走りながら、警察に電話した。

 そして、すぐに親父にも連絡する。


 最低限の事の経緯、俺がこれから琴音の家にいくこと、その他、必要な手配を頼んだ。


 親父は事情をすぐに察して、「琴音ちゃんを守れ」というと、電話を切った。


 せめて、親父たちに、今日の凛との待ち合わせのことを話しておけばよかった。


 くそ。


 凛をあそこで待ちぼうけさせてしまうだろう。

 俺が呼び出したのにごめん。


 あぁ、凛とはもう無理かもな。


 ほんとは凛に連絡すべきなのだろうが、一瞬でも足を止めてはいけないと思った。


 琴音。

 まだ、無事だろうか。


 命にかえても、琴音を守る。

 

 俺は全力で走る。

 琴音の家は団地だ。狭い踊り場を駆け上がり、壁に身体を擦りながら、蛇のようにうねる階段を全力疾走する。


 琴音が住む4階についた。

 ドアには鍵がかかってなかった。


 鉄製の重いドアを開ける。

 俺は靴を履いたまま家の中に入る。



 家の中は物が散乱していて、不気味なほど静かに感じた。俺の心臓はドクンと動き、胸が締め付けられるような感覚をおぼえた。



 薄暗い廊下を進み、奥の部屋をあけると、琴音がいた。


 琴音の上には、下半身を出した男が馬乗りになっている。男は怒張した汚いモノを、琴音の口元に押し付けてようとしていた。


 美しい琴音には不相応な醜い男。


 琴音は既に対抗を諦めているようだった。

 ……下着を剥ぎ取られて、両脚はだらしなく開かれ、性器が丸出しだった。


 琴音の内股には、何かを打ち付けられたような無数の傷があった。



 「琴音!!」

 俺は叫んだ。



 琴音は俺に気づくと混乱した様子になる。

 こちらを見ると力なく言った。


 「ウチを見ないで」


 そう。

 助けてではなく、見ないでと言ったのだ。

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