第48話 凛の悩み事。


 「どうしよう」


 わたしはカフェのトイレに駆け込み、鏡を見ながら自問する。ほっぺをムギューとするが、夢ではないらしい。

 

 加藤さんに告白されてしまった。


 ほんと、どうしよう。


 

 ……きっかけは、職業レポート。


 れんくんがバイトでいない時に、わたしが1人で作業してたら、加藤さんが気にかけてくれたのだ。


 それで、色々と手伝ってくれて。

 わたしは、深雪で一人ぼっちな気がしてたから、少し嬉しかった。


 図書室にいると、時々、向かい合わせに座って、手伝ってくれるようになった。


 加藤さんは、わたしの手を止めないよう、作業の合間に少しだけ話しかけてくれる。


 私立から深雪にきたこと。

 家のこと。

 高校のこと。


 図書室では話せないし、わたしはただ頷く。


 そんなある日のこと、学校行事で図書室がいつもより早く閉まってしまうことがあった。わたしが困っていると、通りがかった加藤さんが、勉強しやすいオススメのカフェがあるとかで、教えてくれた。


 行ってみると、学校からも近く、手頃な価格帯なのに雰囲気がよくて使い勝手が良さそうだった。いいお店を教えてもらえて嬉しい。

 

 案内させっぱなしというわけにはいかない。わたしは、お礼にお茶をご馳走することにした。


 加藤さんはブラックコーヒー、わたしはホットチャイを頼む。


 湯気がたつと、ふわっとチャイの良い匂いがする。わたしがのんびりしていたからか、加藤さんは、色々と自分のことを話してくれる。


 「賢勇ってさ。内申のために足を引っ張り合ってるんだよ。他の学校を見下してるし。人の表面しか見ていないっていうか。僕は、そういうのが好きじゃないんだ」


 わたしはチャイをすする。

 加藤さんは話し続ける。加藤さんはクラスでは寡黙なイメージで。こんなによく話す人だとは知らなかった。


 「あと、成績だけで人間性を肯定されたり、外見だけで好意を持たれるのも、なんか違うんじゃないかと思う。深雪でも、なんか一歩引いてしまって。だから、神木さんが転校してきて嬉しかったんだよ。なんか、自分と似てる気がして」


 たしかに分かる。

 わたしもそういうのは、好きではない。


 わたしは、ウンウンと頷いた。


 でも、少しちがうとも思う。


 わたしには、わたしをわたしよりも大切にしてくれる蓮くんがいるし。レンくんは、良くも悪くも、そもそも成績や容姿で人を見ていない。


 まぁ、可愛い女の子は好きみたいだけど……?


 表面で見られたくないのは、成績が悪い子や、容姿に自信がない子も、一緒なのでは? と思う。


 それに、成績や外見だって、多くの場合、陰で努力していたりするし、その人の一側面だと思う。でも、いまのわたしがこう思うのは、蓮くんの影響かもしれない。


 わたしは、素直に受け取れなかったそういう褒め言葉も、最近は素直に受け取れるようになった。


 だって、毎日のように、蓮くんがわたしを可愛いって言ってくれるんだもん。あと、頑張ってるって。だから、わたしは前よりは素直になれたと思う。


 ……れんくんに会いたいな。

 毎日会ってるのに、毎日のように、早く会いたいって思うよ。

 

 でも、加藤さんはレンくんの親友だから。

 わたしは、話を合わせている。


 これって、やっぱり、加藤さんとわたしは似てるのかもしれない。


 「神木さん」


 「は、はい!」


 しまった。上の空だった。


 「それでね、神木さんは、蓮のこと好きなの? あ、姉弟としてじゃなく、ひとりの異性として」


 わたしは心臓が破裂しそうになった。

 わたしは、蓮くんが好きだ。


 でも、他人に聞かれた時にどう答えるべきか、客観的にこの感情がなんなのか、あまり考えたことがなかった。


 姉弟で恋愛とか、嫌悪感を持つ人は少なくないだろう。わたしがそう思われたら、蓮くんまでそう思われてしまう。


 加藤さんは蓮くんのお友達なのだ。 

 加藤さんに気持ち悪いと思われたら、きっと蓮くんが傷つく。


 「蓮くんを……異性として考えたことはないです」

 

 わたしは気づいた時にはそう答えていた。答えてしまっていた。


 「そっか。よかった」


 加藤さんは、笑顔でそう答えた。

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