第50話 凛と花火大会。

 (蓮の部屋)


 俺が部屋でゴロゴロしていると、凛からスマホにメッセージが入った。隣の部屋なのに、なにゆえメッセージ?


 恋人ごっこしたいとか?


 「れんくん。花火大会に行きたいです」


 花火大会といえば、カップルの夏の思い出の最高峰。多くのカップルが、一夏ひとなつの初経験をするという伝説のイベントだ。


 まぁ、一夏もなにも、もう秋だし。うちらは同じ家に帰るのだ。そういう一夜のまぼろし的なのは期待できないけど、もちろんOKだ。


 「いいけど」


 おれは返信した。

 すると、ダダッとリンが部屋から出てきてドアを開けた。


 いつものことだが、ノックくらいしてほしい。

 自分はノックなしで開けられたら、この世の終わりみたいに大騒ぎするくせに。


 ほんと、この世は男女不平等だ。


 んで、なんの用なんだ?


 凛は開口一番。


 「いいけど、ってデートなのに、なんか投げやり」


 「えっ。デートなの?」


 「わたしはそう思ってる……イヤ?」


 「そんなわけないじゃん。楽しみにしてるよ」


 すると、凛ははにかんで、幸せそうに笑った。


 「わたしも、楽しみにしてる」


 「っていうか、このやり取り、最初から口頭でよくないか?」


 凛は恥ずかしそうな顔をする。


 「……メッセージでやりとりしたかったの」


 

 そんなこんなで、週末に花火大会に行くことになった。


 

 俺はバイト先に用事があったので、会場の最寄り駅で駅で待ち合わせした。俺は駅の時計台の下でまつ。


 何組ものカップルが手を取り合い、笑い合うと会場に向かって去っていく。すると、少しだけ自分が取り残された気分になった。


 俺は腕時計をみる。

 それを何度か繰り返して、少し不安になりはじめた頃。


 「ごめん。待たせちゃったよね」


 カランカランという足音をさせ、凛がきた。


 凛は浴衣を着ていた。

 浴衣でくるとは思っていなかったのでビックリした。

 

 白地の浴衣に黒の帯紐。浴衣には黒の花柄が入っていて、帯には紫の花飾りをあしらっている。髪の毛はかんざしでアップにしている。アイラインは赤みがかっていて、今日の凛は、大人っぽくみえた。


 浴衣姿の凛は、一言でいえば。


 可愛すぎる。


 陳腐だが、この表現がピッタリだ。


 凛の浴衣姿は、温泉でも見たけれど、今回は、俺のために選んでくれた浴衣。一段と可愛い。


 やっぱ、凛が一番だ。


 もちろん、顔だけじゃないと思ってるけれど、会うたびに圧倒的な可愛さでドキドキさせてくれる子っていいなぁ、と思う。


 凛は両手で巾着をもつと、下から覗き込むようにいった。


 「……どうかな?」


 俺はつい本音で答えてしまった。


 「その。可愛すぎて……、一目惚れしないようにするのが、大変だよ」


 すると、凛は頬を赤く染めて、笑顔になった。


 「れんくんに褒められるの。嬉しい。でもね。女の子は、……大切な人に一目惚れされたくて、頑張ってオシャレするんだよ?」


 「えっ、それって……」


 凛は答えない。

 ただそっと、凛が手を添えてくるのだ。


 俺は気恥ずかし気分になりながら、凛とならんで歩いて花火会場を目指した。


 こころなしか、最近、凛が積極的な気がする。

 琴音の影響だろうか。


 

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