第51話 りんごあめ
開始まで、まだ少し時間がある。
俺らは、会場近くの商店街に行くことにした。
商店街は、花火大会ということもあり大繁盛だ。所狭しと仮設店舗がもうけられ、各々、道沿いで色々なものを売っている。
毎度のことだが、凛と並んで歩いていると男達が次々と振り向く。高校生くらいからオジサンまで。
「なにあの子。かわいい」
「タレントかな?」
「わたしも浴衣着てくれば良かったなあ」
なんて声がちらほら聞こえてくる。
そんな子と歩いているのは優越感なのだが、肩身が狭かったりもする。おれは平均中の平均だからね。
凛が露店で足を止めた。
「なにこれすごい。飴の中にリンゴが入ってる!!」
異世界の食べ物を見たような顔をしているので、買ってあげた。すると、凛は腕を組んできた。
「れんくん。ありがとう。一生大切にするね!」
「いやいや、溶ける前に食ってくれよ」
でも、凛は、しばらく手に持って満喫すると、大切そうに巾着の中に入れた。この蒸し暑さだ。帰った後の惨事が容易に想像できるが、あえて言うまい。
しばらく歩いて、海辺の見通しのよい場所をみつけた。ちょうど動線から外れているらしく、人が少ない。
2人で打ち上げの開始を待つ。
夏の残りの湿っぽい風が、吹き抜ける。凛はそのたびに、髪の毛をかきあげ、笑顔をみせた。
夕焼の赤みがひいてきた頃、花火が始まった。
ドーンという轟音に僅かに後れて、上空に
夜空に咲き乱れる大小の花輪を見ていると、『夏が終わったんだなぁ』と感じる。
思えば、今年は夏は特別だった。
親父が再婚して、突然、凛がやってきて。
……初めて会った日、こいつ憎らしかったよなぁ。世界一性格が悪いんじゃないかと思ったっけ。
俺は苦笑してしまう。
でも、それから、海辺で一緒に叫んだり、凜を背負って高尾山を下ったり、喧嘩したり、泣かせたり、泣かされたり。
そうやって少しずつ仲良くなって。
今では、凛は、俺の中で掛け替えのない存在になっている。凛がきてから、俺の毎日は色鮮やかになった。
もし、凛がいなくなったら。
きっと、毎日はどんどん灰色になって、つまらない普通の日に戻ってしまうだろう。
はぁ……。
思わず、ため息が出てしまう。
すると、凛が手を握ってきた。
凛の横顔は、花火のあかりに照らされて、煌々としていた。
俺は、凛の瞳に映り込む花火を見ている。雷鳴のような轟音の合間に、一瞬の静寂が訪れ、凛が口を開く。
「わたし、れんくんのこと好き」
えっ。
凛はこっちを向くと、俺の目をじっと見つめてくる。
ドドーンという音を伴って、まだ陽の欠片が残った紺色の空に金色の大輪があがる。その光に照らされた凛の頬は、鮮やかな桜色だった。
「このきもち、琴音に負けない。君のことが大大大好き。わたし、君に恋しちゃったみたい」
※※※
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/omochi1111/news/16818093082399027631
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