第44話 名探偵さやか。
わたしは、一条 さやか。
深雪高校一年のスポーツ女子だ。
わたしには、蓮という幼なじみがいる。
わたしは、彼が好きだ。
そう。わたしは絶対無敵の幼なじみポジ。
どんなライバルヒロインが来ようとも、負けるハズがない。
だけれど、最近、レンの周りに女の影が増えている気がする。それに、わたし、幼なじみだけど、仲良くなったの中学の時だし……、正直、幼なじみなのに影が薄い気がしてならない。
だから、わたしはこれからしばらくの間、ターゲットの神木 蓮を調査することにした。
校外学習から帰ってきたあと、春川さんが凛ちゃんに謝った。春川さんは、空気を吸うように誰かを攻撃していないと死んじゃうタイプだと思ってたから意外だった。
その後、蓮が春川さんを教室から連れ出した。わたしは、トイレにいく感じで2人を追いかける。
すると、空き教室に入って行った。
密室で2人で何してるの!?
中を覗きたいが、バレてしまいそうだ。幼馴染からストーカー女に格下げになったら、色々と絶望的だし、慎重に調査せねば。
窓が閉まってて音も聞こえない。あっ、向こうに閉め忘れている窓がある!
わたしは、窓の近くにいって聞き耳をたてる。
すると、なんだか真面目な話をしているようだ。春川さんの声が聞こえてきた。
「ウチ……好きになっちゃったんだから、しょうがないじゃん」
えっ。どーやったら、好きって展開になるのよ。わたしの一件で、あなたたち不仲だったでしょーが。
中の様子が気になって我慢できない。
本能のまま突撃か?
すると、教室のドアが開いた。
わたしは急いで身を隠す。
春川さんが蓮に抱きついている。
(チュッ)
はぁ?
あの女、いま、レンのほっぺにキスしたぞ?
いみわかんなーい!!
敵同士がいきなり恋に落ちるとか、ハリウッド映画みたいなんですが。
しかも、あの女、別れ際に「幸せ」とか言ってる。
教室を出る春川さんの顔。
恋する乙女そのものじゃないか。
どうせ、蓮のことだ。
ギャップ萌えとか思ってそう。
それにしても、この前、何かのアニメでみた「世の中には幼馴染と泥棒ネコしかいない」っていうのは本当みたいだ。
横から出てきちゃって、この泥棒ネコがぁぁ!!
あっ、やばい。
わたしは教室にいるハズの人だったんだ。
急いで教室に戻る。
そうしたら、わたしも春川さんに謝られた。
なんか、春川さん、思ったよりも良い子なの?
み、認めたら負けだ。
この子は、にっくき泥棒ネコなのだ。
ヘイト値ピークだったからか、つい思いっきりビンタしてしまった。でも、約束通り許さないと。
もう、琴音のことはいい。
なるようになるさ。
とりあえず、今週末は別れさせのご利益がある神社に行こうと思う。
……調査終了かと思ったが、もしかしたら、他にもライバルがいるかもしれない。わたしは、まだ尾行を続けることにした。
次の日、学校が終わると、蓮がそそくさと教室を出ていく。も、もしかして、デートか?
すると、校門の前で蓮に手を振る美少女が。
って、凛ちゃんか。
姉と弟で待ち合わせって。デートかいな。
で、でも、2人は姉弟だしね。
いくら仲がよくても、わたしが心配するようなことは……。
すると、凛ちゃんが蓮の手を握った。
クスクス笑いながら、寄り添っている。
はい。後ろ姿だけみたら、付き合いたてのカップルみたいですね。それに、蓮のあの締まりのない顔。
……わたしが心配するようなことは、あったみたい。
でもね、2人は姉弟だし、結婚したりできないし。凛ちゃんが、そんな不毛なことするとは思えないし。
いや、まさかね。
念の為、わたしはスマホで日本の婚姻制度について調べてみた。すると、どうやら、義理の姉弟は、法律的には結婚できるみたい。
わたしは、ショックで地面に膝をついてしまった。これって、どちらかの想いが突き抜けたら、いきなりゴールインとかありえるんじゃ。
やっぱり、最大の危険人物は凛ちゃんか。
この泥棒ネコがぁぁ。
……って、あれ。
もしかして、凛ちゃんからしたら、泥棒ネコはわたしの方かな?
尾行も段々と虚しくなってきた。
あと少ししたら、やめよう。
すると、蓮は凛ちゃんと別れた。
バイトかな?
最後のミッションはバイト先の調査だ。
蓮が店に入るのを確認して、客のフリをして店内の様子を窺う。
すると、蓮はレジにいた。蓮の横には、メガネの可愛らしい女の子がいる。
少し年上っぽい。バイトの先輩かな?
だったら、心配ないか。
帰ろっと。
すると、蓮の声が聞こえてきた。
「やめろよ、かえで! あつくるしい」
すると、蓮に抱きついて頬擦りしている女の子が言った。
「大丈夫かー? 寂しかったら楓ねーさんが慰めてあげよーか? 処女だから、リードは期待するなよ?」
蓮はその子の頬を押し返して離れると、売り場に行った。その子は、蓮の後ろ姿を視線で追うと、机の上で両手を重ね、ふうっとため息をつくと、こう言うのだ。
「……なかなか伝わらないなぁ」
なんか、めっちゃ気がありそうなんですけれど……。
これは直接のコンタクトが必要かも。わたしは、適当な本を買うことにしてレジに近づく。女の子の名札には「楓」と書いてある。
3人目の泥棒ネコの名前はカエデというらしい。
なんだか、わたしが手に取った本がBLだったらしく、カエデさんは、目を輝かせると嬉々として色々とわたしにリコメンドしてくる。なんか、この人こわい。
わたしは、そそくさと店を後にした。
名探偵たるもの勇足は禁物だ。
足を使うよりも、まずは考える。それが大切。
彼の周りの女性関係を整理しよう。
(①匹目の泥棒猫)神木 凛
最要注意人物だ。美人、品行方正、学業優秀、優しい。3ならぬ4拍子そろった正統派ヒロイン。正直、わたしに彼女に勝てる要素はない気がする。
それに、レンは彼女をみるとき、露骨にデレデレしている。だけれど、彼女は姉なのだ。真面目な凛ちゃんのこと、弟にやすやすも手は出すまい。
(②匹目の泥棒猫)春川 琴音
ダークホース。性悪ヒロインのはずが、なぜか蓮には素直。ほんと、子供のような素直さ。それに、勉強している様子はないのに、成績は悪くない。地頭が良いのかもしれない。顔は結構、可愛い。
盲目的な一途さ。たぶん、レンが誰かを殺せといったら、何の躊躇もなくやりそう。怖い……。性悪キャラが浸透してるせいで、可愛いのにモテない。つまり、他の男にはなびかないということだ。なにげに強敵かも。
(③匹目の泥棒猫)楓(名字不明)
蓮のバイトの先輩。腐女子ということだが、眉が少し太めで、やわらかな印象の美人だ。メガネがよく似合っている。BLしか興味がないとの前情報だが、蓮のことは気に入ってるみたい。処女あげてもいいって、男の子としてかなり意識してるってことだし。対抗馬なしの先輩ポジ。
意外に彼女みたいなノーマークヒロインに、初キスとか初エッチだけかっさわれるというのはよく聞く話だ。用心せねば。
最後は自己分析。
(④匹目の泥棒猫)一条 さやか
スポーツ万能だが、勉強は中の下、顔はたぶん人並み。幼なじみのユニークスキルであるはずの『将来の結婚の約束』すらしてない、中途半端ポジ。
正直、影が薄い。これが何かの物語なら、わたしもヒロイン格なはずなのに……、わたしがメインの話、きっと今まで一話くらいしかないと思う。ひどいよ。
総括。
①この前、かけっこで凛ちゃんに負けた。
②勉強してないはずの琴音に勉強でまけた。
③年上の色気もない。
……わたしの強みは、ショートカットなことくらい?
あー、もう。
考えてたら、泣きたくなってきたよ。
どうしていいか分からないから、お参りでもしよう。
霊言あらたかな、別れさせ神社に行く。
本堂の前でお賽銭をいれて、鈴をガラガラとした。
ターゲットは3人なので、奮発してお賽銭は300円だ。目を閉じて、一心不乱に拝む。
帰り道、参道のわきにおみくじガチャがあったので回してみる。
100円を入れて、ガチャを回す。
すると、カプセルが出てきた。
カプセルをあけると、おみくじと、何故かポケットティッシュが入っていた。吸水性抜群と書いてある。
おみくじは『大吉』だった。
やったぁ!!
なになに。ふむふむ。
健康運、金運、などなど。無双なことしか書いてない。
よっしゃー!!
肝心の恋愛運はどうかな。
「恋敵多し。十中八九負ける」
は?
これ大吉でしょ?
ここまで書く? 普通。
しかも、大吉のくせに。
わたし、生まれて初めて、おみくじに泣かされそうなんだけど。
あっ、まだ裏面に続くみたい。
きっと、裏面には恋愛無双なことが書いてあるはず。
「戦う前から負けている」
なぜ、いきなりタメ口!?
神様からのダイレクトメッセージかしら。
…………。
なんだか、本気で泣けてきた。
そして、わたしの右手にはガチャから出てきたポケットティッシュが握られている。
これで涙を拭けってか?
まじムカつくんだけど。
ビリビリッ。
怒りのままにおみくじを破いた。
わたし、キリスト教徒だし。
おみくじなんて関係ないもん!!
※※※
さやか探偵の追加レポート
【ヒロイン紹介】成瀬 楓
https://kakuyomu.jp/users/omochi1111/news/16818093082188469202
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