第28話 散歩。

 

 川べりを手を繋いで歩く。

 しばらくいくと、浜辺が見えてきた。


 海岸の先には、大小の小島が見え、その間からは富士山が見える。絵葉書みたいな風景だ。


 凛が海風でなびく髪を押さえて、大きく口をあけた。


 「れんくーん!!」


 ん? なになに?

 愛の告白かな?


 「へんたーいっ!! えっちー!!」


 えぇーっ!?

 このシチュエーションでそれですか。


 凛は言葉を続ける。


 「ばかぁー!!」


 追い中傷、ごちそーさんです。


 おれはなんか可笑しくなって笑った。

 すると、凛も白い歯を見せて、悪戯っ子のように笑った。


 2人で笑い涙を拭って、凛の手を取る。


 「旅館に戻ろうか」


 「うん」


 凛は大きく頷いた。



 旅館に戻ると、親父に風呂に誘われた。

 親父と2人で風呂に入るの、何年ぶりだろう。もちろん、初めてではないが、覚えていないくらい昔なのは、確かだ。


 露天風呂で親父と並んで座る。雲見は塩泉なので、肌が額から少しピリピリする。

 

 親父は大きく息を吐くと、俺に話しかけてきた。


 「んで。凛ちゃんのことはどうなんだ?」


 は? なぜいまその質問。

 いまって、こう、もっと親子的な話する時間じゃないの?


 たとえば、学校はどうか? とか。


 俺は答えた。


 「まぁ、最初よりは、仲良くなったと思うよ」


 「そうか。女性として好きとかはないのか?」


 って、仕切り壁の向こうには雫さんとかいるんだよな。さっきから、凛の声も聞こえてるし。


 「……別に、そんなんじゃねーよ」


 「ならいいんだが。覚悟がないなら、手は出すなよ? 父さんにとっては凛ちゃんも娘だからな。何かあったら、お前だけの味方はできないぞ?」


 「そんなん、わかってるよ」


 すると、親父は俺の肩を叩いた。


 「ところで、凛ちゃんは学校ではどうだ?」


 って、さっきから凛の話ばかりだな。どんだけメロメロなんだよ。


 「まぁ、うまくやってるんじゃないか? 男女問わず、いつも人だかりができてるよ」


 「そうか。時には、『欠点がない』という馬鹿げた理由で嫌われることもあるからな。嫉妬は怖い。気にかけてやれよ?」


 「あぁ」


 俺が不機嫌になったと思ったのか、親父は耳打ちしてきた。


 「まぁ、凛ちゃんに手を出す時は、当然、『娘さんをください』からの〜、父親の俺に殴られる覚悟でな? そーいうの憧れてたんだよ。明日から筋トレはじめよーかな……」


 「え、姉弟なのに、凛と結婚とかでき……」


 俺が言い終わる前に、親父は鼻歌を歌いながら風呂から出て行ってしまった。肝心なところで聞いてないし。


 俺も追いかけて風呂を出る。すると、親父は脱衣所にいた。


 「なんか、もっと俺自身のこととか聞いてくれないわけ?」


 親父は笑いながら答える。


 「だって、お前。人付き合いだけは得意だろ? 父親としては、勉強をもうちょっとどうにかして欲しいがな」


 「はい……。おっしゃるとおりです」


 風呂を出ると、凛と雫さんがいた。


 凛が雫さんに背中を叩かれてこっちにきた。

 俺の前までくると、俯いて口を尖らせる。


 「もう。あんたのせいで、ママにからかわれっぱなしなんだけど……」


 雫さんは追い討ちをかけたいようだ。


 「ね。蓮くん。さっき凛が、気になる人いるって言ってたよ。誰だろうね〜?」


 「え。それはどういう……」


 雫さんは笑って肩をすくめると、答えることなく父さんのところに行ってしまった。


 「りん、あれどういう意味? 誰かいるの?」


 凛は目を合わそうとしない。

 頬を赤くして、口を尖らせていった。


 「……知らない。ばか」

 

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