第26話 勝敗の行方。
俺が戸惑っていると、おといさんは普通に音羽のクリームを拭って舐めた。
これは実兄妹的にはアリなのか?
妹がいない俺にはよく分からない。
俺も凛の唇についたクリームを拭う。すると、指先に、柔らかな凛の唇の感触が残った。
俺はそれを舐めようとする。
『これって、間接キスだよね?』
そう思ってると、凛も同じことを思ったらしい。「やっぱダメッ」と言って、俺を制止した。
すると、音羽はニヤリとしている。どうやら、自分の勝ちと思ったらしい。
それにしても、クリーム舐めを平然とやってのけるこの2人。もしかして、本物か? ホンモノの近親相◯か?
だとしたら、相手が悪い。勝てるわけがない。凛、この勝負はおりた方がいいぞ。
凛は負けを認めることは出来ないらしい。ついには、直接に言葉に出して、2人の想いを確かめ合うことになった。
うちらが先攻だ。
俺は凛の前にたつ。
今日だけは許される愛の告白。いままで出来なかった分、悔いが残らないように思いっきりしとこう。
俺は凛の目を見つめる。
そして、抱きしめた。凛の肩が少しだけすくむ。
「凛、大好きだよ。誰に反対されようとも、ずっと一緒にいたい」
すると、凛の肩が震えた。凛の頬や耳から熱が伝わってくる。そして、いつからか凛の頬は濡れていた。
凛は俺から身体を離す。
すると、両手を胸のあたりで組み合わせて、俺の頬のあたりを見つめて、ためらうように小さな声でいった。
「許されるのなら、れんくんのお嫁さんになりたい……」
凛の頬からポロポロと涙が流れ落ちる。
まるで、溢れた想いが、涙となって流れ落ちているようだった。
凛は目を閉じて、少しだけ顎を上に上げた。俺が下を向けば、ちょうどいい高さに唇がある。
……キス、していいのかな?
いくら勝負に負けたくないからと言って、ここまでしても良いものなのだろうか。
でも、自然に身体が前に動いて。
この衝動を抑えられそうにない。
(パンッ)
おといさんが手を叩いた。
「はい! 終わり!! 音羽、もう気が済んだろう? これ以上は、立ち入りすぎだ」
俺と凛は訳がわからなくて、呆気に取られてしまう。すると、音羽が続けた。
「はい……、兄様。おとわの
「ほら。2人とも固まっちゃってるぞ? ふたりとも、ごめんな。おとわは、転校した凛ちゃんをどうしても心配みたいで。凛ちゃんのナイトがどんな人か見てみたいって駄々をこねてね」
「みなさま。すみません。変な殿方だったら、ひっぱたいてやろうと思いましたの……」
俺と凛は目を見合わせて、身体を離す。急に素に戻って居ても立っても居られない気持ちになった。恥ずかしすぎる。
凛は一生懸命に涙を拭いて、髪の毛を整えている。
俺は凛に聞いた。
「凛。さっきの本気?」
「そ、……そんなことあるわけないし。演技よ。演技」
「そっか。すごい演技力だな」
……ということにしておこう。
音羽が俺に近づいてきた。
「凛さんを
なんだか微妙に侮辱されている気がするんだが。でも、凛のことを心配しているのは本当らしかった。
帰り道、凛と並んで歩く。
「なぁ、凛。お前、ちゃんと友達いたんだな」
凛は頬を膨らませて反論する。
「なんか、いま、すごく失礼なこと言われてない? 友達くらいいるし!! それに、音羽はそんなのじゃないし」
そうかそうか。
あれ以上の友達はいないと思うが。
凛、お前の価値を分かってくれる人がいて良かったな。
夕焼を一緒に眺めながら、同じ家に帰る。
今日は雫さんも家にいるので、4人で夕食だ。
おかずは鳥の唐揚げとサラダ、冷や奴。
雫さんと凛は、エプロンをつけてパタパタと動き回っている。
親父は、瓶ビールを飲みながらその様子を眺めている。俺も眺めている。
なんかこういうの良いなぁ、と思った。
きっと、親父も同じ気持ちなのだろう。
親父はグラスを片手に俺に話しかけてくる。
「蓮。早くお前と、ビールで乾杯できるようになりたいもんだな。息子と一緒に酒を飲むのは、俺の夢なんだ」
そうだな。親父。
雫さんと凛がきてから、親父との会話も増えた。きっと、親父と2人で暮らしてたら、親父のこんな気持ちを知ることはなかっただろう。
4人で食卓に座り、いただきますをする。
すると、親父が突拍子もないことを言い出した。
「家族も全員そろったことだし、来週末に旅行にいくか」
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