第25話 聖ティアの聖女。
音羽は眉間に皺を寄せている。
「ところで、おとはさんの彼氏さんは?」
「あ、わたくしのことは『おとわ』と呼んでくださいね。おとはは言いにくいと思うので。彼は……あちらの方。
口は悪いが、気遣いはできる子らしい。
まつ毛が長くて、切れ長、奥二重で品の良い目をしている。肌は陶器のように白く……って、音羽に似すぎだろう。
名前も
これは、きっと兄とか親族とかそんなのだな。
兄(仮)と義弟を引き連れての、見栄っ張り対決。茶番感が半端ない。
まぁ、いいや。
凛と音羽の生態を観察するとしよう。
凛と音羽は、並んで歩いて何か言い合っている。
おといさんは気さくな感じの人で、話しやすそうだ。凛と音羽について教えてくれた。
2人は、やはり入試の主席と次席らしい。しかも、聖女、巫女姫なんて似た様なニックネームをつけられ、ことあるごとに比較されるものだから、すっかり互いをライバル視するようになってしまったということだ。
俺は疑問がわいた。
「でも、凛は普通の家の子だし、名家という点では
おといさんは首を横に振る。
「凛君の旧姓、
……いま、この人。『ウチ』って言いましたよね!?
まぁ。いい。
ここを追求しても誰も幸せにならない気がする。
おといさんは良い人そうだし、普通に楽しむことにしよう。まずは、ジェットコースターに乗ることになった。
すると、凛と音羽は、どっちが平然としていられるかを競うと言い出し、2人で横並びで乗った。
「わたくし、絶叫マシンは3度の食事より好きですの」
「わ、わたしも好きなんだから!」
……もういい。勝手にしてくれ。
俺とおといさんで並んでのる。
どちらからともなく、口を開いた。
「これ、うちら一緒にいる必要あるんですかね?」
「さぁ?」
コースターは凝った作りで、待ち時間にも暇しないように所狭しと世界観を感じさせる仕掛けなどがある。コースター自体は岩山を颯爽と駆け抜ける面白いもので、最後に急降下するのだ。
そして、落下時の写真を撮影され、欲しければ記念品として買うことができる。
俺らもアトラクションの出口で、写真の表示待ちをしている。しばらくすると、凛と音羽の写真が表示された。
どれどれ。
って、凛も音羽もどっちも必死の形相で目を
コースター勝負はひきわけ!! かな。
コースターの休憩もかねて、クレープを食べることにした。
凛は苺チョコクリームを頼んだ。
音羽は……?
音羽も苺チョコクリームを頼んでいる。
……ほんと気が合うね? 君たち。
すると、目の前で小学校低学年くらいの男の子が転んで、買ったばかりのクレープを豪快に落とした。親はトイレにでも行ってるのかな。一緒にはいない。
子供は地面に落ちて潰れた自分のクレープを見て、号泣しはじめた。
すると、音羽は、まだ手をつけていない自分のクレープを子供に渡そうとする。
「お怪我はありませんか? これ。お姉さんのクレープ、まだ食べていませんのでどうぞ」
凛は、子供が落としたのと同じクレープをもう一つ注文している。
「ちょっと、音羽。そんなの勝手にあげないで。わたしが同じクレープあげるんだから」
ふたりでわーわーと騒ぎ始めた。
結局は、その子のお母さんが戻ってきて、凛にクレープ代を渡してくれて一件落着となるのだった。
どうやら、この勝負は凛の勝ちらしい。音羽は舌打ちし、凛は得意げな顔をしている。まぁ、俺から見れば普通に引き分けかと思うが。
その様子を見ていた音衣さんが肩をすくめる。
「……れんくんも気づいたと思うけれど、あの2人。似た者同士なんだよ。同じ様に他人思いで、同じ様に努力家なんだ。2人とも、自分は他人から何かを与えられてきたこと、努力が自分を作り上げることを知っているんだ。なのに、仲が悪いの。もったいないよね」
「ほんとですね。同族嫌悪なんですかね」
さて、クレープ勝負は第二ラウンドになったらしい。
2人とも、いかにも取って風に口の周りに生クリームをつけてこっちに来る。
きっと、俺たちが試金石にされるのだろう。
俺はともかく、実兄のおといさん。
大丈夫?
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