第24話 聖ティアの巫女姫
約束の日曜になった。
玄関先で凛をを待つ。階段を下りてきた凛は、オーバーサイズの黒いシースルーシャツにデニムのパンツ。黒くて紫のリボンが
インナーにも紫のキャミソールを合わせて、黒いキャップを深くかぶっている。耳にはピアスっぽいイヤリングが揺れている。
メイクのことはよく分からないが、アイラインもしっかりしていている。サイドから下ろされた後ろ髪のせいか、今日の凛は大人びて見えた。
なんだか、気合いが入っている。
凛は左手を壁につけ、右足を後ろに上げてブーツを履こうとピョンピョンしている。狭くてうまく履けないようだ。こうして玄関先で渋滞になるのって、一緒に住んでるんだなぁと実感がわく。
俺が内心でにやけていたら、「邪魔」と言われた。最近、優しくされて甘やかされてたから、罵声耐性が下がっているらしい。ちょっとグサってきた。
凛は、無事にブーツが履けると、右手を顎にあてて、前屈みで俺のことをまじまじと見る。
「……なんだよ?」
「ふーん。今日はカッコいいじゃん。ちょっとだけね」
そう。
今日は凛と約束していた一日彼氏の日なのだ。
どうやら、凛には聖ティアで張り合っていた子がいるらしく、今日はその子とのダブルデートということだった。
その友人の名は、
その子は学校では、聖ティアの巫女姫と言われているらしいのだが、なんでも最近、恋人ができたらしく自慢されたらしいのだ。
それで、凛は完膚なきまでにラブラブして彼女を見返したいらしい。
それにしても、転校してまで連絡とりあって、張り合ってダブルデートって。もはや、ただの仲良しな気がするんだが。
……俺は嬉しいよ。凛、ちゃんと友達がいたのね。
待ち合わせ場所は、うちから30分ほどの駅で、今日はその近くにある遊園地にいく予定だ。
今のうちから慣らす必要があるとかで、恋人結びをしながら駅まで歩く。すると、凛が手に汗をかいてきた。
「凛。手汗すごいね」
「ご、ごめん。イヤだよね?」
凛は手を離して一生懸命ハンカチで拭いている。いつも完璧な凛がうろたえてる姿は可愛い。
すこしからかってやるか。
「この前、凛にアレ握られたよね? 少しは興奮したの?」
「する訳ないじゃん。その、男の子の初めて見たから、すごいなって。それに握ってないし」
まぁ、脱衣所でも見られてるから実は2回目なんだけどな。
「また見たい?」
「ばか! しねっ!!」
蹴飛ばされた。
せっかくのジャケットに凛の足跡がついたんだけど。
凛はすぐに言いなおす。
「あ、しねじゃなくて、その。このへんたいっ!!」
最近、凛は『シネ』とは言わない。
冗談でも大切な人にそういうこと言っちゃダメと雫さんに注意されたらしい。雫さん。ナイス。
まぁ、ヘンタイでも攻撃力はあまり変わらない気はするが。
「そのヘンタイの俺の部屋に、毎日、喘ぎ声みたいなのが聞こえてくるんだけど。なんだろう」
「そんなはずない!! 毎日はしてないし」
凛は失言に気づいたらしく、口を手で押さえた。
「もう。この人やだぁ……」
凛は涙袋に手を当てて半べそになる。
よし、勝った。
俺も今日は口数が多いかもな。
なんだかんだ、今日は楽しみだったし。
電車で吊り革につかまって並んで立っていると、こんな日がずっと続けばいいなって思う。
凛の横顔を見る。すると、流れる街並みが凛に反射して、瞳がキラキラしてみえる。本当に綺麗だ。
美人は見飽きるなんていうけれど、アレは嘘だと思う。何百回みても、凛はかわいい。
そんな凛がこっちを向いた。
「れんくん。音羽から、わたしをどう思ってるかとか聞かれるかも知れないから、今日は彼氏らしいこと言ってね。わたしも今日は、真に受けないようにするから」
「凛を好きって言っていいの?」
すると、凛は顔を赤くして頷く。
そうか。今日はいいのか。じゃあ、沢山いっとくか。
……俺は凛のことが好きだ。
ほぼ、確信している。だけれど、凛に言わないようにしようと思ってる。
世間的には、たとえ義理であっても姉弟で恋愛とか、気持ち悪いと思う人はたくさんいると思う。それに、俺は今の家族関係を気に入っていて、凛や、親父や雫さんとの関係を壊したくない。
もしかしたら、うちの両親なら受け入れてくれるのかもしれない。だけれど、義兄妹で恋愛になったことで家庭崩壊とか、実際にある話らしい。
それに、親父にも雫さんにも知人縁者はいて、うちの家族は4人だけでこの世に存在している訳ではない。
失うものが大きすぎて『試してみる』には怖すぎるのだ。
仮に……、それが両想いだったとしても、凛に肩身の狭い思いをさせたくない。
だから、言わない。
言うとしても、それは、もっともっと覚悟ができた時だと思っている。
当の凛は……。
なにかブツブツ言っている。音羽さんとのシミュレーションで頭がいっぱいのようだ。
待ち合わせ駅についた。
白いワンピースに麦わら帽子を被った黒髪の少女がこっちを見つめている。
「凛さん。ごきげんよう。お元気になさっていましたか?」
少女はこちらに手を振ってくれた。
その動きは小さく上品で、慎ましやかだ。
深窓の令嬢といった雰囲気で、みるからに育ちが良さそうだ。それに、陶器のように白くキメの細かい肌は、奥二重で切れ長の目と相まって、すごく上品な印象を与える。小柄で華奢だし、メイド服とかよく似合いそうだと思った。
タイプは違うが、美貌でも凛といい勝負ができると思う。
さすが名家の娘、聖ティアの巫女姫といったところか。
そう思ってると少女は、どこぞの貴族のようにスカートの両端を軽く持ち上げると片足を後ろに引いた。
「はじめまして。わたくし、
前言撤回。
さすが凛のライバル。この子も口が悪そうだ。
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