第21話 深村先輩。
「さやか、ごめん」
俺は凛を追いかける。
だが、追いつくことは出来なかった。
校舎の中、体育館。校内を隅々まで探すが、凛はいなかった。もう帰ってしまったのだろうか。
さやかのところに戻る。
すると、さやかは、既にお弁当を片付けていた。
「さっきはごめん」
俺がそう言うと、さやかはスカートの埃を払って立ち上がる。
「いいよ。……わたし帰るね」
さやかの後ろ姿は、さらに小さく見えて寂しそうだった。
凛。泣いてたな。
どこに行っちゃったんだろう。
しばらくすると、雫さんから凛が泣いて帰ってきたとの連絡がきた。
俺が謝ると、話を聞いとくから心配しないでとのことだった。どこかに居なくなってしまわなくて、良かった。
今日はバイトだ。
凛のことは気になるけれど、そろそろいかないと。
今日のバイトは、
深村さんは、他の高校の2年生で、バイト以外のことでも相談できる頼りになる先輩だ。
俺と深村さんは、本を陳列している。だが、凛のことが頭から離れず、全然はかどらない。
黙っていると不安に押しつぶされそうだ。俺は深村さんに聞いた。
「おれ、今日、ある人をがっかりさせてしまったみたいでして。他の女の子といるところを見られたら、泣いてどこかにいってしまったんです」
深村さんは、顎を触りながら真剣に聞いてくれた。こんな痴話喧嘩みたいな話にも、嫌な顔一つせずに付き合ってくれる。
「神木くん。その人を裏切るような気持ちはあったの?」
俺は首を横に振った。
すると、深村さんは続けた。
「そういうのはね。早く解決したほうがいい。不安が、間違った思い込みを生むんだ。トラウマってあるだろ? あれが怖いのは、トラウマを起こした事実じゃなくて、トラウマから生まれる、猜疑心や被害妄想、自己否定といった誤った負の感情なんだよ」
「そんなもんなんですか?」
「あぁ。僕の後輩でね。中学のトラウマで色々と投げやりになっちゃってるヤツがいてさ。でも、僕が思うに、勘違いや思い込みで、事実の何倍も辛い思いをしてるんだよ。だから、神木くんも。できるだけ早くその子と話すこと。あと、話せる機会は今しかないと思って、カッコつけたりはせずに、本音で話すこと。いいね?」
俺は何度も頷いた。ほんと頼りになる人だ。この人の言葉は心に響く。この人が同じ高校だったらな、とおもう。きっと、こういう人が政治家とかになるんだろうな。
バイトが終わり家に帰る。
玄関ドアを開けると、凛の靴があった。
よかった。ちゃんと家にいてくれてるみたいだ。雫さんがいてくれて良かった。
凛の部屋をノックする。
しばらくすると、凛の声がした。
「……いまは話したくない」
俺は食い下がろうとする。
すると、雫さんが出てきてくれた。ため息をついて首を横に振る。
「今すぐは難しいと思う。れんくん。話したいことがあるんだけど、ちょっといいかな?」
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