第19話 義姉は転校生。


 「えー、気づいた奴もいるかもしれないが、凛くんは、神木の姉だ」


 クラスがどよめく。


 「そうだな……。神木の横が空いてるから、凛くんは神木の隣の席だな。おい、神木。深高のこと色々教えてやってくれな」


 凛は俺の横に座るとこっちを見て微笑んだ。


 うちの高校の制服(女子)は、公立なのに評判がいい。なんでも卒業生にデザイナーがいて、その人のデザインということだった。


 凛が着ると、なお一層、かわいい制服にみえる。一目惚れならぬ、二目惚れをしてしまいそうだ。


 凛は机に伏せりながら、ニコニコして俺をみる。


 「おはよう。れんくん。……びっくりした?」


 「びっくりしすぎでしょ。なんでお前、一年なの? ダブったの?」


 凛は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


 「わたし、勉強は得意な方なんだよ? そんなわけないじゃん。3月生まれのれんくんは、まだ15歳でしょ? わたしは16歳のお姉さん」


 くそ。すっかり騙された。おかげで、争うことなく姉マウントをとられてしまった。確かに俺は早生まれだけれど……。嘘というよりは、俺の勘違いを放置されたと言う方が正しいか。


 きっと、こいつ。面白がって、わざと言わなかったな。

 

 やっぱり、俺の義姉は性格が悪い。


 休み時間になった。

 凛に色々と追求したかったのだが、凛は女子の集団にどこかに連れて行かれてしまった。 

  

 いつの時代も転校生は注目を集めるものだ。


 今頃、きっと根掘り葉掘り聞かれていることだろう。俺は女子にとって空気みたいな存在なので、凛が嫉妬されたりしないのは良かった。俺が加藤だったらヤバかったな。


 成瀬と加藤が肩を組んできた。


 「転校生って、凛ちゃんじゃん。神木、教えろよ」


 「いや、すまん。普通に知らんかった……」


 成瀬がニヒルな目つきになる。


 「転校生は聖ティアの聖女だったか」


 「なにそれ」


 「え。神木しらんの? 凛ちゃんの聖ティアでのあだ名だよ。学業優秀、品行方正、容姿端麗、スポーツ万能。噂では入試は首席合格って話だぜ?」


 なにその完璧超人みたいなの。

 でも、凛ならありえるか。


 っていうか成瀬よ。他校の事情を何故そんなに知っている。むしろ、お前の方が怖いんだが。


 そばで見てると、凛の印象は違うんだけど。


 優しくて芯が強くて。

 それにくらべたら、顔とか頭はオマケみたいなもんだ。


 あっ。チャイムだ。

 始業式か。体育館に行かないと。


 体育館では、クラスごとにスペースが決まっていて、自由席になっている。


 凛は女子に囲まれているから、俺たちだけで座るか。凛にも早く友達作って欲しいしな。


 すると、隣にさやかが座ってきた。


 「ねぇ。れん。凛ちゃんって、さっき言ってたお姉さん? 頭いいし、めっちゃ美人じゃん。あんなのどう頑張ったって敵わないよ……」


 「え? どういう意味?」


 さやかは唇を噛んだ。


 「べつに……」


 つか、さっき、さやかに変なこと言わなくてよかった。まだ転校したばっかりなのに姉弟で恋愛してるとか噂がたったら、凛が孤立しかねない。


 「あっ。さやか。凛はまだ友達いないからさ。仲良くしてやってくれな」


 さやかなら安心だ。


 「お前なら信用できるからさ。頼むよ」


 さやかは、ワンテンポ遅れて頷く。


 「……わかった。わかったよ、任せて!! 凛ちゃんを深高の聖女にしてみせる!!」


 いや、別にそこまではせんでいいから。

 式典が終わって、クラスで自由時間になった。


 凛が戻ってくる。


 「大変そうだったな。友達できそうか?」


 「うん。みんな優しそうだし。してそう」


 そうか。だったらいいけれど。

 『ちゃんと』ね……。

 俺には、なんだか危うい響きに聞こえた。


 美人で品行方正、学業優秀、加えてスポーツ万能。本人にそのつもりがなくても、それだけで他人に劣等感を与えてしまう。


 これは凛の努力の結果で、本来は尊いものだ。だけれど、知らないヤツからすれば、憧れにも嫉妬にもなる諸刃の剣だと思う。


 俺は、ほのかの「弟くんに守ってもらうんだよ?」という言葉を思い出していた。


 そして、その予感は、いずれ的中することになるのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る