第13話 凛のお友達。


 ドアを開ける、


 「俺が蓮ですけど、何か? あ、凛はいまはいませんよ?」


 少女は聖ティア女学院の制服を着ている。

 身長は小さめだが、丸顔に大きな目が印象的な可愛らしい子だ。しかも、メガネをかけている。


 ……メガネっ子。成瀬が好きそうなタイプだなぁ。


 それにしても、凛の友達がなんの用事だろう。


 「はい。凛ではなく、あなたにお話があるんです」


 なんだか分からないが、リビングに通す。

 大きめのマグカップしかなかったので、ココアを出した。


 「で、俺に何の用ですか?」


 ほのかはココアのお礼をいうと話し始めた。


 「最近、凛が元気なくて。それで聞き出したら、なんでも蓮さんに嫌われてしまったと。なにか心当たりありませんか?」


 めっちゃ心当たりはあるが、第二次パンツ事件のことなど、女の子に話せる内容じゃない。


 「いやぁ、どうだろ……」


 ほのかは続ける。


 「まぁ、立ち入ったことは聞きませんが、恥ずかしくて、蓮さんに酷いことをしてしまったと。ちょっと可哀想で見てられないんで、仲直りしてもらえませんか?」


 仲直り。

 できるもんなら、とっくにしてるわ。


 ここ10日間。

 凛と話せないことが、こんなに辛いとは思わなかった。


 「俺も仲直りはしたいんです。でも、どうしていいか分からなくて……」


 すると、ほのかはため息をついた。


 「2人とも、似た者どうしですね。今頃多分、凛は困ってると思います。ここに行ってあげてくれませんか?」


 そういって、ほのかは俺にメモを渡した。


 困ってるって?

 え?


 ほのかはココアを飲み干すと、言葉を続けた。


 「凛はそこにいます。凛を好きだという男性に呼び出されたそうです。そこで、その男性に告白されるかもしれません。蓮さんはそれでいい?」


 良いわけないだろう。


 胸の中にぐちゃぐちゃの感情が渦巻いた。それは、渦潮のようにとぐろを巻いていたけれど、やがて、力強く一つの方向に押し出され、指向性をもつ激流になった。


 この気持ちは、きっと嫉妬だ。

 嫉妬ってこんな感じなのか。すさまじいエネルギーで、俺自身を飲み込んでしまいそうな激情。


 凛が他の男のものになってしまうかもしれない。そう思うと、おれは居ても立っても居られず、ほのかに礼をいうと家を飛び出した。


 自転車をこぎ、目的地を目指す。


 暑い。

 これでは着く前に脱水になってしまいそうだ。


 自転車を漕ぎながら考える。

 行ってどうする? 


 俺は義弟だ。

 それがどんな理由で出しゃばる?


 相手が非の打ち所がない男だったら?

 俺は認められるのか?


 それに、俺なんかが行っても凛にとって迷惑なだけかもしれない。



 ほのかがくれたメモの場所についた。

 そこは、隣町のファミレスだった。


 外からのぞいたが、凛が見つからない。

 お店間違えちゃったかな?


 メモを見返すと、裏に何か書いてある。


 「凛は、わたしじゃなくて、あなたに助けて欲しいんじゃないかな。王子様しっかりね」


 王子様か……。

 

 おれは何を格好つけているんだ。


 理由なんていらない。

 俺が、ただただ嫌なんだ。


 凛が、俺の手の届かない遠いところに行ってしまうのが嫌なんだ。


 これがエゴだって分かってる。

 

 王子様がこんな自分勝手で情けない奴で申し訳ないけれど、何もせずに指を咥えて見ていることなんてできない。



 すると、俺の前の窓際の客が席を立った。


 あっ。凛だ。


 俺は凛を見つけた。

 凛は、手前の客の陰に隠れて見えなかったみたいだ。


 凛の前には、高校の制服を着た男がいた。


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