第2話 どう接していいか分からない。


 夕食の時間になった。


 呼ばれてダイニングにいくと、親父が料理をつくり、凛がテキパキと働いている。


 髪が邪魔にならないように、リボンのようなシュシュでポニーテールにしている。凛は、さっきの出来事が白昼夢と思えるくらいに、(父に対しては)愛想がよく可愛らしい。


 凛がパタパタと俺の前を横切る。

 すると、フワッとシャンプーの良い香りがした。


 つい、その女子力にほだされそうになる。だが、直後にさっきの出来事が夢でないと思い知らされた。


 「邪魔」


 それが、凛の俺への挨拶だった。


 この日の夕食はすき焼きだった。

 普段は親父と2人だから、鍋なんて滅多にしない。きっと、凛のために奮発したのだろう。


 

 久しぶりのすき焼きで、うまい。


 ……はずなのだが。

 凛と目が合うと、うまく感じない。


 なんでコイツ、俺のことジーっと見てるんだよ。おまえ、怖いんだよ。


 凛は、さっきからしきりにブレスレットのヘッドをいじっている。とんぼ玉みたいなヘッド。


 親父が凛に声をかける。


 「凛ちゃん。1人で心細いよな。ごめんな。雫……、お母さん。夏休みが終わる頃には合流できると思うから、それまで我慢してな」


 凛の母親は雫さんという名前で、医療関係の仕事で今は被災地にいるらしい。きっと、りっぱな人なのだろう。凛の学校が始まる頃には戻ってくるとのことだった。


 親父は続ける。


 「蓮。ちゃんと挨拶したか? 凛ちゃん。こんなアホが家族になっちゃって、大変だろうけどよろしくな」


 凛は、親父にビールをお酌しながら答える。


 「ううん。わたし、家族が増えて嬉しいです。あと、神木さんのことは、その……。お父さんって呼んで良いですか? わたし、ずっと父親いなかったから、そういうの憧れてて」

 

 親父はデレデレして大喜びしている。

 凛の本性も知らないで、おめでたいことだ。


 

 夕食が終わり、凛に先に風呂に入ってもらうことにして部屋に戻る。


 俺はなんだか愚痴りたい気分になってクラスメイトの成瀬に電話した。こいつは、いつもつるんでいる親友だ。


 「なぁ、成瀬。凛が最悪なんだが」


 成瀬は、そんなことより凛の顔に興味があるらしい。


 「なぁ。神木。凛ちゃんってどんな子? 可愛いの?」


 「あぁ、顔だけはな」


 成瀬はウヒョーといいながらケラケラ笑ってる。コイツ、俺の気持ちを全く分かってない。


 「スタイルもいいんだろ? 最高じゃん。 聖ティア女学院のお嬢様。まじ羨ましいわ〜」


 コイツはダメだ。

 話してると余計にストレスがたまる。


 そうこうしてると、部屋がノックされた。


 ……凛だ。


 「お風呂でたよ。あんたの番。わたしが入ったお湯、いやらしい目で見ないでよね」


 おいおい。


 どうやったら、お湯をいやらしい目で見れるんだよ。お湯に性別ないし、エロスの要素は皆無だぞ。そんな奴いたら、ある意味尊敬するわ。



 だが、風呂に入ったら問題が起きた。

 俺は、いま、裸で脱衣所の椅子に座っている。


 何故かって?


 それは……。

 目の前に、見慣れぬ『女性物のパンツ』が落ちているからだ。

 

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