【完結•一気読み可】俺の義姉は性格が悪い。

おもち

序の章

第1話 義姉は性格が悪い。


 昨日、義理の姉ができた。


 美人だ。

 だが、それ以上に性格が悪い。




 ようやく受験から解放されて、高一の夏休みを満喫していたある日の朝。


 親父に声をかけられた。


 俺はアイスを食べながら話を聞く。


 「れん。急でわるいんだが、父さん再婚することになってな。お前に姉ができることになった」


 えっ。


 (カシャン)


 俺はスプーンを落としてしまった。



 えっ?

 再婚の話も初耳なのに、姉?


 エーッ!!


 「んで、いつくるの?」


 親父は頭を掻きながら答える。


 「それが、実はな……。先方の都合でな。娘さんだけ先に、明日からくるんだ」


 まじか。

 通販のお急ぎ便より早く届くのね。


 「どんな人なの?」


 「ん。りんちゃんのことか? そだなー。賢くて優しい子だぞ。聖ティア女学院に通ってるしな」


 その子、凛っていうのか。聖ティア女学院といえば、関東屈指のお嬢様学校だ。とにかく綺麗な子が多く、偏差値も高いらしい。


 俺みたいな普通を絵に描いたような男子高校生からすると、まぁ、普通は一生縁がない高嶺の花だ。


 スルーしようと思ったが、年頃男子としては、やはりこれは聞かずには終われまい。


 「見た目は?」


 「んー。父さんの立場だと何とも言いづらいが、まぁ、綺麗な子なんじゃないか? お前の一個上だし、仲良くしてやってくれな」


 よっしゃー!!

 俺は心の中でガッツポーズをした。


 突然やってくることになった義理の姉。しかもお嬢様学校に通う一つ年上の美人。ラノベ真っ青の夢のシチュエーションすぎる。


 ってか、俺の部屋。

 とても女子に見せられる代物じゃないぞ。


 アニメ円盤(ブルーレイ)、フィギュア。エロ本。どれをとっても一発で退場になりそうな危険物だらけだ。早々に撤去せねば。


 必死に自室を片付け、その日は終わった。

 深夜2時過ぎにベッドに入る。


 早く寝ないといけないのに、妄想が止まらない。その子をなんて呼ぼう。姉さん? 凛ちゃん?


 それとも、呼び捨て? 1つ違いだから呼び捨てもアリだと思うが、なんか彼氏彼女みたいじゃね?


 俺は嬉しくて、布団の中で足をバタバタする。

 

 気に入られちゃって、告白とかされたらどうしよう。そこまでは無理でも、友達とか紹介してくれるかも知れない。


 いやぁ、まじで。

 期待しかないわ。



 っと、寝る前にトイレいっとこ。


 薄暗い階段を下りると、ブーンという冷蔵庫の音がして、キッチン横の柱に目がいった。柱にはカッターで刻んだ傷が無数に入っている。俺は、その傷にカリカリと爪をたてた。


 母さんが、俺の身長を刻んでくれた柱。その印は小1で止まっている。



 ……あの親父が再婚かぁ。


 


 

 チュンチュン……。

 

 もう朝か。

 カーテンを開けると、雲一つない空だった。


 俺はパシンと両頬を叩き、気合いを入れる。

 よしっ。今日は頑張るぞ!!


 柄にもなく早起きした俺を見て、親父はため息をつく。


 「おまえなー。楽しみだと自分で起きれるのな? 普段の学校でもそれくらいやる気出してくれよ。まったく」



 昼を少し過ぎた頃。インターフォンが鳴った。

 先に父が出て俺を呼ぶ。


 きっと凛ちゃんだ。

 どんな子だろう。ドキドキする。


 俺は鏡でセルフチェックすると、平静を装って階段をおりた。


 すると、親父の後ろに女の子がいた。



 黒髪ロングでサラサラな髪の毛。

 真っ白できめ細やかな肌。

 切れ長だけど、大きな目。


 まつ毛が長くてアイラインを引いたような二重の瞼。瞳は水晶のように透明で、灰青色がかっている。


 ピンクのリップを塗っているように血色のよい唇。


 身長は155くらいだろうか。

 スタイルが良いせいか、離れると小さくは見えない。


 学校に寄ってから来たのかな。スカートまで白のセーラー服に、黒いスカーフをあしらった聖ティア女学院のセーラー服を着ている。


 その圧倒的な透明感。

 日差しに照らされる姿は、天界から舞い降りた天使のようだった。



 その子は俺に気づくと、にっこりと口の端を上げてお辞儀をする。


 「凛といいます。今日からよろしくお願いします」


 粒が揃った綺麗な声に、優しそうな話し方。声優さんみたいだ。思ったよりもずっと可愛いし、間違いなく性格が良さそうだ。


 神様。ありがとう。

 誰かとハイタッチしたい気分だよ。

 

 親父が席を外した。


 何も会話がないのは気まずい。

 話しかけた方がいいよな。俺は勇気を出して話しかけた。


 「あの。ちょっといいかな」


 「うん……」


 俺は、うなじの辺りを押さえて、ちょっと照れながら聞いた。


 「なんて呼んだらいいですか? 凛さん? 俺が弟になるんだから……姉さん?」


 すると、一瞬、彼女の動きが止まる。


 そして、少しの間、無言で俺を睨みつけると口調を一変させた。さっきと同じ声なのに、すごく刺々とげとげしい。


 「……。わたし、アンタに何も期待してない。アンタのお父さんがいる時以外は話しかけないで」


 ……初対面の人に『アンタ』って。生まれて初めて言われた。


 「なんだよ、それ」


 「そのまんま。それにわたし、弟なんて要らない」


 反射的にムカッとした。こっちだって気を遣ってやってるのに、いい気になりやがって。


 俺は詰め寄ろうとする。


 すると、親父が戻ってきた。

 凛は何事もなかったかのように、またニコニコして挨拶をする。


 俺は腹の虫がおさまらない。なんなの、コイツ。なんで初対面の女にそんなこと言われないといけないんだ。


 事情を知らない親父は、普通に凛に話しかける。


 「凛ちゃんの部屋は、2階だから。昨日、掃除したんだけど、まだ少し散らかってて。ごめんな」


 「あっ、いえ。十分です。こちらこそ、これからお世話になるのに、お気遣いいただいてしまってすみません。洗い物とか、わたしやるんでお父さんはゆっくりしてください」


 そして、凛はこちらを向くと、あっかんべーの顔をして階段を上がって行った。


 あっかんべーって、ほんとにする人いるんだ……。それにしても、なにあの豹変っぷり。裏表ありすぎなんだけど。


 あまりに濃すぎた数分の出来事に、おれは茫然自失した。



 きっと、凛は俺の人生の中で5本の指に入るくらいに可愛い。だが、俺が今まで会った人の中で、間違いなく、1番性格が悪いと思う。



【表紙】

https://kakuyomu.jp/users/omochi1111/news/16818093081923286853


※※※


新連載です。

突然、義理の姉ができた男子高校生のお話です。


面白そう、続きが読みたいと思ってもらえましたら、フォロー、評価等していただけますと嬉しいです。

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