第14話

「ちょっと言い過ぎちゃったかしら……はぁ」


 夜、あたしはベッドに仰向けで倒れ込んで、暗くてよく見えない天井をぼんやりと眺めながらため息をついた。


「私も先生の恋のお話が聞けるって思ったら、気持ちが高揚してつい……」


 あたしの足近くに座ってるレイノも反省してるみたいだった。そんな気微塵もないけど、ちょっと姿勢変えれば肩とか眼鏡とか蹴り飛ばせそうね。


「でも、元はと言えば紛らわしい発言したあいつが悪いのよ」


 弾みをつけて身体を起こして、レイノの隣に座り直しながら言った。よくよく思い返してみたらそもそもきっかけはあいつの一言だし、あたしはそれに突っ込んだだけだし!


「メーデル先生と結婚式について話したって聞いたら勘違いするのも仕方ないじゃない!」

「だよね! 私もいつの間にそんな関係に!? ってびっくりしたもん!」

「……アルは……理事長と仲が良い……」


 あたしと入れ替わりでベッドに寝転んで眠そうにしているオルシナスが呟いた。確か理事長とあいつって学生時代同級生だったとか何とか言ってたわね。にしても、


「距離近いわよねあの二人。言ってた通りああいう美人で胸大きいのが好みなのかしら」

「なぜボクを見る。それになぜ皆してボクの部屋に集まっているんだ」

「そりゃ」


 だってあんたが一番……って言おうとしたけど下を見てあたしだって負けてないよねと思い直して口を塞いだ。でも理事長には負けるかも――いや負けないてないし!? 全然負けてないから!


「あんたの部屋が一番集まりやすいからに決まってるじゃない」


 実際物少なくて広々としてるし、嘘はついてない。

 

「何を根拠にしてるんだ」

「いいじゃない。人の勝手でしょ」

「ボクの部屋なんだからボクの勝手にしてくれないか?」

「あたしは貴族なのよ? 平民は黙ってあたしにかしずきなさいよ」

「ここでは貴族も平民も関係無い。それに君に爵位継承権は無いはずだよ」

「ピンクスライムにみっともなく負けた裸白衣のくせになんでそういうのは知ってんのよ」

「あの事はさっさと忘れろ!」

「え、ウェリカちゃんじゃないんですか?」


 レイノも聞いてきちゃったし、あんま触れたくないけど言うしかないわね。あたしは立ち上がって、椅子に座っていたストレリチアの亜麻色の髪を腹いせにぐしゃぐしゃとかき乱しながら話しだす。


「クラウディア家の嫡子はあたしの姉上なのよ。次女のあたしには、なーんにも無いの」


 何も無いどころか、触るな危険の腫れ物扱いだし。


「ま、責任も重圧も無いから気楽でいいんだけどね!」

「お姉さんも……魔法は使えないの?」

「使えないわ」

 

 レイノの問いに、すぐに首を横に振る。


「姉上も、父上も、母上も、家にいたメイドも、あたし以外誰もね。クラウディア領って、昔っからそういうところなのよ」

「……なのに君だけが異常としか言いようが無い程の魔力を手にしている。これは一体どういうメカニズムなんだろうね」


 やんわりとあたしの手を払いのけながら、ストレリチアが言った。


「あたしだってわからないわよ……」


 わかればどんなに楽だろう。わかったところで力が無くなる訳でもないから何も変わらないのかもしれないけれど、自分でもなぜ持っているのかわからない力というのが、少し怖くなるときも、たまにある。

 

「ところで君は明日も先生と会うんだろう? 謝るのかい? それともほじくり返すのかい?」

「謝るわよ……。さすがに調子に乗りすぎたとは思ってるし……」

「……わたしも……アルに会いたい……」

「オルシナスは別に会う必要ないでしょ」

「…………そうだけど」


 オルシナスが毛布を全身に被る。この子とは長い付き合いになるけど何を考えているのかさっぱりわからなくなるときが、たまにある。


「世の中わからない事だらけね! まったく!」

「そうだね……。本当に……わからないことだらけだよね……」


 ストレリチアの後頭部をパシーンとはたきながら言った言葉に、レイノも同調してくれた。浮かない顔だしなんかこの子もこの子で色々悩みとか抱えてそうね。


「先生より先にボクに謝らなければいけない事はわかるよね?」

「わからないわ……何もかも……」

「な!?」

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