授業2-1 迷宮での実践
俺とアナザークラスの四人は今日、ノコエンシス領の地下にある都市――ナモフーへとやってきていた。街全体が少し肌寒い広大な洞窟の中にあり、日光が一切入らない代わりに松明や光魔法を応用して作られた光を灯す魔道具なんかがごつごつとした岩壁にいくつも取り付けられていて、道の端には冒険者向けの道具や武器を売っている露店がずらりと並んでいる。そして迷宮探索目的で来ているのだろう様々な衣装を身に纏った冒険者達が剣やら槍やら持ちながら道を行き交っていた。
「こんな街があったのね。うちの領地には鉱山しか無かったから新鮮だわ」
ウェリカが暗い天井を眺めながら言った。てっきりいつもの感じで「貴族たるあたしをこんな土臭いところに連れて行くなんて!」みたいに言うと思っていたから少し意外だ。まあ、一応工業で栄えた地域の領主の子だしこういう場所には慣れてるのか。
「先生先生」
と呼ばれながら袖を引っ張られたので見ると、ストレリチアがもう片方の手で露店を指でさしていた。
「あそこで剣を買ってもいいかな」
「剣? 杖じゃなくて?」
「もし魔法が効かない魔物に出くわしたらどうするつもりだい?」
「そういう魔物とは戦わないようにする」
「逃げられなかったら?」
「万が一があるような魔物が出る層にはまず行かない。仮にもし危険な状況になったら俺が脱出魔法を使うから安心してくれ」
その点に関しては学校からも強く言われている。それに俺も冒険者をやっている中で、不慣れな状態で危険度が高い場所に行って取り返しがつかない事態になってしまった――という事例は数えきれないほど見てきた。
「なるほど。でもそれはそれとして武器は持っておきたいから買ってもいいかな」
「……まあ、買いたいなら好きにしろ」
「じゃ、行ってくるよ」
と言うとストレリチアは意気揚々と露店へと向かっていった。……わかってるのかな、魔法学校の授業で来たってことに。
目をストレリチアから離すと今度はオルシナスが大勢の冒険者に囲まれているのが見えた。
「お嬢さん。俺たちと一緒に来ないか?」
「いいや! ワシと来てくれ!」
「ここは僕たちと!」
「私たちと!」
「一緒にお茶でも……」
「…………」
オルシナスは四方からぐいぐいと迫り寄って来る冒険者たちを前にして、制服のスカートの裾をぎゅっと掴んでいた。滲み出てる魔力からして全能力そうだからって見境も無しに……。俺はすかさず割って入る。
「この子は俺の子なんで。お引き取りを」
「はぁ……。そうですか」
俺がそう言うと、周囲の冒険者はぐちぐち言いながらもすぐに散り散りになった。わざと聞こえるように舌打ちされたりもしたが、強引に連れ出そうとする奴がいなかっただけまだマシだ。改めて、全能力が冒険者からどういう目で見られているのかというのを強く思い知らされた。
「ごめんなさい……私もなんとかしようとしたんですけど……人が続々と集まってきちゃって……」
粗方周囲に人がいなくなった後、レイノが申し訳なさそうに隣に来ながら言ってきた。
「レイノのせいじゃない。俺が目を離したのが原因だ。ごめん、オルシナス」
「……でも、助けにきてくれた」
「俺が一緒にいてやればそもそもこんなことにはなってなかった」
「……わたしは……きてくれたことが嬉しい」
「でも……」
表情の変化があまりない子だからどんな感情なのかがわかりにくいが、あんな大勢の大人に囲まれて一方的に迫られる状況で平然としてはいられなかっただろう。
「……それに……俺の子……って」
「あ、いや、それは」
咄嗟にそう言ってしまったがちゃんと生徒と言うべきだった。これではまるで親子みたいではないか。
「……許してあげる」
「そ、そうか」
よくわからないが許してもらえたから……いい……のか?
そういやもう一人の方は大丈夫だろうか。と思いウェリカがいた方を見てみた。
「美少女貴族たるあたしを誘うってことはあたしの靴を舐める気があるってことよね!」
「それは……」
「さあ! 地べたに這いつくばって美味しそうにペロペロしなさい!」
「やっぱいいです……」
大丈夫そうだった。
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