#8

「そういうこと。そうこうしているうちに、大きくなったエクレスが冒険者を目指しているって知ってね。なんとか、あなたを上手いこと導けないか、立ち回ってみたんだけど。ほら、闇の精霊は扱いが特殊だから。使役するコツをあんたに教えられるのは、もう私しか残っていないわけだし」


 それを聞いて、エクレスははっとした。そもそも、この姉が全ての黒幕のように思えた、遺跡での振る舞いについて問いたださねばならない。


「あの闇の眷族は? 姉さんが呼びだしているようにしか見えなかったけど。そもそも、姉さんも渦から出てきたじゃないか」


「それは純然たる誤解よ。あなたも、闇の力に目覚めて分かったと思うけど。私たちは、闇の眷族の気配を探り当てられる。そして向こうも、私たちの存在を感じて引っ張り出されてくる。私はそれを利用して、闇の眷族を殺して回っていたのよ。あなたの力が目覚めたあの遺跡には、学校での話を聞いて先回りをしていただけ。あのおじいさんも、ある程度あそこが危険だと分かって話を進めていたっけね。渦から出てきたように見えたのは、たまたまそう見えたんでしょう。やったことは、透明化を解除しただけよ」


「ここは? ここの遺跡は?」


「ここにいたのは、本当に偶然。ここの遺跡に怪しい気配を感じてね、たまたま、調べようとしていたところで……たぶん、私の不注意で、姿をあの子、メイちゃんに見られてしまったのね。村の人は、メイちゃんが穴に落ちたと騒いでいたようだけど。本当は、私についてきてしまったのよ」


 エクレスは、穴に先に入ったルシアを見た。彼女は頷く。


「一番奥で、お姉さんはメイちゃんを守ってたの。その、何匹か闇の眷族が居たけど、あっという間にほとんどを倒しちゃって。お姉さんは、エクレスたちもすぐ来る? って聞いてきて。それから、『悪いようにはしないから、このあとの私の言うことは、口を挟まずに黙っててね』って……そのときは、まだ全然、半信半疑だったんだけど……すぐに、エクレスくんたちが来て」


 それに、エクレスも頷いた。そういうことだったのか。


「ルーシャちゃんが、素直ないい子で助かったわ」


 姉は長い黒髪をかき上げてから、とぼけるように舌を出した。


「ちょっと……思ってたのとは違うような、大変なことになっちゃって。ごめんなさいね。最初の遺跡では、ルーシャちゃんも、他の班員の子も。死にそうになっちゃって」


「それは、まあ……」


「大丈夫だけど」


 ルシアと、ふたりで答える。


 と、がさがさ、と草を踏む音がした。姉がはっと顔を向ける。

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