#6

 エクレスが疑問に思っていると、藹藹とした雰囲気をひそめさせるように、姉は笑いを引っ込めて話を仕切り直した。


「いつまでも、こんなふうに楽しく話していたいけど、気づかれるといけないわね。エクレス、あなたの疑問に、端的に答えるわ。あの晩、村を滅ぼしたのは、もちろん私じゃない。私たちの村は、他の闇の一族に滅ぼされたのよ」


「他の……闇の一族?」


 聞き返すと、姉は静かに頷く。


「長々と説明する時間はないけれど、さっき、少し触れたでしょう。この、光のある世界をずうっと憎み続けている、闇の一族がいるのよ。ルーシャちゃん、あなたの村を滅ぼしたのも、そいつらなのよ」


「……でも、なんでですか? 私たちの村はともかく、エクレスくんや、お姉さんは同じ闇の一族なんじゃないですか?」


 ルシアが悲痛に言うと、姉は首を振った。


「私たちの村は、闇の一族の中でも、特に温和な一族の集まりだった。争いなんてとんでもないっていうような、ね。だから村の住人は、誰ひとりとして闇の精霊の力を使いこなせなかったし、それでいいっていう人しかいなかった。だから……襲撃に対しても、なす術がなかったの」


「そんな……。ひどい」


 繰り返して、ルシアは首を振った。


 姉は、エクレスをちらりと見た。


「この広い世界、未だに混血せずに血を守っている純血種がいる、という想像ができるなら、そういったヒトたちが私たちの村だけではない、ということも考えられるでしょう? 事実、そうだったのよ。私たちとは考え方が違うってことも、考慮に入れないといけなかったわけだけどね」


 エクレスは頷いた。まさか、闇の純血種だけの村が他にもあるだなんて考えもしなかったが、言われてしまえば、その通りだった。


 姉は、丘から見える世界を見下ろして、遠い目をして言った。


「もう少し、話しましょうか。あの晩……いえ、その前から。私が、ローファスと交際をしていて、村を滅ぼされる前に彼のところを離れた、っていう話は、聞いてる?」


「うん。姉さんと、教官が……ある遺跡で闇の眷族に出会って。教官が、それを殺したときから、姉さんの様子がおかしくなってしまったって」


「そう。なら、話は早いわね。私は、以前から、闇の眷族を村の周りで見たことがあったのよ。それに、村長がそれと話をしているところもね」


「それは……」


「私たちの村を、仲間に誘ってたのかもね。でも、この世界をひっくり返そうなんて話に、私たちの村が乗るわけがないわ。そもそも戦力にもならない。私は、ずうっと胸騒ぎがしていたの。そして、実際にあそこで闇の眷族を見て……こんなのが村を襲ってきたら、きっとひとたまりもないと思った。だから、あなたを守るために、村に戻ったのよ」


「ぼくを?」


 聞き返すと、姉は悲しげな笑顔になった。


「ええ。その時の私には、まだ闇の精霊の力を使いこなすことはできなかったけど……でも、知らないふりをしたまま、村の外で過ごすなんてできなかった。私ね、あの街……コークスといったかしら。あそこでずうっと書物に当たって、薄々私たちの正体については、想像がついていたのよ」


 聡明な姉のことだ、それについて、不思議はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る