#4

 それには、首を振る。


「今、言ったことと同じだよ。君を不安にさせたことを謝って、今後は一切、そういうことにならないようにするから。僕を信じてほしいって、言おうと思ってた」


 言ってから、なんとなく、問題点に気がついた。


「僕はずっと、信じてほしいと思っていた。君に、分かってほしいって。恐がられたままって、辛くてさ。でも、信じてほしい、って言い続けてるだけじゃ、だめなんだ。それは、単なる僕だけの、押しつけなんだなって」


 適当に、草を一本引き抜いた。それを風の中に放って、続けた。


「だから、ルーシャの言葉、すごく嬉しかったよ。力になるって言ってくれて。とても、嬉しかった。だから僕も、君の力になりたい。一緒にがんばろう」


 そこまで言って、ルシアを見た。


「ルーシャのこと、好きだよ。だから、一緒にいたいんだ」


「へ……。えええっ!」


 突然、猫のような素早い動きで、ルシアは立ち上がった。びっくりしたように、こちらを見ている。


「えっ、ちょっと、そんな、いっ、いきなり?」


「嫌だった?」


「いっ、嫌とか、そういうんじゃないけど! でも、それって突然すぎないかなって! まだ知り合って、全然経ってないんだし!」


「こういう気持ちに、時間って関係あるかな」


「エクレスくんって、そんなに情熱的な人だったの? いや、そうじゃなくて!」


 妙な動きをするルシアを観察して、ようやく、エクレスは合点がいった。赤面して暴れるという、意外な面を見せる彼女に手を挙げて、制する。


「いや、恋人とか、そういうことじゃなくてさ。人として。尊敬してるとか、そういうことだよ。そういうルーシャが、僕は好きなんだ」


 ぴたり、とルシアは動きを止めた。なにか、深々と嘆息している。


「そうだよね。……まあ、そういうことだよね」


「なにか問題が?」


「いいえ。全然、ありません」


 なぜか、眉間に皺を寄せた半眼で言われる。怒っているわけではないようだが。


 ルシアは元の通りに座ると、別の話題を口にした。


「恋人といえば。ローファス教官と、君のお姉さんって、恋人同士だったんだよね」


「そうみたいだね」


「君は、お姉さんについて、知りたいんだよね」


 頷いた。それは未だに、目標のひとつだ。


「卒業して、きちんと冒険者として認められたら、大陸を旅したいなって思ってる。姉さんを、捜して……どういうことなのか、聞きたい。もちろん、いろんなものを見たりとか、そういう冒険をしたいのもあるけど。あとは、ロシェやアストルを手伝ったりとか」


「エクレスくん。それ。私もついていって、いいかな?」


 ルシアは、もう笑顔になっていた。


「私も、エクレスくんの知りたいことを、知りたいし。ね?」


 それにつられて笑顔になりながら、頷いた。


「もちろん。ふたりで、光と闇なんだから」


 言って、笑い合う。と――


「仲良きことは美しきかな、ね。十年前のローファスと私も、あなたたちと同じくらい微笑ましかったのかしら」


 すぐそばで声がした。エクレスとルシアは、ふたりで跳ねるように、そちらへ身体ごと振り向いた。

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