#3

「ごめんなさい。エクレスくん。私、ずっと、君に失礼な態度でいて」


「そんなの、別に気にしてないよ」


 笑って言う。が、ルシアは、気が済まないようだった。


「私は気にするの。……私、君が恐かった」


「うん」


「私の、村を滅ぼした、お父さんとお母さんを殺した、闇の眷族……。最初の遺跡で出会ったあれと、君が変質して見せた姿も、とても似ていて。同じかどうかは分からないんだけど、その気配が、恐くて……ずっと、怯えてた」


 エクレスは黙って頷いた。闇の眷族、そして自分と対峙したとき、ルシアは心から怯えていたのを覚えている。


「君のこと、信頼してた。それが、裏切られたような気分になって。勝手なことを言ってるっていうのは、分かるんだけど。君は、そういう力に負けたりしないとも分かってるのに、分かってるのに……どうしても、心の中の、もやもやしたものが、取れなくて」


 そうだろうと思う。エクレス自身、知らなかった素性を知り、混乱した。ロシェとアストル、ローファスの言葉がなければ、打ちひしがれていたと思う。当人ですらそうだったのだから、ルシアを責める筋合いはないし、当然のことだ。


「それで。コース長が、ここに連れてきてくれて。エクレスくんの、お母さん、お父さんとお話をさせてくれて。それで、心が決まったの」


「決まった?」


「うん。全然、バカみたいな話だったって、気づいたの。コース長は、光のヒトも、闇のヒトも、同じだって。たとえば光のヒトに悪い人がいて、闇のヒトにいい人がいる。お前の目は、なにを見て、なにを信じるんだって」


 その言葉を、エクレスも噛みしめた。


 自分は、その信じる気持ちを向けてもらえた側だ。それは理想のようなもので、誰もが当然のように実行できる考えでないのは分かっている。姉の形をしたものが言ったように、排斥に走ることがあるのも分かる。


 でも、エクレスの周りの人は、そうしなかった。


 だから、エクレスは前に進むことができた。


 ルシアに頷いて、先を促す。


「メイジーさんは、こんなふうに言ってくれて。君の、助けになってほしいって。エクレスくんも、きっと助けになってくれるからって」


「ルーシャが、助けに?」


「うん」


 ルシアは微笑んだ。


「それも、すごく、その通りだって思って。もやもやが取れたの。私はね、エクレスくんのことを信じる。なにを、って言われると困るけど。エクレスくんが信じられないなら、他のことなんて、なにも信じられなくなっちゃう」


「かなり、高い評価だね」


「最上級です」


 反応に困って返した言葉に、笑顔で応じてくれる。


 ルシアは続けた。


「信じる信じるって、なんかオーバーだけど。とにかく、平気だから。私は、エクレスくんを助ける。エクレスくんも、私を助ける。……って、なんだか命令っぽいけど。そういうふうに、頑張っていけたらなって、言いたかったの」


「命令でもなんでも。僕は、君を助けるよ。僕でよければ」


「エクレスくんがいいの」


 ルシアは、手を差し出してきた。なぜか、胸がどきりとした。


 なにかに操られるように、勝手に手が伸びて、エクレスは彼女の手を握った。柔らかくて、温かい。


「私は、光の純血種。あなたは、闇の純血種。私たち以外のみんなは、両方をひとりで持ってるでしょう? だから、メイジーさんの言葉を聞いて、私たちは、ふたりで一緒なんだと思ったの。ふたりで、光と闇だって」


「なるほど」


 エクレスは、頷いた。


「僕とルーシャで補い合うことができたら。……そうできたら、嬉しいな」


「できたら、じゃなくて。そういうふうにするの」


「うん。分かった」


 押し切られてしまった。手を離して、ルシアは黙る。もう、言うことは終わったようだ。


 彼女は、こちらに促してきた。


「エクレスくんの話したいことって?」

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