#9
「姉さん。……いや、お前は本当に姉さんなのか? あの夜に、村になにがあったんだ? 僕に、ルーシャの村を滅ぼしたのは、姉さんの仕業なのか? 答えてくれ」
こちらを見て、彼女は微笑して、傍らにある闇の渦に手を翳す。
「世界は、変わろうとしているわ」
「……なんだって?」
まさか正直に回答があるとも思っていなかったため、面食らう。
姉の姿をしたものは、静かに続けた。
「創世神話に語られるように、かつて何度も、この涙の世界は戦火に包まれた。それが今、再び起きようとしているの」
「それは、どういう――」
「いかに光と闇が融和しているかのように取り繕っても、現実は違う。光の神が作ったこの世界では、闇の神が作ったもの……特に『みにくい生き物』たちは殺されて当然の存在でしかない。それは闇の神からすらも見捨てられている」
透き通ったその声は、さらに続ける。
「『みにくい生き物』たちはずっと、虎視眈々と復讐の機会を窺っていた。ずうっとね。この世界を我が物とするために。世界を闇の帳で閉ざすために、みにくい生き物たちを束ねて、暗躍するものがいる。この地深くに。闇の底に蠢くものが……」
そこまで喋ると、姉と全く同じ笑顔で、ふっと笑ってみせた。
「遺跡が活発化しているのも、そいつの仕業よ。ローファスたち冒険者が駆逐した遺跡に、こうして異変が起こっているのもね。これがなんのためなのか、まだ私にも分からないけれど……」
姉の姿をしたものは、暗黒の渦を示した。それは、その途端にみるみるうちに巨大化し、以前の闇の眷族よりも一回り以上は大きな眷族へと変質していく。
「ひとまず、これを撃退してごらんなさい、エクレス。そうできたら……私に分かることなら、説明してあげるわ」
告げて、姉は魔法の照明の届かない場所へと退いていく。
「教官」
エクレスは、ローファスに呼びかけた。
「大物だな。手を貸そうか」
「いいえ。僕たち、五班でやります。教官は、メイをお願いします」
「分かった」
すんなりと頷いて、ローファスがメイの手を引き、下がる。こちらを心配そうに見つめるメイに笑いかけて、それから、入れ替わるように出てきたロシェとアストルに言う。
「前と同じプランで行こう。僕とロシェで陽動。アストルが攻撃だ」
「ああ、分かった」
「了解だ。グレードアップした必殺魔法をぶち込んでやるぜ」
「エクレスくん」
ルシアも、加わってくれた。それに頷く。
「ルーシャ。話したいことがある。でもそれは、終わった後で」
「うん。私も、エクレスくんに、言いたいことがある。でも、今は。一緒に戦うから」
力のある言葉だ。闇の眷族は、もうそこまで迫ってきている。身を翻した。
「ルーシャは、魔法を使うアストルを守ってくれ!」
言って、飛び出す。まずは真正面から、闇の眷族を攻める。
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