#7

「すぐに追いかけい。今回はローファス、同伴しろ」


「了解しました」


 応じながら、ローファスはすでに全員分の武器を用意している。それを受け取りながら、アストルが聞いた。


「なんで教官も?」


「今回ばかりは、大物がいそうだからじゃ。エクレス、なにか感じるものはないかね」


 言われて、頷いた。穴の奥から、邪悪なものの気配を感じる。少しでも闇の精霊の力が目覚めたおかげか、自分と同じ存在ともいえる、闇の眷族を感じ取れるのかもしれない。


 ローファスが、懐からなにかを取り出した。石だ。赤く光り、振動している。


 最初の見学時、ルシアに渡した石が、彼女の危機を報せているのだと分かった。彼女はまだ、それを持っていたのだ。


「急ごう。コース長は、ここの確保を?」


「うむ。お前たちみんなやられちまったら、わしがなんとかするから。後の心配はせずに、どかんと行ってこい」


 笑えない言葉ではあったが。ローファスは笑って、まず穴に飛び込んだ。続いて、ロシェ。エクレスはその後に続き、最後にアストルが来た。


 ローファスは魔法の照明を作り出すと、先を示した。


「君たちがこの前入ったベイレスの遺跡と形状は似ている。途中で道は三叉に分かれるが、ルーシャはおそらく、最深部の大部屋だ。ひたすら直進する。遅れずついて来なさい」


 その後は、四人で洞窟を駆け抜けた。そして、考える。


 魔法の光で照らされてはいても、それが届かない場所は、全くの闇だ。光は、闇を退ける。だがまた、闇も光を呑み込んでしまうことがある。


 自分を呑み込もうとした闇の力に、絶望もした。こんな力が宿っていては、冒険者を目指す同志であっても、もう共に歩むことはできないと思った。


 だが彼らは、それでも仲間と呼んでくれる。なら、自分にできることはひとつだ。力を制御し、二度と暴走しないように努めること。


 最初の授業で、ローファスが言った。闇というのは、神話にある通り、邪悪という意味では、決してないのだ、と。


 つまりは、使うものの意思次第だと。それを正しい方向へ、常に向けるというのは、ひとりでは難しいのかもしれない。


 エクレスは、ルシアの姿を思い描いた。


 彼女が自分に怯えることは分かる。だが、このまま、終わりにしたくはない。このまま、二度と会えないなんて、嫌だ。


 ――僕には、知りたいことがあった。でも今は、ルーシャ、君に伝えたい。君に、知って欲しいことがあるんだ。


 前方の空間が開けた。教官の言う通り、前に入った遺跡のように闇一色の世界に、一気に飛び込む。


「ルーシャ!」


 叫んだ。視線を巡らせる。


「エクレスくん!」


 応えてくれた。生きていてくれたことに安堵する。そちらを見ると、杖を手に、メイを自分の背後に隠して、巨大な人の形をした闇の眷族と対峙しているルシアがいた。


 微妙に腰がひけている。安心すると、それが多少面白くも見えた。


 と、ローファスが、闇の眷族へ手を向けた。彼の身体から、魔法の力が起こる。


「四の精霊――我が敵を滅ぼせ」


 単純な詠唱に合わせて、四色の小さな光が、ローファスの指先から弾ける。それは一瞬で闇の眷族の喉元を貫くと、首を断ち、霧散させた。


「すっ……げえ……」


 アストルが、呆けたように言う。


 それを背に、ローファスとエクレスは、ルシアに駆け寄った。


「大丈夫か、ルーシャ。遅れてすまなかった」


「なんで、ひとりで入るなんて無茶をしたんだ」


「メイちゃんを、助けないといけないと思ったから」


「にいちゃん……」


 メイは、ルシアから離れると、エクレスに駆け寄ってきた。


 咄嗟に叱る言葉が、喉から出そうになった。が、メイが涙ぐんでいるのを見て、それは引っ込んでしまう。膝をつき、手を広げると、胸に飛び込んでくるメイを抱きしめた。


「にいちゃぁあん……。こわかったよう……」


「もう、もう大丈夫だ。僕がいるから。一緒に、助けに来てくれた人もいる。すぐに、お父さんのところへ帰ろう」


「う、うん……。おねえちゃんが、守ってくれて」


「うん、うん。もう大丈夫だから」


 泣き出していたメイの涙を袖で拭い、なだめる。メイは、ぴったり身体にしがみつき、離れようとしない。すごい力だった。


 ふと顔だけを上げると、ローファスとルシアが、一点を見ていることに気がついた。メイをさらになだめながら、その視線を追う。

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