#6
室内訓練場で、エクレスはローファスと一緒に、魔法の訓練をしていた。
「闇の精霊よ。その力を、ここに示せ」
手を翳して、告げる。すると、四つの闇の渦が、ぼわわん、と現れる。ここまではいい。
「これが出てくるようになったのはいいが……問題は、これをどうやって増幅できるのか、だな」
ローファスの言うそれが、突き当たった壁だった。エクレスの魔法は一応前進した。しかし、これを出しても、変質が起きる感じはしない。なにも起こせない。
「自分では分からないか?」
「分かりません。なにか、出てる感じはありますけど。どうやったら、コントロールできるんでしょうか」
「光の神の精霊の常識は、恐らく通用しないのだからな。なにか、前回の覚醒のときに、ヒントがあればいいのだが」
「あのときは、死にたくなかった。あと、姉さんの声が聞こえました」
「感情が、精霊を呼び覚ますとか、そういうことだろうか。分からんな……。仮に感情の昂ぶりが鍵となるならば、恐らくはあのときのような――実戦で経験するレベルのものを要求されているのだろうしな」
エクレスは歯噛みした。ロシェ、アストルは、応援してくれている。が、ルシアとは、相変わらず話ができていない。
お互いに、冒険者コースに踏みとどまってはいるが、全員が一致団結しなければ、根本的な解決とは言えないのだ。
ルシアの不安を取り除くためなら、なんでもしたいと思う。だが、闇の精霊ひとつ、未だに思うままにならない。それが、もどかしい。
「だったら、試してくるとええぞ」
不意に、聞き慣れた声が被さった。訓練場の入口には、コース長と、ロシェ、アストル、グレイシスがいた。
「なんの話です?」
ローファスが聞くと、コース長は早足にこちらへやってきた。
「緊急事態じゃ。エクレスの村の――まぁ、お前の村か、そもそも――メイという少女が、闇の眷族のいる遺跡に迷い込んだ。ルーシャがひとりで、救出に先行した」
「なんですって?」
ローファスが色めき立つ。エクレスは、なにがなんだか分からなかった。メイが、遺跡に入ったとは、どういうことなのか。
「ルーシャが、エクレスとのことで悩んでおったろ。元気づけようと思ってな。ラルフ殿を訪ねて、お喋りをしようと思ったんじゃ。そこまではよかったんじゃが、そこで、そういうことが起きたと、村の衆が知らせてきてな。幼子の命が懸かっておる」
そこで、コース長はエクレスを見てきた。
「ルーシャと、メイの命の危機じゃ。いけるな?」
「はい」
即答した。事情は未だに細かく分からないが、命の危機というなら、それだけで十分だ。
と、一歩前に出てきたアストルが、どんと胸を叩く。
「ひとりで格好つけてんじゃねえって。コース長! 俺たちも行きますから!」
「当然じゃ。ひとまずグレイスは、留守番を頼むぞ」
「了解しました」
コース長は、手を掲げた。一瞬、視界が暗転し、身体がふわりとする。内臓が裏返るような、不快感。
それが終わると、いつの間にか、室内訓練場から、見慣れた木立の中にいた。
コース長の魔法で、一瞬で村の外れまで移動したらしい。どんな力だ、と思ったが、それを質問している時間はない。
コース長は、地面に空いた、大きな洞窟を示した。それはエクレスたちの村で、『穴』と呼んでいるものだ。
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