#3

「エクレスくんの村なんですか?」


「そうじゃな。つまり、ローファスの村でもある。これから訪ねるラルフ殿が、ローファスのお父上じゃ。エクレスの、育ての父でもあるな」


 その話は聞いている。どんな人なのだろうか。ちょっと興味がある。


 村の広場を、歩いてゆく。小さな子供がふたり、走り回っていたが、こちらの姿を見て、ぴたりと止まる。微笑むと、手を振ってきた。振り返してみる。


 やがて、ひとつの民家にやってきた。コース長はノックをして、ラルフ殿、と呼びかける。するとドアが開き、初老の男性が顔を出した。短めの白髪で、よく日焼けしている。


「やあ、ラルフ殿。しばらく」


「校長どの。どうしたんです? 突然」


「いやな。エクレスやローファスの話を聞かせようと思ったついでに、連れてきた子がおっての」


 コース長は、こちらに手をやって、示した。ラルフと目が合う。


 ルシアは頭を下げた。


「初めまして。ルシアと申します。その……エクレスくんとは、同じ班で、冒険者を目指しているんですが」


「おお、エクレスの、ご学友さんかね」


 ラルフは、顔をほころばせた。身体を退いて、室内を示す。


「なにか、お話があるんでしょう。さあさ、校長どのも、中へどうぞ」


 促されて、コース長の後に従い、中へお邪魔する。大きなテーブルのある、居室へと通された。そこには、ラルフと同じくらいの歳だろう、初老の女性がいる。挨拶をすると、その人が、エクレスの育ての母、ローファスの母であるメイジーだと分かった。


 勧められた席につくと、温かい、甘い匂いのするお茶を出された。


「して、どうですかな。エクレスの様子は」


「とてもよくやっております。優秀で、飲み込みが早く、頭もいい。心も強く、思いやりがある。良い男です。間違いなく、当代を代表する冒険者になるでしょうな」


「そうですか」


 ラルフ、メイジーともに、何度も頷いている。


「担当はローファスです。もうひとり、グレイシスという、優秀な教官もついておりますが。まるで兄弟のように、二人三脚、仲良くやっておりますよ」


「そうですか、そうですか、ローファスがエクレスの教官ですか。ふふ、そうなればいいだろうなとは思っておりましたが」


 ふたりはまた頷いて、それから、ルシアを見てきた。


「それで、そちらのお嬢さんは?」


「ルシアという名で、エクレスと同じ班の生徒なんじゃが。ちょっと、思うところがあっての。ここに連れてきたんじゃ」


「あら。そうだったんですか。エクレスと、ケンカでもしたの? ルシアちゃん」


 メイジーに問われて、ルシアはどう答えようか迷った。考えて、ケンカ、というのは、全然違うが、ある意味では合っている気もしたので、頷く。


「あの……。たぶん、そういうような、ことだと思うんですけど」


「エクレスが、なにかご迷惑をかけてしまったかしら」


「いいえ、違います。……その、悪いのは、私のほうで」


 彼は悪くない。そう思うと、なぜか、言葉が強くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る