#9

 翌日は、朝食を終えてすぐ、五班の全員がエクレスの部屋に集合した。それに加えて、なぜかコース長もいる。


 エクレスは、ルシアが気になったが、彼女はグレイシスと一緒に、壁際に用意した椅子に座っている。ロシェ、アストルは、エクレスのベッドに腰掛け、ローファスは、ドアの近くの壁に背をもたせかけていた。コース長は、エクレスの枕元にある、昨日ローファスが座っていた椅子に陣取っている。


「災難だったのう、エクレス」


「まあ……そうですね」


 しみじみと言っているコース長には、それくらいしか返事はできなかったが。


 それを口火に、アストルが聞いてくる。


「エクレス、身体は平気なのかよ?」


「うん。なんだか、動きが鈍いままなんだけど。他におかしいところは、ないと思う」


「そっか。いや、あのときはビビったぜ。いきなりぶん殴られて」


 おどけて言う彼に、エクレスは頭を下げた。


「ごめん。アストル。謝って済む問題じゃないと思ってる。ロシェ、ルーシャも。僕は、みんなをこの手に掛けるところだったんだ」


「そんなこと、言うなよ。そりゃ最初はさ、なんだよ、って思った。いきなり、化け物みたいになっちまって、しかも、そういうことになるかもしれないってことは、教官たちは伏せてて、それなのにこんなことをやらせてさ。冗談じゃねえって」


 アストルは、そこまで言って、頭を掻いた。


「でも、頭冷やしてさ。ロシェや、教官、コース長と話して、思うんだ。お前はさ、ああなって、暴走っていうの? しちまって、気にしてるかもしれないけど。俺は、全然平気だぜ。や、さすがに全然は嘘かもしれないけど」


「僕と、一緒にいても平気なのか? またいつ、ああなるか分からない」


 エクレスは聞くが、アストルは真面目な顔で首を振った。


「それだって、お互い様だろ? 俺の魔法だって、暴発したりしたらお前を背中から撃っちまうかもしれないんだ。エクレスは闇の純血種だって言うけど、俺だって、闇の分量は多いんだ。だから、俺がああなっちまう可能性だって、ゼロじゃないかもしれない」


 アストルは、握り拳を作って、示してきた。


「俺、いい加減で、バカなことばっかり言うやつって、思われてるかもしれないけどさ。子供の頃から、冒険者になりたいって思ってて、それは、本気でそう思ってるんだ。お前が暴走するかもっていう危険なんてさ、冒険者だったら遭遇する危険は、もっとたくさんあって、そのうちのたったひとつじゃねえか」


 アストルは、拳を開いた。その手を、差し出してくる。


「それに、エクレスは俺を助けてくれた。覚えてないか? あいつが投げた剣、俺を狙ってたんだ。俺を突き飛ばして、お前が代わりに食らっちまって……。ホントに、死んじまうと思ったんだ。だから、あの後暴走して、殴られたことなんか、俺の中じゃ、おつりが返ってくるくらいだよ」


 エクレスは、なにも言えずに、目を伏せることしかできなかった。


 この部屋にみんなが集まって、時間もあまり経っていない。それなのに、いきなり口火を切って、そこまで言ってくれる。


 声が震えるのを自覚しながらも、なんとか言葉にする。


「僕を……僕と、また、班員として、行動できるのか?」


「当たり前だろ。もちろん、その力を、この一週間みたいにみっちりやって、コントロールできるようにって前提つきだけどな。使いこなせたら、こんな心強い味方、いないわけだし。なにより……俺たちは、仲間だろ? 友達じゃねえか」


 彼の台詞に、瞑目する。肩が震えた。油断をすると、涙が出てしまいそうだ。


 落ち着くのを待ってから、エクレスは顔を上げた。まだ差し出してくれているその手を、握り返す。


「アストル。また、迷惑を掛けるかもしれないけど。僕は……まだ、仲間でいてもいいのかな」


「当たり前だって言ってるだろ。水臭いんだよ」


 アストルは、力強く手を握り返してくれる。


 まだ出会ったばかりの自分に、ここまでの信頼を傾けてくれる彼に、これ以上のなにかを問うことは、野暮だと分かっていた。


 ただ、その信頼に報いよう。そう、決意する。


「おい、ロシェ。お前も、言うことがあるって言ってただろ」


 握手をしながら、彼は空いている手でロシェをつつく。促されて、彼はこちらに顔を向けてきた。

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