#4
「私はもう一度村に生存者はいないか確認をして、少年を担ぎ、村を出た。街へ戻り、少年を医者に診せて、回復を待った。だが、なかなか少年は、目を覚まさなかった。私も、王都へと戻らなければならない期限をとうに過ぎていて、それ以上彼に付き添ってあげることはできなかった」
エクレスは、頷いた。彼も、相槌を打つ。
「私は、目を覚まさない彼を、私の父と母に任せることにした。アーシアの弟を、放っておくことはできなかったんだ。彼は身寄りをなくし、天涯孤独の身となってしまった。それはひょっとしたら、私がなにか、ボタンを掛け違えてしまったせいかもしれない。そんな意識もあった」
話は、そこで終わりだと思った。が、まだ彼は続けるようだった。
エクレスは、目の焦点を曖昧にして、机の上に置いてある一輪挿しを見ていた。
ローファスは、不意に質問をしてきた。
「君は、創世神話を知っているだろう?」
「……はい」
今さらなことだが、頷く。その問いに、どんな意味があるのかは、分からなかったが。
「光の神によって作られたヒトがいる。闇の神によって作られたヒトがいる。ふたつは混ざった。以降、魔法の形質の差異として、それは意味を持つことになる。が」
「なにが、言いたいんです?」
つい、質問した。エクレス自身は、心のどこかで、彼の言わんとすることを分かっている気がする。が、聞かずにはいられなかった。
「こういうことだ。光のヒトにも、闇のヒトにも、混血せず、その血を守ってきた者たちがいる。私は、コース長に全てを報告した。アーシアを捜すために、旅に出るつもりであることも。そのときに、コース長は教えてくれた。アーシアの村は、闇の一族……闇の純血種の村だった、と」
「……そんな」
エクレスは、準備をしていても、それだけしか声に出せなかった。自分の手を見下ろす。
つまり、自分も、闇の純血種だ、ということだ。
そこには触れずに、ローファスは話を進めた。
「コース長の話では、アーシアが失踪した頃を境に、各地の遺跡で、闇の眷族の動きが活発化を始めていたらしい。掃討された遺跡に、再び闇の眷族が湧くということが起き始めたのも、その頃からだ。それ以前は、そんなことは滅多に起きなかったのに、だ。私とコース長は、真相を究明するために、大陸を旅することにした」
「姉は、見つかったんですか?」
力無く、彼は首を振る。
「三年ほどで、その旅を終えることになった。分かったことは、ほとんどなかった。私は冒険者をやめ、教官になることにした。ひとつの可能性を考えたんだ」
「可能性、ですか」
「そうだ。同じ闇の純血種である少年なら、アーシアを見つけられるかもしれない。血を分けた肉親なら、なおさらだ。もし、彼が、冒険者を志して、この学校に来ることがあったら。その彼を鍛えて、一緒にアーシアを捜しにいけるのではないか、と思ったんだ」
自嘲するように、ローファスは顔を歪めた。
「軽蔑してくれて、構わない。利用しようとしたと言われれば、その通りだろう。話の少年というのは、もちろん君のことだ」
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