#10
「いっ、いつの間に!?」
「これくらいで驚くな驚くな。わしの得意技は、人が話しているところににゅっと現れて横槍を入れることじゃ」
白い髭を撫でながら、したり顔のコース長だった。それに、アストルが言う。
「なんだかイヤな得意技ですね」
「そうじゃろうか。ま、それはさておき。五班のおぬしら。冒険行きたい?」
「それはまあ、できれば」
答えたアストルに、コース長は笑顔だった。
「そうだろうのう。わしはな。お前さんたちには早く実戦を経験してくれんかなと思っておるんじゃよ」
「なぜです?」
「そのほうが伸びるタイプの子ばかりだからじゃ」
ロシェに言ってから、なぜかコース長は、エクレスとルシアを見た。そして、内緒話でもするように身を乗り出し、テーブルの中央に顔を近づけてきた。
「一週間後に、またわし様子を見に来るから。そのときにいい感じなら、外の遺跡見学でもやってみるか?」
「え、マジですか?」
「マジじゃ。わしの言うことには、おぬしらの教官も逆らえんし。そういうわけで、一週間、みっちり訓練してみい。ちゃんと頑張ったら、ごほうびじゃ」
「でも、コース長」
「なんじゃ、文句ある?」
「いや、ローブの袖の、裾んところが、ほら。俺の皿のソースを思いっきり吸ってますけど」
「うぎゃあ!」
コース長は悲鳴を上げて身を退いた。まさしくアストルの言う通りに、ゆったりとしたローブの袖が、雑巾のようにアストルの皿を綺麗にしていた。
袖を確認しながら、コース長は言った。
「なんじゃこりゃあ、お前、目玉焼きを黒ソースで食うのか?」
「うまいっすよ」
「あり得んじゃろ! 塩こしょうじゃろ普通!」
エクレスは、塩こしょう派だったが。言ったところでなんの慰めにもならないと思い、黙っていた。
とほほ、と汚れたローブの袖を眺めていたコース長は、エクレスたちの視線に気がついて咳払いをひとつする。
「まあええわ。ともかく、一週間、頑張ってみい。なにか目標があったほうが燃えるのは間違いないじゃろう。な、エクレス?」
「それは、そうかもしれませんね」
振られたので、とりあえず頷く。見ると、ルシアも愛想よく頷いていた。
「よーし、商談成立。じゃあ、一週間後を楽しみにしとるぞ。あと、約束はローファスたちには内緒じゃぞ」
エクレスたちは、驚愕した。コース長は、言葉を終えると同時、点滅するように姿を消してしまったのだ。
アストルは、目を擦っている。そのあと、座っていた空間を、手で調べる。
ロシェは、マグカップを持ったまま固まっていた。ルシアは、ぽかんとしている。
「きっ、消えた……? 瞬間移動……?」
「ぼ、冒険者を束ねる人なんだ。それくらいはできるんじゃないのか」
平静を保てていない声だったが。ロシェは、無理やりに話を戻した。
「だが、どうするんだ。一週間で、遺跡を見に行けるみたいだ」
姿勢を戻したアストルは、話を思い出してか、顔色をよくした。
「目標があるほうが燃えるってのは、そのとおりだろ? 頑張ろうぜ。コース長も、俺たちができるって思ってるから、声かけてくれたわけだろ?」
それは、嬉しいことではある。最初からエクレスはつまずいたが、コース長はそれを知った上で、背中を押してくれているように感じた。
「とりあえず、できることから、頑張ってみようかな」
「うん。無理をして、大ケガとかをしたらいけないでしょ? だから、ちゃんと、みんなで力を合わせて、頑張ろう」
「おう。あくまで、班単位なんだからな。きっちり全員で、コース長がいいって言えるように。そういう感じでいこうぜ」
アストルの言葉に、全員で頷く。
朝食の時間は、それでお開きになった。
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