#3

 ラルフ夫妻の村というのは、王都からやや北に外れたところにあり、そこからは王都までは片道一週間ほどの旅になる。


 試験を受けに行ったときは、その道のり、どこの街で宿泊するか、もしなにか問題が起きてしまった場合のために、何日ほど余裕を持つべきかについて、何ヶ月も前から計画をして、それが正しいかどうか当日まで気を揉んでいたと思う。


 しかし、入学の決まった生徒という身分になると、話は別のようだった。馬車、道中の宿、なにからなにまで学校が手配してくれているらしく、エクレスはなにも考えず、迎えに来た馬車に乗り込むだけで、そのまま学校に着いてしまう、という寸法だった。


 事実、さしたるアクシデントもなく、村を出て七日目の昼過ぎに、エクレスは王都アーテルに到着した。


 馬車を降り、鞄を取って街の大正門へと向かう。入学試験のときに見て驚いたが、二度目に見ても、まだ新鮮な驚きがあった。


 王都アーテルは、白亜の城壁に、白亜の王城を頂く巨大な街だった。エクレスのいた村と比べればどこの街も巨大都市になってしまうが、ここはさらに別格である。


 門が巨大すぎるせいで小人にも錯覚してしまいそうな門番に、軽く会釈をしてエクレスは街に足を踏み入れた。基本的に、衛兵に呼び止められるような見た目の怪しい者でなければ、街へはどんな人も出入りができる。現に今も、エクレスだけでなく何台か商人の馬車が会釈だけで街へ入っていく。


 地図を見て学校への道を進みながら、エクレスは街を見回した。


 石畳に、石造りの建物。木造の建物もある。整然とした街路脇には街灯、青々とした街路樹が植わっている。


 街中心の広場には巨大な噴水があり、人が行き交う。露店なども出ていて、それぞれに並ぶのは果物、野菜から、できあいの惣菜に、色とりどりのアクセサリーまでなんでもある。そして村とは違い、人はみな、清潔感溢れる格好をしている。


 最初に王都を訪れたときには、まず、音に驚いた。活気が違うのだ。そこら中で、なんらかの音がしている。ごく普通に人が話す声だけでなく、屋台の叩き売りや、商売人の呼び込み、乗り合い馬車の馬の蹄の音、あるいは怒号までが聞こえる。


 街の北、大正門から中央の広場を通り、石畳の道が単なる砂利道に変わる、街の西の外れまで進んできて、エクレスはついにその姿を認めた。


 重厚な石造りの校舎だった。牢獄のようにも見える。周囲を石壁が囲んでいるので、そう感じたのかもしれない。


 エクレスは、校門まで進んだ。するとちらほら、すでに到着している他の生徒たちの姿が、敷地内に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る