第3章:変化の兆し

 それから美咲は、仕事の合間を縫って街の風景を撮影し、少女に届けるようになった。公園の桜、繁華街のネオン、海辺の夕日……。


 少女は、美咲が届ける写真を基に、次々と絵を描いていった。その腕前は日に日に上達していき、美咲も驚くほどだった。


 ある日、コンビニのオーナーである田中さんが美咲に声をかけた。


「相沢さん、最近表情が明るくなったね。何かいいことでもあったのかい?」


 美咲は少し驚いた。自分でも気づいていなかった変化を、周りは見ていたのだ。


「はい、何と言いますか……ちょっとした趣味ができまして……」


 美咲は少女のことを話した。すると田中さんは、意外な提案をしてきた。


「それは素晴らしい。ねえ、うちの店の壁に、その子の絵を飾らせてもらえないかな?」


 美咲は目を丸くした。


「え? でも、こんな小さな店に……」「いや、むしろ小さな店だからこそ必要なんだ。お客さんの心を和ませるものがね」


 田中さんの言葉に、美咲は深く感動した。普段は店長……上司という属性でしか見ていなかった人が……。人と人とのつながりが、こんなにも温かいものだったのか。

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