第2章:小さな冒険の始まり

 翌日、美咲は老婆から聞いた住所を頼りに、プレゼントを届けに行った。そこで彼女を待っていたのは、予想外の出来事だった。


 インターホンを押すと、車椅子に乗った少女が出てきた。 少女はうかがうように美咲の顔を覗き込んだ。


「こんにちは。おばあちゃんからのプレゼント、届けに来ました」


 少女の顔が、パッと明るくなる。


「わあ! ありがとうございます! 中に入ってお茶でもどうですか?」


 断ろうとする美咲だったが、少女の無邪気な笑顔に、つい誘いに乗ってしまった。


 家の中に入ると、壁一面に描かれた絵が目に入った。色鮮やかな風景画や人物画。どれも生命力にあふれていた。


「これ、全部あなたが描いたの?」


 美咲は驚いて尋ねた。 少女はうなずいた。


「はい。私は外に出られないから、想像で描いてるんです」


 その言葉に、美咲の胸が締め付けられた。自分は自由に外を歩けるのに、その幸せに気づいていなかった。


「すごいわ。才能があるのね」


 少女は照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます。でも、本当は外に出て実際の風景を見て描きたいんです。でも……」


 美咲は、衝動的な提案をした。


「じゃあ、私が外の風景を写真に撮って来るわ。それを見て描いてみる?」


 少女の目が輝いた。


「いいんですか? やったー!」


 その瞬間、美咲の心に小さな灯がともった。誰かのために何かをする。そんな単純なことが、こんなにも心を温かくするのか。 ずっと忘れていた気持ちに仄かに火が灯った。一輪の花は、二輪になった。

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