【短編小説】虹色のコンビニ

藍埜佑(あいのたすく)

第1章:閉ざされた心

 東京の片隅にある古びたコンビニ、「サンライズ24」。その夜勤シフトに入ったばかりの相沢美咲は、レジに立ちながら、ため息をついていた。


 大学卒業後、夢見ていたキャリアは遠のくばかり。派遣社員を転々とし、今はこのコンビニでアルバイトをしながら、なんとか生活を維持している。両親は地方に住んでおり、美咲は東京で独り暮らし。人間関係も希薄で、SNSのフォロワーは多いものの、本当の意味での友人はいなかった。美咲は自分が砂漠の中でただ一輪だけ咲く小さな花のように感じていた。


「いらっしゃいませ」


 美咲は、入ってきた客に向かって無機質な声で挨拶をした。客は無言で商品を手に取り、レジに並んだ。


「108円です」


 美咲は言葉少なに会計を済ませた。客は黙ってコンビニを出て行った。


 こんな毎日に、もう疲れ果てていた。夢も希望も失いかけていた美咲。しかし、彼女の人生は、この夜を境に大きく変わることになる。


 その夜遅く、店内に一人の老婆が入ってきた。杖をつきながら、ゆっくりと歩を進める。美咲は、いつもの調子で接客を始めようとした。


「いらっしゃいま…」「おや、あなた。とても寂しそうな顔をしているねえ」


 老婆の言葉に、美咲は一瞬戸惑った。


「え? いえ、そんなことは…」「隠さなくてもいいのよ。この歳になると、人の心が手に取るようにわかるんでね」


 老婆は優しく微笑んだ。その笑顔に、美咲は何か温かいものを感じた。


「実はね、私にも頼みがあるんだ。この近くに住む孫に、誕生日プレゼントを届けたいんだけど、足が悪くてね。あなた、代わりに届けてくれないかい?」


 美咲は躊躇した。勤務中にコンビニを離れるわけにはいかない。しかし、老婆の優しい目に、何か魔法のような力があった。


「わかりました。お届けします」


 美咲は、思わずそう答えていた。

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