第3話 クワイク•ルナクス
あれから少し時間が経ち俺は今……。
「あのガキと魔種族はどこ行きやがった!?」
男の怒号が街に響く。
完全に頭に血が上ってやがるなあのおっさん。というか見つかったら確実に殺されるよね、これ?
アレ、もしかして詰んだ?俺死ぬの??
『死ぬわね』
いや少しは空気を読んでくれよ、このナレーションは!!
何で今聞きたくないこと平気で言ってくるの?頭付いてる?ついてないなコレはきっと!
『……見えたわ、あんたの死ぬ未来!』
嬉しそうな声が頭に響く。なんて嬉しそうな声なんでしょうか。それはもうこの上ない喜びを感じているように。
う~んこれは酷いですね。
「で、だ!どうするこれからユウトよ!」
「いや……何で君たち一緒にいるの?」
そこにはマクシュとクワイクがいた。なんと二人もあの酒場から一緒に逃げ出してきたのである。何ならクワイクに至ってはあのおっさんにもう一発お見舞いしてきている。
「あの状況で見捨てられるわけないし、何ならうちの連れもやっちゃったしな!コレはもう俺たちとお前で運命共同体てやつだな!」
ガハハと豪快に笑うマクシュだが、反対にクワイクは少し暗い表情をしていた。
「ごめんなさい、マクシュ……もうこの街にもいられなくなっちゃった」
そう言ってクワイクはマクシュに対して謝罪を行った。
しかしマクシュはそれも含めて豪快に笑ってみせた。大丈夫だと、言わんばかりに。
「なーに、こんなこともあるさ!何なら俺もあのおっさん殴っときゃよかったな!」
明るく振る舞うマクシュを見てクワイクも少し明るい表情になり、たしかにと呟いていた。
あの~、大変申し訳無いんですけど今はそんな話してる状況じゃないんだよね?
俺たちさっきの酒場にいた男たちに追われてるんですが?
「後、貴方も…………ありがとう。魔種族の私達のために怒ってくれて」
クワイクは少し頰を赤らめて言った。
そう言われる悪い気分はしないが、少し勘違いをしている。俺が怒った原因の殆どはそんなことではない。
ただ……そう、ただ気に入らなかったのだ。あのおっさんが侮辱して高揚感を得ることに対して気に入らなかった。ほんとにそんなことで俺は殴ってしまったのだ。
「そんなことはどうでもいいよ、今はこの状況をどうにかしないと」
「……確かにね、ただこの街を抜けることは簡単だけど私たちは今、物資が減っているせいで下手に街を出られないのよ」
クワイクは少し困った表情で考え込むように唸ってしまった。それを見たマクシュは少し考え、ハッと思いついたような表情をした。
「よし決めた!まずは街を出よう、そしたらアレに入ろう」
そう言うマクシュに対して、クワイクはわかっていない様に一度首を横にひねったが直ぐにわかった表情をした。
しかし、それは驚きと戸惑いの声も同時に出ていた。
「マクシュ、ダメよ!アレは……迷宮攻略は私たちには無理よ!確かに迷宮には攻略すれば莫大な富と圧倒的な力が手に入ると言われているけど、それはあくまで噂よ!そんなものに……誰一人として攻略できていないのだから絶対に嘘よ!」
クワイクは凄い勢いでマクシュを捲し立てる。
しかし、当のマクシュは聞く耳持たずに走り出していた。
「じゃあ俺一人で行く。お前らはそこで待っててくれよ!」
よくわからないが……危ないことに首を突っ込もうとしているのは確かだな。
というか、迷宮とは?そもそもこれ世界がどんなものなのか、どんな価値観なのか俺にはわからない。
ただ……よくわからないが、このまま置いていかれるのは困ってしまう。だから、俺のすることは決まっている。
「……俺も行くよ、よくわからん場所で一人でいるのも嫌だし…それに運命共同体だろ?じゃあ連れてってくれよ」
「よっしゃ!じゃあ決まりだな、行くかユウトよ!」
振り返りニカッと笑うマクシュは俺の肩を叩き、頑張るぞーと言いながら腕を高く上げた。
それを見て諦めがついたのか、クワイクもまたため息を尽きマクシュのあとに続いて歩き出した。
「私も行くわよ……ただし、迷宮攻略前に最低限の装備とその整備、食料何かを整えてからよ」
「となるとその前に……少し時間稼ぎしないとな」
そう言い終わる前に怒号が街に響き渡る。その声の主はあのときの酒場にいた男たちだった。
「テメェ等!!!ぶっ殺してやる!!」
そう叫ぶ男たちは各々武器を手に持ち今にも襲いかかってこようとしていた。
男は3人、こちらも同じく3人……と言いたいところだが、俺に関しては戦力に入らないだろうし何より武器を持ってない。
何なら俺に関しては少し動いただけでも息が上がるくらいだ。
『まぁ、ヒキニートですもんね』
う~ん、辛辣である。とにかく辛辣である。
もう少しオブラートに包むことを覚えたほうがいいと思いますがね。どうでしょうか?
と、そんな事を考えていると男たちはすでにこちらに武器を構えながら走ってきていた。
「というか、これってご法度じゃないのか?殺し合いとかって!!」
「まぁ、一般人に武器を振るったら間違いなくしょっぴかれてお陀仏でしょうけど……私たち冒険者間の争いには特権が与えられているのよ。だから、死にたくなきゃ、貴方も戦いなさい」
クワイクはフードをまくりながらそう言った。
初めて見るクワイクのまともな輪郭だが、やはり俺たち人間とは違っていた。
全体的は造形は殆ど人間に近く、顔も美人と言えるだろう。しかし、ところどころに鱗のような物がついており、耳は尖っていて、そして何より尻尾が生えている。
それはマクシュも同様なのだが、マクシュの方は明らかに人間の形とは全く違っている。
「私は左の一人を、マクシュはユウトを守りながら右二人をお願い……あの男は私が殺る」
そう言うとクワイクは罵倒してきた男の方に走り出した。
クワイクはローブの後ろから短剣を抜き取り、前方に構える。よくアニメとかで見る逆手持ちで走る彼女は勢いよく男に飛びかかった。
「ッッグ!!!」
金属と金属がぶつかる鈍い音が鳴った。それと同時に火花が飛び、短剣同士がぶつかりあいクワイクは後方に飛んだ。
男は一瞬、戸惑い判断に遅れる。その隙を見逃さなかったクワイクはもう一度蹴り出し、男に飛びかかった。
男はもう一度クワイクの短剣と自分の短剣をぶつけガードしようとしたが、クワイクはそれをうまく避けて短剣を持っている方の腕に傷をつけた。
「イッッ!!いてェェェ!!」
切られた方の腕を押さえながら男はうずくまってます。
クワイクの方は勝ち誇った顔で男の方を見た。男の悔しそうな顔を見てクワイクは口を開く。
「あんたそんなんで冒険者やってるの?あんた程度じゃその辺の洞窟や下手すれば殆ど魔物のいない平原ですら行けないわね!」
そう言って短剣を鞘に収めてクワイクはフードを被り直す。
初めて見るアニメのような戦闘、それに呆気を取られているとこちらの方にも二人の男たちが武器を掲げて走ってくる。
しかし、走ってきていた男たちは一瞬にして視界から消えることになる。
「うぉりゃ!!!」
力強く、マクシュが拳を振るうとそれが男二人に当たり後方に吹っ飛んだ。男たちは盾や武器でガードしていたようだが、そんな物は無駄だと言わんばかりの力技で武器や盾をへし折りぶん殴る。
後方に吹っ飛んだ二人は壁にぶつかった勢いで気絶してしまったようで起き上がってこなかった。
「と、いっちょ上がり!クワイクの方の片付いたようだし、さっさと用意して行こうぜ……迷宮攻略によ!」
意気揚々とそう告げるとマクシュは歩き出す。それに続くようにクワイクもまったくと言わんばかりのため息とともにその後に続く。
……俺はというと呆気にとられてしまい歩けずにいた。
そもそも次元が違うのだ。
これをさも当たり前化のようにやってのける二人、それに敗れてうずくまる男たち、あまりにも現実離れしている状況に俺は戸惑ってしまう。
それから少し経ち、二人が振り向いてこう言った。
「何やってるのよ、早くしないと置いてくわよ!」
「そうだぜ!あんまし長居してるとこの連れたちがまた来ちまうぞ」
そう言って手招きしてくる二人の後に続くように俺も二人を追いかけた。
しかし、心の中の声が……いや、俺の心のなかにいる誰かがこういうのだ。
『ほんとは二人が怖いんでしょ?だってアレは化け物だから』
異世界転生、ナレーターと共に行く異世界旅! チクゼンニ @kasituki_13
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界転生、ナレーターと共に行く異世界旅!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます