第4話 貴方でも良いのだけど、、

 整頓された棚と、埃の無い絨毯。

ソファー前のテーブルの上には、今日の日付が押された新聞らしきもの。


 ソファー後ろのカウンターキッチンでは、黒髪を艶々とさせた少年が腕を振るっていた。

暖炉の隣にある扉から、一人の女性ががチャリと出てくる。


「あら、、貴方は今日も早いのね、、ん~」


彼女は、薄緑の瞳を閉じてスンスンと漂う香ばしい香りに微笑んだ。


「とても良い香りがするわ」

「ルーニィさん、御早うございます、今朝は、ライ麦パンのトーストとトマトピューレで作ったスープ、お庭のベリーから作ったジャムとジュースです」

(なんとか形になってるな、、)


 最初こそ、どうなるかとヒヤヒヤしていた少年だがこの家は、何故かほしいと思った器具が気付いたら棚に入っていたり、掃除道具も最初は無かったのにいつの間にかそこにある。


なんとも不思議な家だった。


「貴方が来てからまだ一週間程だけど、食事がこんなに奥深いなんて思わなかったわ」


ふふと微笑みながら、ルーニィはカウンターに添えられた椅子に座った。


「僕の方こそ、、何処の誰とも知れないのにとても良くして頂いて、、」


はにかみながら彼女の前に朝食の盆を降ろす。


「ほら、貴方も食べるのよ」


ルーニィは、自分の隣の席をポンポンと叩く。


「、、ありがとうございます」


少年は、自身の盆を慌てて取り彼女の横にちょこんと座った。


穏やかな朝食は、微笑みあいながら進んだ。


少年は食べ終わると、すでに食べ終えていたルーニィの盆と自分の盆を下げた。

食器を片す少年を眺めながら、ルーニィが話しかける。


「ねぇ、、【貴方】でも私は構わないのだけど」

「はい??」

(なんの事だ??)

「お名前よ、さすがにずっと貴方と呼ぶには限界があるのよね」

「そうですね、すみません」

「、、ラスター」


ポツリと彼女が呟いた。


「え?」

「だからね、貴方のお名前よ」


彼女は、立ち上がり少年の顔を覗き込んだ。


「ラスターなんてどうかしら?」

「ラスター、、?」


ルーニィは、にっこり笑いながら付け足す。


「その濡れた様に輝く黒に因んで」


その言葉を聞いて、フラフラしていた何かが落ち着いた心地がして、彼は瞬間的に頬が熱くなるのを感じた。


「、、はい!ありがとうございます!」

「ではラスター、改めてよろしくね」

「はい、ルーニィさん」

(はじめてこの世界に居場所が出来た気がする)

「終わったらお水汲んできますね!」


 彼は、それからニコニコと朝食を片付けてパタパタと外へ出て行く。


(こんな生活も悪くないわね)


その背中を彼女は、微笑ましく見送った。

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