第2話 郷に入っては・・・

 今となっては、昔のことであるが、私はとある都市に短期語学留学をしたことがある。

 そのとき、一緒にいた日本人の中に、無礼なおばさんがいた。

 なんだかんだと自己中なのであるが、特に食物に関することでは、大変腹立たしい思いをさせられた。


 そこの学校の食堂は、塩味が強く、辛かった。

 食器は、古びた金属製のものを使っていた。

 全体的には、日本の普通の食堂よりは整っていない雰囲気ではあった。


 そこの食事について、おばさん、いちいち「辛い」、「まずい」と文句をつけ、買ったものを平気でゴミ箱に放り込む。食器については「洗面器で食べてるみたい」。おなかを壊せば、「あそこの冷麺が悪かったのよ」。他の人がそこの食堂に行くと言えば、「あそこは辛いよ~、食べる物なんかないから」。「あんなところで食べれないわよ」。


 あまりの言いようではないか。貴様の好みがどうだろうが、貴様の腹がどれだけ軟弱だろうが、別に食堂側としては貴様のためにメシを作っているわけではない。

 「和食の方がおいしい」って、そりゃあ、ここは日本じゃない。日本人好みのメシにする必要などさらさらなく、外国に来て母国と同じようなものしか食べられないなら、むしろ不快である。


 しかも、こいつは、毎日ここで食事をしている学生がいるということがわかっているのだろうか?貴様がまずいまずいと言って、けなし、捨てている食べ物を、毎日食べているのである。そして、それを毎日作っている人がいるのである。食べている人にも、作っているくれる人にも、あまりに失礼ではないか。


 さらに、こいつが帰国する直前に、現地学生のガイドさんが、最後だから、皆でおいしいもの食べに行きましょう、といって、鍋料理の店に連れて行ってくれた。それを「日本の味付けの方がおいしい。もう目の前に和食がちらついてるわ」だと!?ふざけんじゃねぇ!いいかげんにしろ!人がせっかく親切に連れて行ってくれたものを!そんなに日本がいいんだったら、海外なんかに出て来んな!一生日本の中に閉じこもって、梅干でもかじっていればいい!


 これは、海外旅行に限らず思うことなのだが、どこか別の土地に行って、日常生活と同じ待遇を期待するような人は、どこにも行くべきではないと思う。

もちろん、自分の意思は関係なく、どうしても行かなければならない場合もあるだろうが、自分の意思で行く限りは、文句をつけるべきではない。日常ではない場所に行くのだから、日常と違うのは当たり前である。場所が変わったのに、いつもと全く同じだったら、それこそ嫌だと思うのだが、どうだろう?


 ところで、このどうしようもないおばさんは、あちらの食事に対する偏見激しく、日本のメーカー製のカップ焼きそばなど購入していたようである。余ってしまったため、帰る時に、長期留学の男性にあげていた。彼はお礼を言っておばさんと別れたが、その後、近くにいた私にぽつりと言った。

「これ、食べる?こんなところまで来て、ぺ○ン○の焼きそばなんて……」

 全く同感である。

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