試験的学園都市とは

 国上から飛び出した一言は、あまりにも突拍子の無い言葉だった。そりゃあ、やれる事はやりたいがそれは難しいだろ、という言葉が喉から飛び出そうになる。

 「そんな、家遊びにこいよ!みたいなノリで誘われても困るが……」

 えぇ〜?とでも言いたげな目で此方を見ている国上、奴の一言を受けて上坂先輩まで真面目に考え込んでいる。

 「いや、そう難しいことでも無いよ。オルガノンここの基本的な教育カリキュラム自体は、白桜と他の学校で変わりはないからね。素質次第ではどうにでもなる」

 マジかこの人、このまま突っ走ろうとしてないか?本日、何度目かの強行突破を受け入れようとしている自分に驚いた。慣れとは恐ろしいもので、勢いにのまれると抗い難くなる。そんな事を考えているうちに、二人は話を進めようとしていた。

 「星下君は、学区ごとの違いについて知っているかい?」

 学区ごとの違い、そう言えば、入学する前の下調べで、少しだけ読んだ気がする。

 白桜が多様性や多文化共生を主にする校風ならば、現在いま通っている海生及び、第九学区は比較的普通科寄り、所謂、外の高校と似た様な感じだと思う。

 「なんとなくは理解してます」

 「なら良い。ここからが本題だ、此処オルガノンでは二年の終わりまでは、比較的自由に学校を変える事ができる。しかし、此処オルガノンに来る学生は、目的が決まっている生徒が多いし、稀によくあるという程度になるけどね」

 「君が海生から離れたくない、というのなら無理強いはしないしね」と上坂先輩は付け加え残りの胡麻団子に手を出している。

 「どのみち、すぐって訳にもいかねぇし夏休み明けぐらいまでゆっくり考える暇はあるんじゃねぇの?」

 転校云々の前に、訊きたいことは色々あったので、それを訊いてからゆっくりと考えることにした。

 「そもそも、アレは何なんすか?路地裏の……」

 「超常現象だよ。まぁ再現方法はある程度、解明されているから、証明された怪異や幽霊と言ったところだね」

 「裏付けがあるって事ですか?」

 「そういう事になる。学園都市の長であり白桜の学園長であるクロウリーの論文に由来する。内容自体はそこまで難しくないが、常人からすれば、か〜なり突飛だ。気になるなら読んでみるといいよ」

 「大体2、30年ぐらい前だったかな……発表された時、これが大いに世間を賑わせた!……らしい。俺も詳しい事は知らんけど、それからなんやかんやあって学園都市が出来たってワケ。あんまり現実味がなかったからすぐに忘れられたらしいけどな」

 そうなのか、と頭の中で情報を噛み砕く。

 「じゃあ、此処以外でさっきのみたいなのが出たら、どうするんですか?」

 「鋭いね君は、証明される前からあるにはあったらしいが、そういったモノを一手に引き受ける為に、此処オルガノンができたのさ。一都市に世界中の自然的な超常現象の発生を引き受ける。そのついでに、実験都市として世界の最高学府を作り上げたというわけ」

 長いな……と思いながら、更に情報を咀嚼し、思考を進める。しかし、噛めば噛むほど疑問は増えるばかりで、本筋に関わりそうな幾つかの質問を更に訊いてみる。

 「アレは無くせないんですか?」

 むぅと考え込む上坂先輩、国上は自分は専門外ですといった顔をしているが、自分なりに今の情報を再整理しているのだろう、口数が見るからに減っていた。

 「0にするというのは無理だね。あれは、人の思いや感情、歴史の揺らぎなんかが、この世界に干渉できる形として現れるものだ。そもそも幽霊や都市伝説な超常現象から、過去の英雄、妖怪や神様の類いまで現れる。そもそものスケールが違うから普通の人間の手に負えるものじゃない」

 「今更なんすけど……これって公の場で話していい事なんすか?」

 「ここまでは論文に書かれてある。ここから先が問題なんだ」

 というと、上坂先輩は空中を切る様に、人差し指で円を描いた。

 「先程からだが、対策はしてあるよ。私たち三人以外には、この会話は適当なものに置き換えられているから、そう気にすることはない」

 「いつのまに?」

 「……国上君は熱くなると、周りが見えなくなる所をどうにか出来れば、大いに成長すると思うんだけどねぇ……」

 と、呆れまじりに吐き出した上坂先輩を他所に思考をまわす。

 「じゃあ何かしらの対抗策があるって事ですよね」

 「あるとも、それが権能ギフトだ。実績や功績、意思の強さと共に発現する特殊能力、それに伴う武器や道具でないと、理の外の敵には太刀打ちできない」

 「わかりやすく言うと……自ら極めた剣術かエクスカリバーみたいな伝説の武器が必要になるってこと」

 「説明は実にわかりやすいが、今の彼一人では超常現象は倒せない。半人前という奴さ、ガーデンスケールは規格外だが、権能ギフトが発現していないからね」

 「せっかく格好つけたのに、台無しじゃないですか」

 ゆっくりと影司の方に向き直る光海理。彼を見つめる目は鋭く、意思を問いただすような眼光をしていた。

 「すでに話しておいてなんだが、ここからの話は表側日常の世界ではなく裏側非日常の話だ。勿論のこと危険は伴うし、死の覚悟も必要になる。その上で興味があるというのなら……明日の午前十時、白桜うちに来るといい。準備をはじめよう」

 「本気ですか?八重先生に知られたらなんて言われるか……」

 「ログは見せた、一応許可もとってある。優秀な芽をみすみす逃す手はないんだろうさ」

 「あの短時間でそこまでしてたのか……」

 「転校の件も、私と国上君の推薦さえあればどうにかなるだろう」

 「怖ぁ〜……そこまで用意周到だと逆に清々しいっす」

 「夜も遅い、そろそろお開きにしようか」

 影司を置いて、とんとん拍子に話を進める二人、疎外感で気まずくなろうかという雰囲気の中、影司はこれからについて考えていた。


 

 

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