結論の出ない会議

 真夏の太陽は、人類に与えられた娯楽だ。真夏の太陽を楽しもう。私は高卒である。学歴は低い。しかし、政府に出向して社会的に高い地位を得た。夏は恐怖が増加する季節だ。夏には危険が多い。まして、南太平洋を船に乗って東に進んでいるならなおさらだ。船が東へ進むたびに、破滅が近づいている気がする。地上の破滅、人類の破滅、そして、私の破滅が近づく。

 社会的に地位の高い船なので、仕事で来たきれいな女の人は多い。私は警戒心がふくらむ。お姉さんたちは、この船がどこに向かっているのか知っているのですか。私の破滅に向かっているこの船に、きれいなお姉さんがたくさん乗っているのは、危険に巻き込みそうで怖い。

 嫌な予感がする。私の予感など当たることなどめったにないので、心配することはないのだが、嫌な予感に捕らわれて仕方ない。十日間に及んだ航海で、きれいなお姉さんの一人と同室できたことはとても嬉しかった。仕事にやる気も出る。社会的地位の高い船だから、仕事のできる男がモテる。私は仕事を成功しなければならない。

 私の仕事は高度戦略会議の委員である。小学生の時に「ナコト写本」を読破して、それについて必死に考えつづけていたら、私は高度戦略会議の委員になった。そして、高卒のまま、二十三歳で南太平洋を航海するような社会的地位の高い仕事をしているのである。

 船に筋肉のたくましい男がいる。格闘家だろうか、と思っていたら、彼も高度戦略会議の委員だった。他に修道女のナタリーがいる。危険だ。みんな、危険に近づいている。

 高度戦略会議は私の重要な仕事で、軍隊では解決できない安全上の問題に対処する。例えば、地上を滅ぼすことのできる怪物はすでに存在している。そのような怪物の危機に対処するのが高度戦略会議だ。

 高卒の私が果たしてそんなに重要な委員なのだろうか。私が出席した会議では、多くの者が精神に異常をきたし、人類が破滅する理由を次々と指摘しつづけている。そのあまりにも異常な会議が、人類の行く末を決める。そして、今、私が向かっている南太平洋の島にその怪物が実在することが、私はだまされているのではなく、本当に高度戦略会議の委員なのだと、自分で再検証してもそう考えるのである。

「動物たちが怒っている。人類の領土の拡張は動物たちとの戦争を招く」

 ひとりごとをもぐもぐと喋る男がいった。

「遺伝子組み立てロボットの暴走で人類は滅ぶわ」

 きれいなお姉さんがいう。

「アリや蚊との戦いはまだ続いている。我々は人類が勝勢になったといって油断している」

 格闘家のような男がいう。

「未来人がやってきて警告している。これからたくさんの国が滅びると」

 私がいう。

「人類には早すぎた技術がたくさん開発されすぎた。もっとゆったりと発明してくれなければ困る」

 長髪のおじいさんがひとりごとのようにつぶやく。

「現在定期観察に向かっているあれだが、あれには、軍事力では、どんな強い戦力を準備しても勝ち目はない」

 私が発言する。

「あれは、我々とはまったく異質な存在だ。だから、対話や交渉は無駄だ」

 修道女ナタリーがもぐもぐひとりごとをいう。

 今日の会議は、生物学的な意見が多いな、と私は思った。

 私は、高度戦略会議で「あれ」についての対策を最も強調している。あの旧支配者の「あれ」はあまりにも恐ろしく、人類の脅威の最たるものだ。次々と課題が舞い込んでくる会議ではあるが、私は「あれ」についての指摘を忘れない。

 精神に異常をきたしたものばかりのこの会議が、人類の安全を話し合う最高意思決定機関なのである。そこでは、人類の存続は奇跡的な可能性であり、まず、存続する可能性がないので、みんな、解決できない難問にもぐもぐとひとりごとをいってしまう。

「旧支配者に代わって地上を統治する種族は何なのだろうか。いったいどの生物がそんな能力を持っているのだろうか。私は少なくてもそれは人類ではないと考える」

 私がいう。

「このままだと、この船があそこにたどり着いてしまうぞ」

 ひとりごとをもぐもぐという男がいった。

 この精神に異常をきたしたものばかりの委員たちは、これから南太平洋であれを見て、そのまま気絶するのだろうか。

 会議は結論にたどりつくことがない。このまま、人類を代表する叡智の持ち主たちがみんな自分たちの滅びにたどり着いてしまうのだろうか。

 南太平洋を東へ向かう船に異常者たちが乗っている。この航海は、考えすぎた者たちの滅亡に向かっているのだ。

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