第3話 確保と拉致
「こんなちょろい演技に騙される奴が馬鹿なだけだって?」俺は男のカメラに向かって言った。胸ポケットか眼鏡に仕込まれていると思ったが、正面から見て、帽子に仕込まれているのだと分かった。「もう一度言ってみろよ」
男は口を開けて間抜けな顔を見せてたまま固まっていた。
俺は怒りの演技を重ねた。レジにいる女を指す。「そこの女と金は山分けか? 『鏡を見て自分の民度をなんとかしろよ』ってのはどういう意味だ?」このセリフはもちろん捏造だ。いかにもでっち上げの詐欺師が言いそうなことを録画させている。こうすれば騙された方は怒りがわき、俺に賞金を払うのも気持ちがいいというものだ。
セリフを言うときにあまり動かないように気をつけた。人を片付けるときの俺は動きを止めることはほとんどない。こういう風に撮影を意識してきっちり映るようにするのは慣れなかった。ブレずに綺麗な動画にするためには必要なことだ。
男は俺を撮影していた。頭を動かさず、画面の中心に俺を撮っている。
俺はカメラのレンズに向けて指を向けて、「調子に乗ったお前には、人を騙した責任を取ってもらう」とポーズを決めた。
それからは早かった。男との距離を詰めてタックルした。咄嗟に男は両手をバタつかせたので店の棚の商品が触れた。俺はローソンの床にそいつの体を叩きつけた。頭がゴッという
立ち上がって女と子供の方に近づいた。そっちは
店長がうまい棒の代金を欲しそうにこっちを見ていた。一睨みすると口を閉じた。
黙らせるのは気持ちがよかったが、それから気が変わり、俺は「あとで代金は持ってくる」と言った。
「痛い痛い痛い」女は喚いた。
「痛い痛い痛い」俺も喚いた。
女は静かになった。認知をバグらせると人間の反応は固まる。
柱のそばに立っている喫煙首のところまで女と子供を運んだ。
まず女の手首を掴んで男の肩に置かせた。「よし。シャツの肩をぐっと掴め」手のひらの上に俺の手を重ねてぐっと握らせる。
脂汗を流している男の手を取ると女の肩に手を乗せた。「よし。お前もぐっと握れ」
男は女の上着を握り込んだ。皺が寄って放射状に波打った。
「反対の手でガキの肩を掴め」
2人はそうした。子供の両肩に皺が寄った。
「よし」俺は最後に子供の背後にまわり、子供の両手で2人の腰を持たせた。子供の手に自分の手を重ねて、「こういう風にぎゅっと掴んでおくんだ。できるな?」と言った。
子供は首を小さく縦に振った。素直に腰を掴んだ。
「よし。タクシーを呼んでくるからちょっと待ってろ」
3人で輪を作らせて放置すると、俺はバスロータリーのローソンの反対側にあるタクシー乗り場へと早足で急いだ。列に割り込み先頭のタクシーに乗り込んだ。困るよ、ちゃんと列に並んでくれという声を、頼むよ、金は倍払うと説得し、ロータリーの反対側まで移動させた。
バス停留所にタクシーを停車させ、輪になった3人を後部座席に乗り込ませた。命令すると3人とも素直に言うことを聞いた。
あとはコンビニの盗撮男だ。俺はまたローソンに入った。
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