エリート事故
帰ってきた塔の世界で暴れ回るのは本当に楽しい。
今まで積み重ねてきた対策や攻略方法を考えながら敵と戦う。
時には理不尽に殺され、時には理不尽を殺す。
それがローグライクというゲームなのだ。
「次はエリートか。ここが通れれば、中ボスまでは行けるかな」
第八階層第五ステージ。
順調に攻略を進めた俺は、第五ステージまでやってきた。
このステージはエリートステージである。
普段のオークやホーンラビットととは比べ物にならないほどに強い相手が出現し、それとやり合う事で普段よりも豪華な報酬を得ることが出来る。
しかし、その分事故率も高い。
その手のゲームに慣れており、ちゃんも攻略方法が分かっていても死ぬ時は死ぬのがこのエリートステージというものなのだ。
事故った時に立て直しがしずらいんだよね。
通常ステージではまだ何とかなる事故とかも、エリートステージになると致命傷。
だからエリートステージは、かなりの運ゲーなのだ。
俺も1回大事故を引いて普通に圧殺されているし。
「今回はアルマジロンとホーンラビットのエリートステージか。しかも、洞窟........何かと洞窟とはご縁があるなおい」
洞窟ステージをまたしても引いた俺は、嫌な予感を覚えながらもエリートステージの攻略に挑む。
まぁ、始まった瞬間に敵がいるぐらいならまだ対処はできる。
それ以上のヤベー事故を引かなければ、大丈夫だろう。
そう思いながらエリートステージを開始したその瞬間。
「ふぁぁぁぁぁ?!馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!!」
俺は綺麗に立てたフラグを回収するかのごとくとんでもない下振れを引いて、アルマジロンとホーンラビットに圧殺される。
初期位置が三方向に伸びる分かれ道で尚且つ、目の前にアルマジロンとホーンのペアが三つとか、完全に殺しに来てんじゃん!!
3方向から挟まれた挙句の果てに、エリートだから普通に強くて勝てない。
マジで........!!ほんま塔のクソッタレが........!!
いい感じにスキルカード、スキルオーブ厳選してきただけあって、その死は俺のメンタルに大きな傷をつけるのであった。
死ね!!(火の玉ストレート)
【ステージの初期配置】
ローグ君の試練の場合は、完全ランダム。そのステージに沿って配置はされるのだが、運が悪いと今回のように三方向から6体の魔物が初期配置で居ることもある。なお、滅茶苦茶低い確率でしか起きないぐらいには珍しいので、大事故と言っても過言では無い。
........
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大事故不可避。我、即死也。
目が覚める。
やってらんねーよこんなクソゲー!!初期配置であんな下ブレ引いたら、上振れてない限り普通に死ぬでしょーが!!
「あぁぁぁぁぁ........クソすぎる。どうしてちゃんと厳選していい感じに進めていた時に限ってこんなクソゲーを押し付けられるんだ」
実は塔が全部操作していて、俺が調子のいい時は潰しに来てるだろ。
そう思わざるを得ないほどにキツイ下ブレを引いて即死した俺は、頭を抱えるしかない。
萎えた。めっちゃ萎えた。
未だ昼前でもう一度潜れるぐらいには時間が有り余っているのだが、もう今日は塔に行きたくない........
「全く。仕事が終わったかと思えば、直ぐに塔の攻略に行ったのか?相変わらずだな」
「攻略者のお手本のような存在でしょ?ボコスカにされて滅茶苦茶萎えてるけど」
「ハッハッハ!!どうせ明日にはケロッとした顔で塔に行くはずさ。君はそういう人間だからね。ローグ」
イベント以外で久々にエグい下振れを引いてしまい激萎えしていると、俺が死に戻ってきた事を感知したバーバラが様子を見に来る。
バーバラは仕事が終わってから二日後にはすでに塔の攻略に戻っている俺に呆れながらも、楽しそうに笑っていた。
「ごく一般的な攻略者は、仕事後終わったらしばらく仕事をしないの?」
「少なくとも、250万も稼いだやつは暫く遊ぶだろうな。受付嬢達の中で噂になってたぞ?ミノタウロスを倒して大金を手に入れてたって」
プライバシーとかないのかな?
人の稼いだ額を噂するんじゃないよ。俺は言うてお金はそんなに持ってないからね?
そのお金の大部分はハイちゃんのために使ってるし。
ハイちゃんのブラッシングの為に、15万ゼニーもするブラシを買ったりしてるんだから。
まぁ、それでも俺自身がほぼ金を使わない人なので貯金はできていたりする。
ただ、金持ちかと言われればNOかな。何千万と言う資産がある訳では無いので........
「俺にとっては塔が遊び場みたいなものだからね。そりゃ遊びに行くのなれば、塔を登るさ」
「それが頭がおかしいと言われているのさ。遊びに命を賭けるなんて言う言葉があるが、実際に命を賭けるアホがどこにいるんだ。生き返るとはいえど、痛みも恐怖もそのままなんだぞ?」
「実際怖いし痛いよ。最初ほどは感じなくなったとしても、人間の本能には抗えないね」
「当たり前だ」
何度も死にすぎて多少は慣れてきたが、やはりどうしても死ぬと言う行為には本能的な恐怖を感じる。
死んで直ぐにケロッとしている辺り、俺は切り替えが早いタイプだとは思うのだが、それでも怖いものは怖い。
だからと言って塔に入らないという選択肢はない。
そこが、俺が“イカれている”と言われる所以なのかもしれないね。
「ちなみに、今回は何で死んだんだ?」
「アルマジロンに押しつぶされた挙句、ホーンラビットに串刺しにされた。よくある死に方だよ」
「ほう。なら痛みはそこまでか。じわじわ殺されるのがいちばんキツイからな........」
「その死に方がないことを祈るよ。と言うか、自殺のやり方とか練習しておいた方がいいかな?」
「辞めておけ。本当に気が狂うぞ。私は気が狂って暫く塔に入らなくなった事もあるしな」
それはつまり、バーバラは自殺をする訓練をした事があるという事だ。
じわじわ死ぬぐらいなら自分でさっさと死んだほうがいいと思ったが、やめておこう。バーバラの顔が本気で辞めておけと言っている。
誰かに殺されるのと、自分に向かって刃を向けるのとでは、色々と違うんだろうな。
「ま、そんな暗い話はさておき、1週間後にまとまった休みがとれるんだ。育児の為に休んでいたやつがようやく復帰するらしくてな」
「あー、そんな事言ってたね。バーバラは、ここ三年ぐらいろくに休みが無かったって」
「その分手当とか出て給料は良かったんだが、やっぱりやすみは欲しいわな。医師が風邪を引いて休むなんてこともあったし」
少し暗い話になってしまったが、バーバラが話題を切替える。
話の内容はデートの事であった。
どうやら1週間後に休みが取れるらしく、その時にハイちゃんを見せたりする事になるっぽいな。
ハイちゃんのお手入れをしっかりとしてあげなければ。
それと、もう少しだけお金を稼いでおこう。
ちなみに、この街にはギルドお抱えの医師が二人いるのだが、一人が結婚して子供を産んだために育休を取っている。
既に3年近くになるらしく、どこぞの社畜国家よりもしっかりとした育児制度が出来上がっていそうだ。
バーバラはここ3年間働き詰めらしく、それで体調を壊すこともあったらしい。
んで、その時には教会から人を持ってきたそうだ。
ギルドを除き、人々の治療を専門にしているのは教会である。この国は宗教色が強くないので、あまり感じないが、教会はかなりの権力を持っているので面倒らしい。
ムサシなんかは物凄く教会嫌いだからね。
「しっかり準備しておくよ。服も買わなきゃ」
「ハッハッハ。私はこの白衣のまま行くから、そんなに気張らなくていいぞ?」
「バーバラは白衣が似合うからそれでいいけど、俺はそうもいかないからね」
「そうか?まぁ、どうせエレノワール辺りが余計なことを言うだろうし、楽しみに待つとするよ」
こうして、1週間後にデートの約束をした俺は、もう少しだけ金を稼ぐために塔に向かうのであった。
ストレス発散も兼ねて、第一の試練で暴れるか。
後書き。
処置配置事故は防げない。
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