帰ってきたぞ塔‼︎
その日は、一日中バーバラに俺が体験した小さな冒険譚を聞かせてあげていた。
バーバラは俺の話が聞きたくて仕方がないのか、死に戻ってくる攻略者達を途中から放棄し始め、それは仕事として大丈夫なの?と思う行動をしていたが、本人が大丈夫と言うのでそれ以上は何も言わなかった。
尚、起きてきた攻略者達が俺とバーバラを見て何かを察すると気まずそうに部屋を出ていくもんだから、ちょっと........いや、かなり申し訳ない気持ちになっていたりする。
絶対攻略者ギルドで噂になってるよなぁ。俺、なんか知らんけど有名人っぽいし。
この街の大問題児エレノワールのクランに所属する新人という時点で、かなり目立っているのだろう。
この世界に馴染むために色々と姿を弄ったり、名前を変えたりもしているのだが、それでも限界はあるのだ。
しかし、これは最早実質的なデートなのでは?
ご飯を一緒に食べて、医務室で話す。それだけで、経験のない俺は若干浮かれていたのは言うまでもない。
バーバラが女性だからとかそういう話ではなく、単純に誰かと一緒にその日を過ごすのが楽しかったというのあるが。
日本にいた時は、信じられない程にぼっちだったからね。体育で名簿順にペアを組まされる方式だったのが、本当に助かっていた記憶がある。
さて、そんな楽しい時間が過ぎ去り翌日。
この五日間甘えられなかった分甘えてくるハイちゃんを可愛がってあげた俺は、再び塔の世界へとやってきていた。
俺は攻略者であり、攻略者の仕事は塔を昇ること。
しかも今は厳選済みのスキルカード、スキルオーブ持ち。
攻略しない理由がない。
もちろん、塔の外で得たスキルカードは塔の中では反映されないので、強くてニューゲームなんて事はできないのが悲しいところだ。
「ハッハッハ!!帰ってきたぞ塔!!そろそろ中ボスの顔ぐらい拝ませろや!!」
久々の塔攻略というのもあって、テンションが高めな俺は中断セーブから再開するとルート選択に入る。
今日こそは第七階層は突破したい。どうせ初見中ボスに殺される未来は見えているが、それでも俺は挑むのだ。
「んー、この画面も久々だな。一週間近くも見てなかっただけに、新鮮さがあるぜ」
いつもならばイベントが少ないことを祈るステージ選択も、今日に限っては何が来てもいい気がしていた。
やはり俺はローグライカー。ローグライクが人生であり、ローグライクに喜びを感じる一種の変人なのである。
「ルート的にはここが一番いいかな?初っ端からイベントステージだけど、それ以外はイベントステージは無いしエリートも踏めるし」
色々とルートを吟味した結果、最初からイベントステージを踏むルートを選択。
最初の運ゲーを乗り越えられれば、あとは通常ステージとエリートステージを攻略するだけのルートだ。
ここで下振れを引いたら、今日は萎えて寝るかもしれん。
「上振れなくていいから下振れるな!!」
俺はそう言いながら、イベントステージを選択。
そして運命のイベントが始まった。
『祠に入ると輝く光が見える。その光に手を伸ばしますか?
1.手を伸ばす(スキルカード“シャイニング”を獲得)
2.やめておく(ランダムなスキルカードを1枚獲得)』
うーん。普通かな?
取り敢えず下振れは引かなかっただけマシだが、上振れでもない気がする。
そして相変わらずこの塔の試練は優しくない。
あのすいません。その“シャイニング”の詳細を見たいんですけど。
多分光属性を追加とか、属性に関するスキルカードだとは思うのだが、こういうのでまれにエッグイデメリットを掴まされる時がある。
ほとんど無いけどね。ほとんどないけど、それがあると知っているとやはり警戒してしまうのが人間というもの。
当たる回数の方が多いのに、外れた時のことを考えてしまうのが人間なのだ。
「流石にこの名前でデメリットは無いと思うけどなぁ........どうなんだろう?松明の加護みたいなやつよりは想像しやすいし、オーブじゃなくてスキルカードだから、被害も少ないと思うんだけど........」
悩みに悩み、俺は一つの決断をする。
シャイニングがデメリットの可能性はかなり低いだろうし、取っちゃうか。属性攻撃もちになれば、それだけ火力は上がるのだ。
というわけで、手を伸ばすを選択。
そして、俺にスキルカードが与えられた。
「えーと、スキル1に光属性の追加攻撃を付与。よーし!!予想通りだな!!しかも、使い勝手のいいスキル1に着いた!!」
俺、大勝利。
今回は、ちゃんと当たり枠のスキルカードだったらしい。
属性付与関係のスキルカードは結構出てこないからね。これだけ塔に挑んで、まだ二、三回しか見てないし。
多分、今の攻略に属性とかそこまで重要な要素ではないのだろう。
この属性のスキルカードの抽選が多くなってきたら、属性攻撃を意識し始めた方がいいかもしれない。
「早速使ってみるとするか。えーと次のステージは........オーク達の洞窟かよ」
またオークかよ。もう見飽きたよ。
しかも、ご丁寧に洞窟ステージと言うのがいやらしい。
塔くん実は、俺の行動見てたりする?
「いやまぁ、やるけどさ。アルマジロンとかの方が良かったな。アイツら殺し方えぐいけど、ちょっと可愛いし」
それはブーたら文句を垂れつつ、オーク達の洞窟へ入る。
どうやら入った瞬間戦闘のクソ初期位置は引かなかったらしいので、そのまま壁を背にしながら先に進んだ。
「ブモォ........」
「よぉ、久しぶりだな!!ってことで死んどけ!!槍投げ!!」
塔の中で出会うのは久々なオーク達に向かって、俺は槍をぶん投げる。
もちろん既に六槍の構えは発動済み。
投げた槍を補充しつつ、俺は火力を出しに突撃した。
「槍投げ!!扇!!刺突!!」
相手は二体。片方を槍投げで牽制しつつ、残ったもう片方にスキルを吐く。
やはり塔の中にいる魔物は強化されているのか、塔の外で出会ったオークよりも頑丈だ。
扇で相手の膝を崩し、頭に向かって刺突。
ゲームと違って部位ごとに与えられるダメージが違うので、できる限り頭や心臓と言った急所を狙う。
ピュン!!
そして、スキル1刺突を使ったと同時に槍の矛先が光り輝き、オークの顔に追加攻撃を与えた。
本来ならば、まだ耐えていたはず。しかし、追加攻撃はオークに有効なのか、たった3発でオークは倒れる。
おおっ、スキルカードとオーブを厳選したのもあるが、火力が目に見えて高いな。これならかなり楽に第七階層を突破できるかも。
それに、本当に命を懸けた実践をしたおかげか、動きがかなり良くなっている気がする。
ミノタウロスとかいう明らかに強いやつを前に戦ってたからか、冷静さをしっかりと保てているな。
その流れで残りのオークも撃破。
以前ならかなり苦戦したはずの二体のオークは、少し積極的になった立ち回りのおかげでかなり楽に倒せるようになっていた。
槍の練度が高くなったのはもちろん、逃げ腰に戦うのではなく前に出る戦い方を覚えたのも要因の一つだろう。
適度な攻勢はやはり必要であるというわけだ。ビビってちゃ、本来の火力は出せない。
「ひとつ大きな成長をした気がするな。この調子で第七階層をクリアしてみるか。そしたらポイント沢山貰えるだろうし」
どうせクリアしても死ねば最初からになってしまう。しかし、クリア出来たという事実が自信へと変わるのは間違いない。
ローグライクはメンタルゲーの側面もあるのだ。
俺は、久々のローグライクが楽しすぎて、ずっと顔が笑っていた。
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