モフモフは正義


 ギルドマスターへの報告を終えた俺は、無事に大量の報酬を受け取ると攻略者ギルドの横にある医務室へと足を運ぶ。


 もちろん理由はバーバラに会うためだ。


 昨日は疲れていたので顔を出せなかったが、俺が無事に帰ってきたことを伝えるのは大切だろう。


 エレノワール達を除けば、この世界で一番仲のいい人だしな。


 死ぬ度に顔を合わせるもんだから、最早それが日常ですらある。


 エレノワールに出会わない日の方が珍しいぐらいなのだ。


「バーバラ、元気にしてるかな?聞いた話だと俺の心配をすごくしていたらしいけど」


 何時もは凛として落ち着いた雰囲気のあるバーバラだが、どうもギルドマスター達の話を聞く限り俺の事をとても心配していたらしい。


 心配されるということは、それだけ親密な関係を築けているという事。


 少なくとも友人ぐらいには慣れているといいなと思いつつ、俺は医務室の扉を開いた。


「ん?怪我人────ローグ!!」

「ただいまバーバラ。わっぷ!!」


 扉を開くと、そこにはいつものバーバラの姿が。


 バーバラは最初怪我人がやってきたのかと思ったらしいが、俺を見てパァっと顔を明るくすると俺の所まで駆け寄ってきてハグをする。


 服の上からでも分かるモフモフ........やはりバーバラのモフモフはすごい。


 そして、高校生男子にはちょっと刺激が強すぎる。


 バーバラは確かに獣に近い獣人なのだか、骨格や体の特徴は人間とさほど変わらない。


 つまり当たるのだ。その、女性特有の柔らかい場所が。


 俺も男であり思春期真っ盛りの男子高校生。煩悩にまみれ、除夜の鐘でも消しきれないそのおめでたい頭はいやでもそれを意識してしまう。


 エレノワールの時は何も感じなかったんだけどな........やはり俺はエレノワールを一人の女性として見ていないのかもしれん。


「良かったぁ........!!すごく心配したんだぞ?!怪我はないか?少しでも身体に違和感があれば言うんだぞ?私の持てる全てを持ってして治してやろう!!」

「いや大丈夫だよ。色々とあったけど、何とか無事に終えられたしね」

「それは良かった。本当に良かった。もしもローグに何かあれば、ギルドマスターを殺すところだったよ」


 ハッハッハ!!と笑いながらそういうバーバラ。


 ........ギルドマスターっ本当に大変なんだな。特にエレノワールが絡む仕事とかになると。


 今後俺に仕事とかしたくないでしょ、これ。


 俺にもしもの事があったら、エレノワールとバーバラが殺しにくるんだよ?俺がギルドマスターの立場なら、絶対に仕事の依頼はしたくないね。


 俺が無事に帰ってきたことがとても嬉しいのか、ずっと俺から離れず抱きしめながら頭を撫で回すバーバラ。


 普段あんなにも落ち着いた雰囲気のバーバラだが、ここまで感情を出すなんて珍しい。


 俺も久々のモフモフが心地よく、それに癒されていた。


「........チッ、気分がいいのに来客か」

「来客?」

「塔に入ってすぐ死んだバカが来たんだよ。ちょっと待っててくれローグ」


 バーバラはそう言うと、やっと俺を離す。


 こんな時でもちゃんと仕事はする。流石はバーバラだ。


「んあ........クソッ死んじまったぜ」

「死んじまったぜじゃねぇよこのタコスケが!!こんな朝っぱらから私を働かせるんじゃねぇ!!」

「バーバラの姐さん?何をそんなに怒って........」


 やってきたのはゴリゴリムキムキのマッチョな兄さん。あ、この人俺が初めて攻略者ギルドに来た時に喧嘩してた人だ。


 この人も、ちゃんと攻略者として塔に潜ってたんだな。


 そしてら俺と目が合う。


 彼は俺とバーバラを見て何かを悟り、そして全力で土下座した。


「空気が読めず本当に申し訳ありませんでした。今すぐに退出いたしますので........」

「分かったら失せろ。このバカチンが」

「へい!!あざました!!」


 そう言って爆速で医務室を出ていくムキムキのお兄さん。


 バーバラの“姐さん”?しかも、なんか滅茶苦茶バーバラの事を尊敬しているような視線だったな。


「ったく。あのバカは昔から変わらんな」

「あの人、よく見かけるけど何かあったの?」

「ん?あぁ。あのアホは昔かなりヤンチャでな、私が躾けたことがあったのさ。医務室で剣を振り回すアホだぞ?そりゃ殴るさ。で、ボッコボコにしたら姐さんと呼ばれるようになった。それだけさ」


 サラッと言っているが、相当やべーことしてんだなあの兄ちゃん。


 そしてそれを鎮圧できるバーバラも強い。


 何気にバーバラってかなり強いよな。普段優しく撫でるその手だが、ギュッと強く握られたら抵抗できなさそう。


「さて、邪魔も入ったが、仕切り直そう。聞かせてくれないか?ローグの初めての冒険譚を」

「いいの?仕事中でしょ?」

「なぁに、基本私の仕事は暇なんだ。どっかの誰かみたいに毎日のように死んでくるような奴は居ないからな」

「あはは。いつもお世話になっております」

「気にすんな。私もローグが来る時間を楽しみにしているんだよ」


 こうして俺は、昨日も話した小さな冒険の話をバーバラにもしてあげるのであった。


 後、デートの予定も決めておいた。来週には育休をしていたもう1人の医師が帰ってくるらしく、その時にバーバラも休みが取れるそうだ。


 来週は色々と準備しておかないとな。人生初デートだし。



 ────────



 ギルドマスターの部屋は、基本的に職員の案内によってしか入ることは出来ない。


 しかし、中には例外というのが存在する。


 我が物顔で扉もノックせずに入ってきたその人物を見て、ギルドマスターは頭を抱えたくなる気持ちを抑えながらも今回は必要な訪問であるので文句は言わない。


「どうだった?」

「よく出来た子だ。真面目で少年らしい子だ。そして、バーバラが気に入るのも分かる」

「だろう?ローグはこの世界に来た変わり者達の中でも比較的温厚で真面目な子だ。攻略者としての才能がずば抜けているという点を除けばな」


 やってきたのはエレノワール。


 ローグの所属する“ブレイクタワー”というクランの創始者であり、この街においてその名を知らないものは居ないほどの実力者。


 彼女はソファーにドカッと座ると、ギルドマスターが机の上に置いていたハルバードに目を向けた。


「やっぱり気がついたか?」

「当たり前だ。こんなにも質の良い武器を持ったミノタウロスが自然と発生するわけが無い。あ、そういえば、本当に手は出てないんだな?」

「あぁ。ローグの仕事だ。心配だからついて行ったがな。ミノタウロスの討伐数やローグが持ってきた素材は全てローグ自身が倒したものだ。私の名前に誓ってそれは嘘じゃない。ただ、ミノタウロスを倒した後に緊張が解けて寝ちまってな。その時に護衛をしていたから、少しだけ手助けはしている」


 洞窟の調査は本来その手のものが得意な攻略者に任せるはずであった。しかし、ローグに任されたのには理由がある。


 それは、エレノワールを間接的に動かせるからというものだ。


 エレノワールはとても仲間思いで、心配性。ローグを使ってエレノワールを動かせれば、より正確な情報を手に入れられるのである。


 尚、ローグがかなり真面目に仕事をこなしてくれたおかげで、想定以上の収穫があったのだが。


「........まぁいい。ミノタウロスの討伐ができただけでも素晴らしい実績だ。本当に期待の新人だな」

「全くだ。さて、そのハルバードについて話そうか。面倒事になるかもしれんしな」

「分かっている」


 こうして、エレノワールとギルドマスターの話し合いが始まった。


 しかし、それらの真実を知るのはもう少し先の話である。





 後書き。

 バーバラのモフ度はゼンゼ○に出てくる、獣のおにーさん(執事)ぐらいのイメージ。

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